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喪女 華恵さん  作者: 黒楓
15/24

食わず嫌い

「塩煎り銀杏、こっちにも! あと、これもう1本!」


 向うのオーダーを小耳に挟んだ私のいいひと(ミスディオさん)がワタシに傾けていたビール瓶を持ち上げてオーダーを入れる。


 オーダーを聞いたマスターがこちらをチラリと見るので、ワタシは軽く頷いた。


 そんな所作をミスディオさんが見逃す筈はない。


「何、ふたりでアイコ(ンタクト)してるの?!私と言うオンナが居ながら」


 グイっと顔を寄せて

「さあ、白状しろ!」

 とミスディオさんの瑪瑙(めのう)の様に輝く爪で顎にいたずらされたワタシは完全に“ネコ状態”でグニャグニャになる。


「むにゅにゅ 許してぇ~! ワタシ、銀杏が苦手なのよ~!! クサイから!」


「あっ~!!華ちゃんが私に職業差別的な事 言った!! 私がオトコのそーゆー感じのニオイに塗れてるって!! エーンッ!!」


「エエッー!! 違う違う違う!! 絶対!!」


 ミスディオさんが泣き真似してるとは分かっていても、()()()()弱みでワタシは落ち着いては居られない。


「お願い!聞いて!! 今からちゃんと理由を話すから!!」


 ミスディオさんはグフフと笑いながら顔を上げてキラキラ長いまつげを瞬かせる。


「言ってみ!」


 で、ワタシは話し始めた。



 --------------------------------------------------------------------


 小学校5年の時の担任がクソでさ!


「来週月曜日は課外授業をするから汚れてもいいような体操着で来るように」っていう訳さ!


 ちょうど今くらいの時期で朝晩は涼しいけど昼は暑いじゃん!


 だから、日中はどうしたってジャージとか脱がざるを得ないんだけど、途端に()()()()担任はせわしなく女子注意に回るわけ! おぞましい以外の何物でもないんだけどさ!


 そうやって自己の趣味を満足させながら引率していった先は銀杏並木が立ち並ぶ公園で……何をやらせるのかと思ったら、みんなで一斉に手袋はめて銀杏拾い!


「なってる木はメスだけどタマは2個だからなあ、あんまりシワシワなのは拾うなよ!剝くのが大変だからな」


 これをしゃがんでいる女子たちを後ろから眺めて言い回っているんだからヘンタイそのもの!!


 男子はその言葉に悪ノリして、形はさくらんぼみたいなオレンジ色の実を股間に当てて


「クッセ~!!」とかやってるし!!


 それだけでも吐きそうで手もかぶれたのに、まだ後日談があるのよ!


 学校の中庭にあった干上がったコンクリ池に、拾って来た実を山の様に入れ、ホースで水びたしにして腐らせたの!


 ご丁寧に『5年3組フィールドワーク分』って立札まで立てて!


 その1週間後にやらされた、腐った実からの種取りも本当に悲惨で……女子二人、男子一人がトイレに駆け込んだんだよ!


 ワタシは……吐きはしなかったけど“あのニオイ”はトラウマ!!


 だから銀杏はダメなの!



「ふ~ん! 銀杏って大変なんだねえ、この美味しさを有難~くいただかねば」


 ワタシの“涙ぐましい”話と銀杏の塩煎りをツマミにビールをクイッ!と飲りながらミスディオさんはサラリと感想を述べた。


 そんなカノジョにワタシはちょっとだけムカッ腹を立てる。


「ホントはアンタがそれを食べているのを見るのも辛いんだからね!」


「そんな悲しい事、言わないでよ! そしたら私、華ちゃんとキスもできないじゃん!」


「エエー??!! だってそれは違うでしょ?!」


「違くないよ! 私なんて銀杏どころか人間のオスの……()()()()()()()()()()口にしてるんだよ! ゴメンね 華ちゃんが穢れるね! たった今、別れよ!」


 そんな事を言われてワタシは半泣きになってミスディオさんに抱き付く。


「ヤダヤダヤダヤダ!! 絶対にイヤッ!!!」


「だったら銀杏食べてみて」


 そう言って、ミスディオさんは琥珀の爪でヒスイの様にツルンと光る銀杏を摘まんで私の口にキュッと押し込んだ。


 イヤイヤ口に含んで、ビールで流し込もうとしたら、めっちゃ!酒に合う!!


「美味しい!!」


「でしょ! 華ちゃんの食わず嫌いがまた一つ減ったね」



 そうなんだ!

 ワタシはけっこう食わず嫌いにブチ当たる。


 そのあだ名の通り、いつも素敵な香りがするミスディオさんの事も……最初は“食わず嫌い”だった。

 それが今では……指を絡めるだけでドキドキが止まらない。



「そう言えば、そんなに苦労した銀杏はどうなったの?」


「ああ、あれは“クソエロ担任”が行きつけの居酒屋へ言い値で売っ払ったらしい」


「もの凄いクズ度だねえ~」


「まったく!!……あの“クソエロ担任”のお陰で、図らずもクズエロ親父への耐性ができてしまったよ!考えた事も無かったけど」


「華ちゃんの会社もクズエロ親父だらけらしいからね だからさ! 今は美味しくお酒飲んで……その後はお互いを慰め合おっ!」

 そう言ってミスディオさんは私の頬に素早くキスをくれて……


 ワタシは飲んだ後の“甘いデザート”を思い浮かべて、酔ってもいないのに

 顔を赤らめた。




 

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