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自宅警備員を甘やかすな  作者: 野島なの
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ひとやすみ


ーこれは、ののかと空太が夢を追いかけていた頃のお話。まだののかが外の世界と繋がっていた時のお話。


あの頃は、努力は必ず報われると本気で信じていられたんだ。現実はそんなに甘くないのにね。





「やなぎ、...だよね!あれ、お家こっちの方なの?」

ののかは地下鉄のホームで同期の柳田空太を見つけ、駆け足で近づいていく。

同期というのは、声優の養成所の話。ののかと空太は大手声優事務所、ガードワンの養成所生だ。週三回養成所に通い、課題に追われる毎日。なかなか上達はしないし、他の才能を前に折れそうになる日もあるが、ののかは持ち前の明るさと忍耐で授業に食らいつく。成績は上々。自分で言うのはどうかと口は閉じるが、未来は明るいと、ののか自身も信じている。



「え!藤沢!!?」

空太はののかを前に、切れ長の目を大きく開け、ぱちぱち瞬きをした。

「俺、神奈川から来てるから。藤沢もこっちの方だったんだ!」

「そうだよ!」

養成所が始まってまだ一ヶ月。クラスに馴染みたいののかにとって、同じ電車で通う人がいるというのは、嬉しい出来事である。



空太はとにかく声が大きくて、クラスのムードメーカーだった。学生時代を文学や映画、アニメに捧げ、大人しく過ごしてきたののかは、空太が嫌いな訳ではないのに、どんな話をどんなテンションですればいいのか悩んでしまう。



沈黙になりかけた時、空太が唐突に口を開いた。

「藤沢って料理とかするの?」

料理という、空太のイメージにない単語に反応が少し遅れる。

「え。...あ、私は料理とか全然出来ないんだよね。ほんとに不器用でさー、料理とか壊滅的。」

自虐ネタを交えながらえへへと笑う。

「へぇー!意外!藤沢は絶対自炊派だと思った。」

「自炊はするよ。卵ご飯とか、卵焼きとか、目玉焼きとか、鶏肉抜きの親子丼とか。」

全部卵じゃん、と空太が太陽みたいな笑顔で笑った。ののかはその笑顔に吸い込まれるように、思考が停止した。


「何その顔...」ののかの口から、甘いため息が出た。

「ん?何か言った?...あ、俺最寄りここだから降りるね。」

空太が車内の電光掲示を見て、急いで電車から降りた。

「藤沢!俺料理すっごく得意だからさ、今度食べにおいでよ。オムライス作ってあげる!」

せっかくなら卵以外の料理がいいかと、笑顔で空太が言う。

「うん。行く...!」

電車のドアが閉まる。空太は電車から見えなくなるまでずっと手を振り続けてくれた。



やなぎって、ちょっと良いかも。

ののかは心の中で呟く。

ーののかと空太が同棲を始めるのは、まだ先のお話。

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