第5話 尻尾が弱点だったんですね?
夢見る兎亭の食堂に他の宿泊客が姿を見せ始めるとリリスさんは厨房に入り、リリムちゃんも手伝いを始める。
私も何か手伝おうかとしたんだけどお客様に手伝って貰う訳にはいかないって断られたちゃった。
そんなこんなで今の私は……広いお風呂を独り占め、いえい!
「はぁ〜ん……まさに天国って感じ……」
私の生まれた人里離れた山奥だと水浴びが普通だったから、そんな都会の暮らしを聞いて楽しみにしていた。
魔水晶が数多く流通する自由都市マリアナだから火と水の魔水晶を使えば大量のお湯だって簡単に作れちゃうだけに毎日入浴が可能だなんて……し・あ・わ・せ!
んっ?向こうから足音が此方の方へと近付いて来るけど……まさに全力疾走って感じ。
その方向へ向かいピンと耳を立てて様子を窺う。
私は狐人だから普通の人間と比べて耳がいいの。
その直後お風呂場の戸が力強くガラッと開かれ、リリムちゃんが息を切らせながら現れた。
「ハァハァ……ウルペクラさんっ!お背中をお流ししますね!」
そのために宿屋の廊下を全力疾走?
手にはタオルを握り締めたリリムちゃんが洗い場へと進み、私が湯船から上がるのを待ち構えている。
えっと……私に拒否権は無いの?
同性とは言え他の人に身体を洗って貰うなんて恥ずかしいんですけど……あれ?リリムちゃんだって額に汗を浮かべてるじゃない。
「リリムちゃんも一緒に入ったらどう?汗もかいているし気持ち悪いでしょ」
そう私が言うや否やクルッと方向転換して脱衣所へと向かうとガバッと着ていた衣服を勢い良く脱ぎ捨てるリリムちゃん。
戸を閉めないから花も恥じらう乙女の脱衣シーンは丸見えね。
そして素早く下着を脱ぐと私の前へとUターン。
流石に大事な所はタオルで隠しているけど頬は桜色に染まって恥ずかそう。
「……お言葉に甘えさせて貰います」
手桶を使い身体をお湯で軽く洗い流すとリリムちゃんが湯船へと入り私の横に並んで腰を下ろす。
そんな肩が触れ合う程近くに座らなくても良くない?
「わぁ〜ウルペクラさんの胸って凄く大きいんですね……しかもお湯に浮いてます!」
恥ずかしいから覗き込むようにしてマジマジと見ないで頂戴。
隠すように身体を湯船に沈ませたけど胸だけは浮力に打ち勝ち更に浮き上がる。
そんな物欲しそうな表情をしなくても……
「リリムちゃんだって数年したら大きくなるわ。あのリリスさんの娘だもの」
リリムちゃんは14歳だって言ってたし、ここは将来に期待って事で!
だってリリスさんの胸は驚く程に大きかったし。
「私は自分の胸よりも……」
よりもって……何よ?この子の趣味って言うか性癖が確実に分かった気がする。
私の両胸を捉えて放さないリリムちゃんの視線から逃れるように湯船から上がった私は火照った身体を少しクールダウンさせながら尻尾を左右に振ってお湯を飛ばす。
「さ、触っても良いですか?私って犬や猫の尻尾とか大好きなんです!」
物欲しそうな視線を私の尻尾へと向けるリリムちゃん。
獣人の尻尾とかが珍しいんでしょうけど私は触られるのが大の苦手だったりする。
何か力が抜けちゃうし……
「尻尾を触らるのは苦手なの。だから許して頂戴って……ふにゃあ……」
私の返事を待たずに握らないで〜もうダメ……
急に身体の力が抜けて床へ崩れ落ちる私。
お尻を天高く突き上げる恥ずかしい格好になってるけど身体が全く言う事を聞かないの!
「ふふふっ、ウルペクラさんったらとっても可愛らしい……まぁ、大事な所が丸見えですよ。それにしても尻尾が弱点だったんですね」
はうぅ……全然可愛らしくない格好のままにさせないで……
「これは私だけの秘密にしておきます。だってウルペクラさんを好きに出来る素敵な魔法を手に入れたようなものですから」
一番知られてはいけない人物に知られたわ。
私にとっては全く素敵じゃないもの。
楽しんで貰えたら嬉しいです。