第2話 魔法剣士(自称)は辛い……
「我が剣に宿れ……全てを焼き尽くす青き炎!(……狐火)」
先程購入したばかりの細剣をスッと抜き放つと細長い刃に青い炎を纏わせる。
実は詠唱は全く関係無くて周囲に聞こえないくらいの小声で狐火を発生させてるのは内緒。
だって……私は魔法剣士(自称)だから!
熟練の魔法剣士が手にする細剣には強い魔力に耐えられるよう魔銀とも呼ばれる貴重なミスリルが材料として使われる。
私が手にしている細剣もミスリル製の逸品なの。
良く紅蓮の炎なんて言うように普通の炎は赤いけど私達狐人が使う狐火は青い。
要するに炎の温度が上がると色が変わって行くから私の青い狐火はかなりの高温と言う事。
未熟な魔法剣士なら魔力も弱いからミスリル製で無くても剣は耐えられる。
例え魔力の増幅が可能な魔水晶を使ったとしても使う本人が未熟なら鉄を溶かせる高温の炎を生み出す魔力には術者自身の身体が耐えられない。
ミスリル製の細剣を買うためのローン審査の際、本気を出した私の魔力には鉄製の細剣では耐えられないと話していた。
そして試しにとばかり狐火を出してみたら冒険者ギルドは上へ下への大騒ぎ……もう完全に期待の新人扱いだもの。
本来ならば新人冒険者にミスリル製の細剣を買う冒険者支援ローンなんて組ませたりはしないけれど私には是非使って冒険者ギルドに貢献して欲しいとか言われちゃった。
狐人って皆が山奥に隠れ住んで滅多に人里へは出て来ないし、きっと世間の人は狐火の存在を知らないんでしょうね。
狐火しか使えない私には魔力調整で温度を下げるなんて出来ないの。
早い話が0か100でしかない。
魔法剣士(自称)は辛い……
「青銅三級の新人で貴重なミスリル製の細剣を手にしたウルペクラさんは凄いです。そんな期待の新人から専属受付嬢を任せて貰えるなんて本当に夢みたい」
うっ、なんか騙してるみたいで胸が苦しい……
私を熱い眼差しで見上げる新人受付嬢のリリムちゃんの言葉に思わず苦笑いを浮かべる私。
「私にもウルペクラさんの魔法剣を見せて貰えませんか?依頼選考の基準にもしたいんです!」
両手の拳を握り締めて興奮した様子のリリムちゃんの願いを断る訳にもいかないわね。
「我が剣に宿れ……全てを焼き尽くす青き炎!(……狐火)」
冒険者ギルドと提携していると言う武器屋さんで手に入れたばかりの細剣を抜き、試しにとばかり狐火を纏わせてみたけど……うん、流石はミスリル製なだけに大丈夫みたい。
「……滅!」
狐火を消した私は刃を鞘へと収める。
瞬時に温度を下げられるのも狐火の良い所だけど知らない人からは魔力で温度を一気に下げたと勘違いされたみたいで辺りに居た他の冒険者達から拍手喝采が送られた。
「ほわぁ……す、凄いです!素敵……」
えっ?リリムちゃんが恋する乙女みたいな瞳で私を見てるんですけど……こっちの方は大丈夫よね?
楽しんで貰えたら嬉しいです。