昼間っから心地よくビールを飲るには
暑い!!
図らずも窓際族(古いねぇ~)の私の背中を日差しがジリジリと焼いて行く。
蛍光灯の灯の下だと…中に居る(脳内エロ中2病のハゲを筆頭に)オヤジたちがゾンビか化け物にしか見えないので、本当はドラキュラ退治の陽射しを入れておきたいのだけど…仕方がない。私はブラインドを下ろす。
席に戻ると……珍しく“新人つまみ食い子ちゃん”がげんなりとした顔で寄って来た。
食い子ちゃんとは、山口くんの一件以来気まずくなっている。
食い子ちゃん、山口くんに結構押しの強いアピールを繰り返していたのだが…カレが“なびかない”理由がどうも私にありそうだと嗅ぎ付けて来て、ものすごく!!!!プライドが傷付いたらしい。
それがカノジョの目を曇らせて、山口くんをメガ盛りで熱く見ていたようだが……最近ようやくそれも醒めて(はい! なんとうちの会社にインターンシップ就活で学生くんが来たの!! カノジョ、その子の“指導”をことごとくシてしまった。 ホントすごいよ。五目くらい置いちゃうよ。オネーサンは)気まずさの原因は軽減したが…カノジョにとって私が敵であることには変わりがないらしい。
という背景で……
「センパ~イ! お願いがあるんですけど……♡」と寄って来たわけだ。
おいおい! その猫なで声! こっちは背筋凍るんですけど……
「キャリー貸していただけます?」
見ると向こうのテーブルの上、チラシ、封筒、書類が山盛りだ。
あ~!! 郵便局にDM持って行きたいのね。今更DMとは!!思いつくヤツの見当は付くが……
「ごめんね、キャリーさ! こないだゲットした中元ビール3箱を持って帰るのに使っちゃって……家に置きっぱなんだわ」
「ああそうなんですか……あの時のセンパイはジャンケン鬼神でしたもんね! 私も1ケース欲しかったのに……」
「許せ!とは言わんよ!ビール争奪は“仁義なき戦い”だから」
「心配しなくてもセンパイのモノは取りませんよ」
その言葉の“柔らかさ”に私はオトナを感じた。そう来られると、私はついつい気持ちを緩めてしまう。
「DMでしょ? 郵便局へ持って行くの手伝うよ。何時頃の予定?」
「それが……(と食い子ちゃんは困った顔を作りながら)朝、パソコン立ち上げたら送付先リストとともに『オレ、直行するから頼む』ってメールが入ってて、まだ挨拶文を作っている最中なんです」と向こうの壁の行動予定表のホワイトボードを目で指す。
『土肥田』か!?
やっぱりアイツだ!!
食い子ちゃんよ! キミも少しばかり“邪悪”だが、この方面はまだまだ私の足元には及ばない。
で、カノジョの耳元にそっと囁いた。
「アイツはそのうち居なくなるよ…だから今日のところはガマンして片付けてしまおう」
で、私たちは共闘する事となった。
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「クハッ!! 暑いっ!!」
郵便局へDMの塊を4つ放り込み、また灼熱の街中へ出ると、食い子ちゃんはタックブラウスの襟元にくっついているメタルパーツに人差し指を引っ掛けてパタパタする。
いつもは日傘でガッシリ守っている白肌の照り返しが眩しい。
そして色っぽい。
そうなんだよね。
こーゆー事がワタシャ苦手なんだ。
なので私の側へ話を引っ張る。
「さっき缶ビール1ケース欲しかったって言ってたけど。飲める方?」
「そうですね。少なくともオトコの前で潰れた事、ないです」
「頼もしいね。 こういう日はジョッキで飲りたいよね、ねっ!今度行かない?」
「モウ!センパイがこの炎天下でそんな事言うから……飲みたくなっちゃうじゃないですか!!」
さすが食い子ちゃん!! 若さが汗さえもキラキラ眩しくさせている!
でも私の喉は別の意味でゴクリ!と鳴る。
「ついでだからお昼しよ! いいところがある」
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カノジョを……とある雑居ビルの入り口に連れて来た。
目的の地下からは既に求める香りが立ち上って来る。
「カレーですか?」
「そっ! 暑気払いカレー」
地下へトントンと下りて行って、ドアを押し開けると間接照明の店内からカレーの匂いが押し寄せて来る。
「ふはぁ~!! これは惹かれますね!」
私は軽く頷いて、顔見知りのマスターに「カレーセット(サラダとタンドリーチキン付き)と生ビール(もちろん大)」と指2本立てた。
二人して“軽い背徳”にクツクツ笑って乾杯し……
カレーバクバク、サラダバリバリ、チキンをモシャモシャ
で、ビールゴクゴク
「ひゅああ サイコー」ご機嫌な食い子ちゃんは私にそっと耳打ちする。
「さっきの話の続きですけど……潰れたオトコの子をお持ち帰りしたことがあります。前の会社でスッゴクタイプだった子! でも、期待はずれでした」
さすが食い子ちゃんだ!!
どの“食いっぷり”も小気味良い!!
ブクククと笑う私に食い子ちゃんはちょっとした疑問を投げかける。
「でもこのカレー 結構ガーリック利いてますけど……」
「それがミソなの! 心地よくお昼にビールを飲むためのね! あなたはただ『センパイに連れられた』とだけ言いなさい」
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オフィスに戻ると案の定「お前らニンニク臭い!!」と言われ、食い子ちゃんは『センパイに連れられた』と言って周りの同情を買い、私は「カノジョは華ちゃんとは違うんだから!」とのお言葉を頂戴した。で、それで話は済んで少し経ってから私は食い子ちゃんをちょいちょいと手まねきした。
「ククク! またビールですか??」と食い子ちゃんは囁く。
「や~ね~ まだ日が高いのに、そんな事しないわよ」とウィンクしてカノジョに『息ケア』のグミを勧める。
「お腹の中の“ビール臭”にも効くわよ」
「ごめんなさい。私、ハッカ系、ダメなんです~」
「あら、あなたでも苦手があるんだ」
「ありますよぉ~私はキチンと好みがあるコなんです!!」と食い子ちゃん頬を膨らませる。
その仕草が可愛いので私はレモン系の『息ケア』をその口に放り込んでやると、今度はキューンと顔をすぼめた。
「すっぱい!!」
「おやおや。好みがうるさいねえ~」
「そうですよ!! でもセンパイは私の好みはお分かりでしょ? だから“暑気払い”に連れて行って下さいな」
こうして私に…ちょっと“邪悪な”可愛い後輩が出来た。
“新人つまみ食い子ちゃん”ある意味、名前通りの凄い行動力の持ち主ですが…とっても可愛い子なので宜しくお願い致します。<m(__)m> by黒楓と華恵
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