表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

7話「槍を扱う村」

炎斬えんざん!」


目の前に居る猪に向かって炎斬を放つ。

猪は、炎の斬撃を受けて気絶し、その場に倒れた。


「よし、夕飯ゲット!」


「流石です! アルバ様! 後は私に任せてください!」


人間と同じくらいの大きさの猪を、華奢な身体のフローラが簡単に持ち上げる。

うん…異様な光景だ。


現在、俺とフローラは食料調達をしている。

セリアにはキャンプの警備と、料理の準備をしてもらっている。


キャンプに着くと、セリアが焚き火をしていた。


「あ、おかえり〜。 お疲れ様!」


猪を焚き火で丸焼きにして、焼けるまでひたすら待つ。

森の中では食料を自分で取るしかないのだ。


猪が焼けるまでの間に、3人でこれからの事を話す。


「私さっき地図見てたんだけど、とりあえず今はここを目指すのはどうかな?」


セリアが地図を指差して言う。

セリアが指差した場所は、アルカディア帝国。

武力が高く、数々の強者を生み出してきた国だ。


他にも、武器、防具など、戦闘に関するものが沢山売っている。


アルカディア帝国に行くのはいい…が…

近いんだよなぁ…俺の故郷、ドラグレア王国と…


「私は参戦です。 アルカディア帝国の後は近くのドラグレア王国にも寄れますし! 」


フローラの言葉に身体が反応してしまった。

まずい…このままじゃドラグレアに行く事になってしまう…


ま、まぁ…何とかなるだろう…なってくれよ…?


「よし! それじゃあアルカディア帝国で決まり! 」


次の目的地が決まったところで、猪が焼き上がった。

3人で猪を食べ、俺たちはテントに入って眠りについた。


もちろん、テントは男女別だ。


「…さて、始めるか」


俺は、日課の筋トレを始めた。

強くなるために、旅に出た日から毎日行なっている。


セリアと迷宮攻略をして分かった。

俺の身体は鈍っている。

筋力も体力も落ちていた。


だから、少しでも役に立てるように筋トレをしているのだ。


「302…303…!」


腕立て伏せをしていると、突然テントの入り口が開いた。

咄嗟に入り口を見ると、寝巻き姿のフローラが居た。


「失礼します、アルバ様」


「フローラ…!? どうした…?」


俺はタオルで汗を拭き、フローラを迎え入れる。


「私、アルバ様に聞きたい事がありまして…アルバ様は剣士で、セリアさんは魔法使いですよね…? なのに、なぜお二人は一緒に旅をしているのですか? あっ! 別に私は剣士も魔法使いも嫌いなわけじゃありませんよ!?」


なるほど、その事か。 昨日仲間に加わったばかりのフローラには当然の疑問だ。


この世界では、剣士と魔法使いは敵同士だからな。

何故剣士と魔法使いだけが争っているのかは謎だがな。

槍使いや武闘家とは何もないのに。


「俺は別に魔法使いは嫌いじゃないしな。 セリアもそうだよ、お互いに嫌悪感がないから、一緒に旅をする事にしたんだ」


「なるほど…納得しました」


フローラは納得してくれたみたいだ。 でも何故、わざわざ俺に聞きにきたんだろう。

この質問なら、別にセリアに聞いても良かったはずだが…


「では、次の質問です。 アルバ様は、ドラグレア王国に何かあるのですか?」


俺の身体がビクッと反応する。

な、何故フローラにそれが…!?


「先程、私がドラグレア王国の名前を出した途端、アルバ様が反応しましたよね? 今みたいに。

何か、嫌な思い出でもあるのですか?」


まずい…まさか気づかれていたとは…

どうする…? 俺が元王子だと打ち明けるか?


いや、ダメだ。 俺が元王子だと知ったら、フローラとセリアの態度が変わるかもしれない。

そんなのは嫌だ。 俺は皆と対等に居たいんだ。


「あー…ドラグレアにはちょっと苦手な知り合いが居てさ? 出来れば会いたくないな〜って…」


「苦手な知り合い…ですか?」


フローラが疑惑の目を向けてくる。

俺の僅かな反応にも気づいたフローラだ。

俺の嘘がバレなければいいが…


「そうなんですね! では、ドラグレアは避けて行きましょうか」


だが、そんな心配は杞憂だったようで、フローラは笑顔で言った。

俺はとりあえず安心したが、フローラがテントから出る時、少しだけ悲しそうな顔をしたのを、その時の俺は気が付かなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


次の日、俺たちはテントを畳み、森の中を移動していた。

旅では、テントで眠るのは最終手段だ。

基本的には、村に泊まるのがベストだ。

テントで眠るのは、モンスターや盗賊に襲われる危険がある。 だからできれば野宿はしたくない。


アルカディア帝国まではまだ距離がある。

そこで俺たちは、アルカディア帝国までの道にある村を探していた。


村には、宿屋もあるし店もある。

食料調達に丁度いいのだ。


時刻は昼過ぎ、そろそろ休憩にしようとした頃、近くから声が聞こえた。


「もう無理だよぉ…!」


「何言ってんのよ! 男の子でしょ!? 早く構えて!」


俺たち3人は顔を合わせ、声のした方へ向かった。


すると、そこでは2人の男女が狼型のモンスターに囲まれていた。


あれは…ガル・ウルフ。 とても凶暴で群れで狩りをするモンスターだ。 人を襲うという情報もある。


2人の男女は、槍を構えていた。 どうやら槍使いのようだ。

だが、2人では武が悪いらしい。

少年の方に限っては、地面に座り込み、涙を流している。

少女は、その少年を守る様に立ち、槍を構えている。

モンスターの数は20以上…


モンスターは、一斉に2人に襲いかかった。


炎連斬えんれんざん!!」


「フレイム・バズーカ!」


閃光連撃せんこうれんげき!」


俺は炎斬を複数放ち、セリアはフレイム・バズーカを撃ち、フローラは目にも止まらぬスピードでモンスター達を殴る。


一瞬で20匹のモンスターは倒れ、助けられた男女は目を見開いている。

よく見れば、2人とも歳は俺たちと同じくらいだ。


「え…え?」


少女は、まだ現状が理解出来ていないらしく、俺たちの事を交互に見ている。


「大丈夫か? 怪我とかしてたら治すぞ」


そこでやっと理解出来たらしく、少女は地面に膝をついた。

どうやら腰が抜けたらしい。

相当怖かったみたいだ。


「た、助かったぁ…」


俺は、立てない女子に手を差し伸べ、立ち上がらせる。


「助かったわ…私、アリア。 すぐそこの村に住んでるの。 …ほらハクト! あんたも立ちなさい!」


アリアという少女が、ハクトという少年の腕を掴み、無理矢理立ち上がらせた。


アリアは金髪の長い髪で、ハクトは赤い髪をしている。

アリアは活発そうだが、ハクトは細身で、ナヨナヨしている。


「あ…ぼ、僕はハクト…です」


声はかなり小さいが、かろうじて聞く事が出来た。


「アリアにハクトだな。 2人はどうしてガル・ウルフに襲われてたんだ?」


「ハクトを鍛える為に、近くで対人戦をやってたんだけど、ハクトが逃げちゃって…それでこの場所に来ちゃったのよ」


俺の問いに、アリアが答える。


「だ、だから僕は槍なんて使いたくないんだよ…! 誰かを傷つけたくないし…怪我もしたくない…!」


そう言って、ハクトは走っていってしまった。

俺はすぐに追いかけようとしたが、アリアに止められてしまった。


「きっと村に帰ったのよ。 貴方達にお礼がしたいわ。 ついてきて」


アリアに言われ、俺達はアリアについて村へとやってきた。

小さな村だったが、皆元気に暮らしていた。


男の村人は槍をもっていて、売られている物も槍ばかりだった。


なるほど…ここは槍使いの村なのか。


アリアは、村で1番大きな建物に入った。

どうやらここがアリアの家らしい。


「ようこそ、ランガル村へ! 私はお父さんに話をしてくるから、そこに座って待ってて」


近くにあった椅子に座り、俺達はアリアを待つ事にした。


「槍使いの村かぁ〜」


セリアが、壁にたてかけられた槍を見て呟いた。


さっきからフローラが全く喋らない。

どうかしたのだろうか?


「フローラ? なんかあったか?」


「…先程の男の方が気に入らなくて」


フローラの機嫌が悪い理由は、ハクトにあったようだ。


「えっと…ちなみに理由は…?」


セリアがフローラに聞く。


「女性を危険に晒して、命がけで戦う勇気もない。 そんなのは、男ではありません」


あー…そういう事か。 フローラは昔の事を思い出しているのだろう。

フローラのいた村では、大人達は危険な事を全て子供のフローラにやらせていたみたいだしな…


「えっとなフローラ、男にも色んな種類がいて…」


「おまたせ! お父さんを連れてきたわよ!」


俺がフローラを宥めようとしたら、アリアが男性を連れて戻ってきた。

男性は、俺達に向かって深く頭を下げた。


「この度は、娘のアリア。 そして、娘の友人ハクトの命を救っていただいた事…感謝いたします」


「い、いや…俺達は当然の事をしただけなので…」


「見る限り、貴方達は旅のお方。 どうか、この村の宿に泊まっていって下さい。 もちろん、お代はいただきません。 私はこの村の村長ですので」


なんと。 アリアは村長の娘だったのか。

しかも、無料で宿に泊まっていいらしい。


せっかくだ、厚意は受け取っておこう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


俺達は現在、村の宿に来ていた。

部屋は1人1部屋らしい。

流石に悪いと言ったが、無理矢理通された。


1人で部屋にいるのも暇だったので、俺達は宿の広間に集まっていた。


「まさかこんな綺麗な所に泊まれるとはなぁ〜」


「ね! 村長さんには感謝しないとね」


「宿の方に聞いた話ですと、どうやら温泉もあるみたいですよ」


「温泉!? ホント!?」


フローラの話にセリアが食いつく。

その勢いにフローラが少し引いている。


「行こ行こ! 温泉行こ!」


セリアは、俺とフローラの手を引っ張り、無理矢理温泉へ連れてきた。

もちろん、男湯と女湯は別だ。


「おいフローラ。 なんで腕組んでんだ? 男湯に入れないんだが…」


「お背中お流ししますわ」


「結構だ! 離せぇ!」


腕をブンブンするが、フローラは剥がれない。

相変わらず凄い力だ。


「フローラ? 男湯にはアルバ以外の男の人がいるかも知れないよ?」


セリアが言うと、フローラはピクッと止まり、俺の腕を離した。


どうやら、諦めてくれたらしい。


俺とセリア達は別れ、それぞれ温泉に入った。


「ほぉ〜露天風呂か。 いいなぁ」


幸い、人は1人も入っておらず、ゆっくり出来そうだ。

湯に浸かり、力を抜く。


いい気分だ。 心地よい温度に、外の冷たい風が合わさってとても気持ちがいい。


ゆっくりしていると、温泉の扉が開いた。 誰かが入って来たみたいだ。


「あっ…お前はさっきの…」


「あっ…ど、どうも…」


温泉に入ってきたのはハクトだった。

ハクトは、俺に軽く礼をして、温泉に入った。


「あ、あの…! さっきはありがとうございました…!」


今度は、深く頭を下げてきた。


「いいっていいって。 あ、俺はアルバ、よろしくな


「は、はい…僕はハクトです」


「敬語も辞めてくれよ。 アリアに聞いたけど、同い年だろ?」


「は、はい…あっ…うん、分かったよ」


ぎこちないが、敬語は辞めてくれた。


どうやら、ハクトはアリアに連れられて温泉に来たらしい。

って事は、今女湯にはアリアが居るのか。


ここは風呂だから、もちろんお互い裸だ。

だから、ハクトの身体を見て、気づいた事がある。


鍛えられた筋肉と、戦いでついた傷だ。


服の上からだと分からなかったが、ハクトは鍛えているようだった。


なのに何故、ガル・ウルフの前では怯えていたのだろうか。


「なぁハクト。 お前、本当は強いだろ?」


「えっ…?」


「筋肉を見れば大体分かる。 よく鍛えられてる。 ガル・ウルフ程度なら、お前1人で倒せていたはずだ」


ハクトは力を隠している。 そう思った俺は、ハクトに聞いてみる事にした。


アリアの話を聞いた限りでは、ハクトは戦いが嫌いで、怪我をするのが怖いらしい。

アリアは、強くなってほしくてハクトを鍛えていると言っていた。


だが、ハクトの身体を見ると、明らかにアリアよりも強いと思う。


「ぼ、僕は…誰かを傷つけたくないんだ…」


「傷つけない為に、戦おうとは思ったりしないのか?」


「ダメなんだよ…僕が戦ったら…」


なんだ…? 何か、深い事情がありそうだ。


「それはどういう…えぇ!?」


突然、ハクトが倒れた。

急いで抱えると、原因が分かった。


ハクトは、のぼせていた。


…まだ、入って数分だが…?


脱衣所でハクトを数分間介抱していると、ようやくハクトが目覚めた。


着替えて脱衣所から出ると、近くの椅子にセリア達が座っていた。


「あ、アルバ達だ!」


「ハクト…あんたまたのぼせたわね?」


どうやら女子達の方が早く出たらしい。


アリアは、ハクトを連れて宿を出ていった。


「…アルバ。 ちょっといい?」


「ハクトさんの事で、お話があります」


セリアとフローラに言われ、俺達はセリアの部屋に集まった。


「アリアに聞いたんだけど、ハクトって昔は神童って呼ばれてたんだって」


「槍術の成績は常にトップで、2位だったアリアさんとも天と地の差だったみたいです」


「え…ま、まじか…?」


まさかハクトがそんなに強かったとは…

だが、そうするとやはり、なぜ戦いを嫌うのかが気になる。


「それでね、2人が10歳だった頃、村に盗賊が攻めてきたんだって。 その盗賊はとても強くて、村の大人達でも歯が立たなかったらしいの。 そして、盗賊は村長の娘であるアリアを人質に取った」


「身代金か…」


「うん。 村長さんは、指示に従ってお金を渡そうとしたんだけど…盗賊の前に、ハクトが立ちはだかったの。 ハクトはその時、凄く怒っていたらしくて、あっという間に盗賊を倒したらしいんだ。

そして…えっと…」


セリアが、言いづらそうにしている。


「ハクトさんは、なんの躊躇いもなく、盗賊の心臓を1突きにしたらしいです。 何度も、何度も」


フローラが言った。


ハクトにそんな過去が…だから、人を傷つけたくなかったのか?

傷つけない為に、戦わないのか…


「なるほどなぁ…」


「アリアは、後悔してたよ。 人を殺したハクトを見て、アリアは怯えちゃったらしいんだ。

そして、その日からハクトは、槍を使うのを嫌うようになったんだって」


「アリアさんは、泣きながら言いました。 また、槍を使っているハクトを見たい。 強いハクトを見たいって」


アリアは、ハクトにまた昔みたいに槍を使って欲しい。

だが、ハクトはアリアに怖がられたくなくて槍を使いたくない。


んー…難しい…


「ねぇアルバ、どうにかならないかな? 」


「そうだなぁ…ハクトは、槍を使いたがってなくても、毎日身体を鍛えているようだった。 

だから、戦いが全く嫌いになった訳ではないと…思う」


戦いが嫌いなら、身体を鍛える意味はないしな。

ハクトの筋肉は、戦闘をする人間の鍛え方だった。


「…よし。 2人とも、明日、ハクトに会いに行くぞ」


俺が言うと、2人は頷いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ