夜明けの月
華恵さんの“恋人”の……風俗嬢のミスディオ(源氏名 紗英)さんのお話です。
4本目の客はオールで……
こちらへ出張に来る時の“夜のお供”に私を呼ぶ鈴木さんだった。
で、私は今、ラブホ備え付けの電気ケトルで彼にモーニングコーヒーを入れてあげてる。
「いつもラブホに呼んでもらえるのはありがたいんだけど……大丈夫なの? 私ならビジネスのシングルで“時間切り”でも平気だよ。そういう客もいるし、何とかなるもん」
「えっ? なんで?」
「んー 私が気にすることじゃないんだけどさ、会社で宿泊費の精算の時に困らない? ラブホだと……」
「ああ…… そういう事! ウチは宿泊費一律7000円支給だから領収書は不要なんだ」
「そっか、アハハハ つまんない事、聞いちゃったね。ハイ!コーヒー!」
鈴木さんは手渡されたコーヒーに一礼して言ってくれる。
「ありがとう。そういう気遣いを紗英ちゃんはしてくれるから……好きなんだ」
「ウフフフ 照れますねぇ~その言われ方は……こちらとしてはホテルじゃなく私にお金を掛けて欲しいからさ。確かにオールなら私もゆっくりできて……楽して稼げるって感じだけど、それよっか回数呼んでくれた方が私の“実入り”はいいんだ!」
私の言葉に鈴木さんは笑いながらバスローブを脱ぎ、シャツに手を掛けた。
「あ、ちゃんと指輪しなよ!」
「指輪か……紗英ちゃんとの恋人タイムも終了だなぁ~」
「その物言いだと、私との事は“遊び”じゃなく“不倫”になっちゃうじゃん! 奥さん気の毒だよ!」
「つれないなあ~紗英ちゃんは」
「だから私の事はお金で釣って! キスしてあげるから」
そう言って私は……鈴木さんに“ちゃんとした”ディープなキスをしてから、首に回した腕をほどいて手のひらで彼の頬を包んだ。
「また呼んでね」
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ホテルを出て、鈴木さんとは別の方向へ歩いて行く。
本当は……オールは“楽”とは言えない。
一晩中、どこかで神経を尖らせているし、当然の事ながら熟睡もできない。
それに……
鈴木さんはいい人だけど……イビキがうるさい。
逆にこっちがイビキかいてもマズいしね。
見上げると“ほぼ満月”が色を抑えた空に浮かんでいる。
頭の中に小鉢の中で光っている生卵の黄身が浮かぶ
そして、鼻にドスン!とした匂いの記憶が……
「ああ~牛丼食べたい!!」
“4本”の通過の為ではない別の類の下腹部の痛みが
いつの間にか、もんやりと居座っていて……
私は頭の中の“カレンダー”をチェックしてみる。
どうやら今回は
ちょっと早いようだ。
仕事はしばらくお休みだな……
さて
“役立たず”の私は
どうすれば良いのか……
差し当たって牛丼食べて
ドラッグストアとコンビニを
ハシゴしよう。
終わり
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