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狐娘は魔法剣士?  作者: 葛の葉
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第8話 もしかして私って凄い?

「居た居た……うわぁ、随分と大きな牙猪ね」


リリムちゃんが私に用意してくれた依頼は畑を荒らし家畜を襲う巨大な牙猪の退治。

牙猪は魔獣の中でも攻撃力が高く、その名前の由来になっている口元の牙は危険極まりない。

巨体を活かして突進して来るから撥ねられたりしたら大怪我をするか、場合によっては死んじゃうかも知れない。

でも狐人の私は感知能力に優れている。

敵を捜し出して風下から忍び寄り奇襲をかければ確実に勝てると言うのがリリムちゃんの見解ね。

属性的にも優位だし。

ちなみに狐人は属性的に言えば火の属性だから土の属性の牙猪が相手なら戦いは有利になる。

他の属性で言えば…… 水は火に有利、土は風に有利、風は水に有利。

光と闇は他の属性との優位性は無く、光と闇が相手なら相殺されると言う感じね。


魔力を持つ者は体内に属性毎の魔水晶を持つけど、それは人間と敵対する妖魔達も同じだったりする。

例を挙げるとゴブリンは火、トロルは土、ハーピーは風と言った感じね。

魔水晶には先に説明した通り、基本的に火・水・土・風・光・闇の6種類が存在するの。

それらは私達の日常生活には欠かせない物で煮炊きには火の魔水晶が使われるし、光の魔水晶は夜の暗闇を明るく照らしてくれる。

更に水と風の魔水晶を合わせれば氷が出来たりと組み合わせ次第で色々と使えるわ。

だから妖魔や魔獣を倒して魔水晶を得る事で冒険者の生活が成り立っていると言っても過言では無い。


「ふふふ、餌に夢中なってる今がチャンスね…… 狐火!」


今は周囲には誰も居ないから無意味な詠唱は省いておきましたよ、ええ。

私が生み出した青い炎が牙猪の頭の上で分厚い毛皮を焼きながら燃え始める。

相手を包み込むような大きな炎は作り出せないのが狐火の弱点かも知れない。

突然の出来事に驚いた牙猪が鉄をも溶かす高温の青い炎には耐えられず苦しみながら激しく咆哮する。

その巨体を震わせて何とか炎を振り払おうとするけど、狐火はそう簡単には振り払えませんから!

私はチャンスとばかりに細剣を抜き払い牙猪へと突進する。


「こっちにも狐火!さぁ、これを食らいなさい!」


そして青い炎を纏った細剣を慌てふためく牙猪の首筋へと突き立てる。

硬い筋肉の鎧なんて1万度に到達した細剣の刃にかかれば何の意味も無い。

バターみたいにサクッと刃が突き刺さる。

次の瞬間、牙猪はガッ!って声をあげて呆気なく崩れ落ちた。


「ふぅ……思っていたより簡単だったわ。もしかして私って凄い?」


でも面倒なのはここからだったりもする。

魔水晶は生物の心臓や核の近くに存在するからナイフなどで切り裂いて体内から取り出さなきゃならないの。


「ううっ……血生臭い……近くに水場は無いし最低……」


分厚い毛皮や筋肉の奥にある牙猪の魔水晶を苦戦の末に取り出した私はホッと一息を吐く。

高温になった細剣なら簡単に突き刺させるけど貴重な魔水晶も破壊しちゃう恐れがあるから使えないし。


「肉の解体は依頼のあった村人にお願いしましょう。私一人じゃ日が暮れちゃうわ」


村へと戻って牙猪を退治した事を告げると嬉々として畑へと向かう村人達。

貴重な肉を腹一杯食べられる機会だものね。

私一人なのと女の細腕だけで大量の牙猪の肉をマリアナまで持って帰れる訳も無いし、依頼のあった村で買い取って貰う事にした。


「冒険者様、お風呂を用意しましたから此方へ。それにしても可愛らしい少女が一人で巨大な牙猪を倒すなんて流石は冒険者だと村の皆が話していますわ」


お風呂!小さな村だし水浴びが出来れば幸いと思っていたのに、ここでもお湯に浸かれるなんて思ってもみなかったわ。


「そんなに褒められたら恥ずかしいです。それ事よりも、お風呂!早速入らせて貰いますね」


良かったわ、全身を綺麗サッパリ洗えちゃう。

そして案内されたのは村が作った共同浴場。

流石に個人でお風呂を所有するのは無理があるものね。


「脱衣所に着替えも用意致してありますから使って下さい。その服は私が血抜きをした上で洗っておきます」


う〜ん、何から何まで嬉しい限りだわ。

気分良く服を脱いでいるとクスッと笑う声がして振り返る。


「あっ、申し訳ありません。可愛らしい尻尾が左右に大きく揺れていたので、余程お風呂が嬉しくて仕方がないだと思ってしまい……」


無意識の内に尻尾を振っていたみたいね。

恥ずかしいわ……


「い、いいえ〜それではお風呂を堪能させて貰いますね」


逃げるように洗い場へと向かう私。

桶にお湯を入れて汗と付着した血を洗い流す。

マリアナの道具屋さんで購入した良い香りのする石鹸を持って来ているから綺麗に洗い流せるし我が身から漂う香りもいい感じ。


「はふぅ〜いいお湯ね……」


肩まで湯に浸かり思わず溜め息を吐く。

リリムちゃんはどうしてるかしら?

依頼を達成したって報告したら大喜びしてくれそうね。

そんなリリムちゃんの姿を想像してみたんだけど感極まって涙を流しながら抱き締めて来る姿が思い浮かび頭を振って打ち消す。


「有り得そうな感じ……あの私の事が好き好きオーラは強烈だわ」


今夜は村の人達が牙猪を使った料理を振る舞ってくれるそうだから楽しみね。

一晩ゆっくりと過ごして明日の朝マリアナに帰りましょう。

あんまり湯に浸かってるとのぼせそうなので湯船から上がり身体を磨く。

まぁ、何かある訳でも無いんだけど……女性として常に綺麗でいたいじゃない。


「ふぅ、さぁ……出るとしましょうか」


尻尾を振って水気を切る。

脱衣所には先程言われた通り着替えが用意してくれてあった。

それに着替えて村の広場へと向かう。


「おお、冒険者殿!我が村自慢の大風呂は如何でしたかな?」


私に気付いた村長さんが声を掛けて来る。


「とっても良いお風呂でした。ありがとうございます」


ペコリと頭を下げてお礼を告げる。


「いやいや、頭を上げてくれんか!頭を下げなきゃならんのは此方の方だ。あの牙猪には田畑を荒らされ本当に困っておったからな。倒せる者も居らず泣き寝入りだったのが今や美味い肉になってくれて正に冒険者様々と言った所か」


村長さんだけでなく周囲に居た村人達からも頭を下げられちゃったわ。


「これが冒険者の仕事ですから皆さんも頭を上げて下さい。牙猪の料理、楽しみにしています」


誰かに喜んで貰えるって嬉しい。

やっぱり冒険者って最高ね!


「おお、そうだそうだ。彼方で鍋を煮て居るから出来上がるまでは串焼きでも食べて待って居て欲しい。酒は飲めるかい?」


ふっふっふ〜それなら勝利の美酒に酔わせて貰うとしましょうか。


「あまり強くはないけど嗜む程度に頂きますね」


渡されたワイングラスを傾けてグッとワインを流し込む。

少し強めの度数みたいで喉から胃へと流れて行くのを確かに感じる。


「ほぉ、中々にイケる口だな。さぁ、もう一杯行かんか!」


だ、大丈夫よね?

少し不安になりながら誘いを断れずに杯を重ねて行く私と村長さん。


「さぁ、折角倒したんだ牙猪も食ってくれ!」


酒の肴とばかりに牙猪の肉も勧められる。

暫くそんなやり取りが続き、いつの間にか辺りが暗くなり篝火が焚かれる時刻になっていた。

まるでお祭りみたいな村の賑やかさを眺めながら私の意識は徐々に薄れて行く。

だって身体が温かくて凄く眠くて……とっても気持ちいいんだもの。

酔い潰れた私をお姫様抱っこで寝室へと運んでくれたのが村長さんで彼が家に帰ってから奥さんには大切な恩人に対して無理に飲ませ過ぎだと相当怒られたらしい。

後にマリアナ冒険者ギルドの私宛てに送られて来たお礼の手紙にはそう記されていた。

楽しいで貰えたら嬉しいです。

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