裏切りの雨
最後の作品への思い入れは、今も変わらない。あれは自分の出せる限りの力を尽くしたと思っている。
空港へ吸い込まれていく車は、やがて屋根に守られた薄暗い空間へと潜っていく。
時計を見ると、自分が想定しているフライトならギリギリだった。
駐車場内の込み具合も微妙で、この車の持ち主には悪いが、いざとなったらおりこうさんにこんな列に並んでいる余裕はなくなるかもしれないな、と蒼汰は溜息をついた。
でも、なぜ自分はあんなに焦ってしまったのだろう?
今の焦燥感のようなじりじりと胃の底を焦がすような感覚を、あの頃はずっと感じていた。
映画を作り始めてからも、神崎川が何かを完成させる度に、見えかけたゴールが遥か先に行ってしまい、その事への不甲斐なさに腹が立っていた。
でも、それだけじゃない。
同じ舞台に立つという事は、言い訳なしに同じ物差しで測れてしまうってことだ。
予算関係や雑務は、青が器用にこなしてくれていた。藍や桃も、自分が映画製作だけに心を砕けるように、随分とそこらへんの仕事は助けてくれていた。
4人でやっと神崎川と紅、二人分の仕事になんとか追いついている。そんな感じだった。
蒼汰は苛立ちを誤魔化すように煙草を口にくわえた。香ばしいその毒の味は、本当は何にも解決なんかしてくれない。
結局、埋められなかった差も越えられなかった壁も、みんなみんなそのままだ。
彼らの卒業の追いコンの帰り、酔っていてあんまり覚えていないが、青が自分を背負って帰ってくれたんだっけ。
「青」
泣いたのかもしれない。その時は……。
彼らのキスを目の当たりにした時も、彼らが卒業した時も、本当は泣きたいほど悔しかった。
逃げ出したいほど苦しくて、無理やりにでも忘れられたら、そう思いもした。
もしかしたら、それでも諦めなかったのは、彼女が口にしないでいてくれた別れの言葉がまだない事に一縷の希望を持とうとしていたのと、青が自分をそうやって支えてくれたおかげだったのかもしれない。
なのにどうして、あの時も今も、自分はそんな親友を裏切ったのだろう?
そう、あの焦りは裏切りに近かったんじゃないか?
一人で空回りして、一人で突っ走って。
「ごめんな」
もう、傍にはいない親友。突き放したのは自分なのに、蒼汰は口に広がる誤魔化しの味が全く役に立っていないのに気がついた。