私想いなクリームシチュー
豆乳をベースに作る空太のクリームシチューは、野菜やキノコなど色々な具が入っていて、料理上手な空太が作るメニューの中でも、ののかの一番のお気に入りだ。コンソメで味付けされ、とても優しいお味。細切りの生姜も入っていて、体を温めてくれる。豆乳の白と色鮮やかな野菜のコントラストは見た目も素晴らしく、食欲をそそる一品だ。
最初に作ってもらったのは、一年ほど前。空太の家にののかが初めて行った日のことだった。
夢のために努力する日々は楽しくもあるが、つい頑張り過ぎてしまうののかの体はボロボロだった。ご飯も食べたり食べなかったり。ゆっくりご飯を食べる時間もないし、元々料理が苦手だったので、コンビニでそのまま食べられるちくわやゆで卵を買って、そればかり食べていた。
そんな生活をしていたののかに、声を掛けてくれたのが空太だ。
「藤沢、顔色悪いよ?ちゃんとご飯食べてるの?」
ののかの食生活を聞いた空太は驚き、有無を言わせぬ圧でののかを自宅に連れて行った。
「...え、何それ。毎日こんなに忙しくしてるのに、そんなものしか食べてないの?そりゃ、そんな顔になるわ...。ちゃんと食事には気を遣いなさい。食べたものが自分を作ってくれるんだからさ。とりあえず、今日うち来なよ。俺がとびっきり美味しい手料理を食べさせてあげるから!そんな顔してる人間に拒否権はありません!」
このシチューには二人の初めての思い出と、空太のののかへの気遣いが沢山詰まっている。ホルモンバランスを整えるための豆乳、いつも冷たいものばかり食べているののかの体を内側から温めてくれる生姜、鶏肉やキノコや野菜が一度にとれて、スープだから胃にも優しい。ののかの好きなさつまいもも入れてくれている。
ののかにとって、このシチューは幸せの象徴みたいなものだ。
*
「空くん、今日のご飯は何ですか?」
ののかがキッチンでエプロンを着けようとしている空太に聞く。エプロン紐をは背中側で結ぶタイプのものだったので、苦しくなり過ぎないように気をつけながら紐を結んであげた。
「スーパーに寄ったら野菜が安くて、沢山買っちゃった。野菜ゴロゴロ入れて、豆乳シチューにしようかなって。」
「やった!シチュー、嬉しい!」
ののかの反応に空太が嬉しそうに頬を緩めた。
それと同時に、ののかのお腹が鳴った。ののかは恥ずかしそうに苦笑いを浮かべたが、空太はさらに嬉しそうな顔をする。
「良いタイミングでお腹が鳴ったね。本当に、のんたんは毎回喜んでくれるから、作りがいがあるよ。」
お腹の音を聞いた空太は、いつも以上に手際良く、急ピッチでシチューを作ってくれた。
二人揃った「いただきます」の声が、私想いのシチューをさらに美味しくした。