6話「怪力少女、フローラ」
「あー…腹減った…」
「我慢してアルバ…私も同じだから…」
「なんで街も村もないんだよ…」
ラミアを旅立った俺とセリアは、現在死にかけていた。
原因は空腹。
もう2日も何も食べていない。
周りは草原しかなく、それがずっと続いている。
ラミアを旅立った直後は、ラミアで買った食料があったから大丈夫だったのだが、もう食料は尽きてしまった。
「だからあの時…左に行こうって言っただろー…」
「それはさっき謝ったでしょ…だいたい、食料をほとんど食べたのはアルバじゃん…」
2日前、俺達は別れ道を前にして、俺は左、セリアは右に行こうと言った。
結局、ジャンケンで決めたのだが…俺達は道選択に失敗したらしい。
「もう2日も歩いたんだし、そろそろ何かあっても…あ…アルバ!!」
セリアが急に大きな声を出した。
セリアが指を刺した方を見ると、まだ遠いが、小さな村があった。
村=人=食べ物!!
「よっしゃああああ!!」
「あっ! アルバ待って!」
俺とセリアは村に向かって走り出した。
2日振りの食事! 2日振りの食事!
あっという間に村についた。
「え…え?」
俺は、村についた瞬間唖然とした。
村の中心と思われる場所に、村人達が縛られていたからだ。
そして、その人達をガラの悪い男たちが囲んでいた。
えぇ!? めっちゃ襲われてんじゃんこの村!?
どんなタイミングだよ!?
「た、旅のお方…! どうか助けて!」
村人の1人が叫ぶ、そのせいで、ゴロツキ達が一斉に俺達の方を見る。
「あぁ? なんだガキ共、痛い目を見たくなけりゃ金を置いていきな!」
ゴロツキ達がニヤニヤしながら俺達を見る。
俺は剣を抜き、構える。 セリアも杖を構えている。
ゴロツキの数は10…余裕だな。
「炎斬!」
剣に炎を纏わせ、炎の斬撃を飛ばす。
炎の斬撃はゴロツキ5人を吹き飛ばし、一撃で気絶させる。
フェニクスの力が宿った事で、俺は炎を自在に操れる様になった。
俺は、剣に炎を纏わせて攻撃する事にしている。 これが今は1番やりやすい。
まぁ…まだ連発は出来ないけどな。
「雷光!」
セリアの雷光が残りの5人を吹き飛ばし、ゴロツキは全員気絶する。
迷宮を攻略した事で、俺達の力は想像以上にパワーアップしていたらしい。
村人達の縄を解き、変わりにゴロツキ達を縛り上げる。
「おぉ…! なんとお強いお方…!」
「神の使いじゃあ…」
「ありがたや…ありがたや…」
村人達が俺達に感謝をする。
まさかこんなに感謝されるとは…
そこで、俺は疑問を持った。
ここには、老人しか居ないのだ。
子供や、若い大人が居ない。
「なぁ、この村には子供や若い人は居ないのか?」
俺がそう言うと、村人の1人が話し出した。
「若い子達は皆拐われた…あっという間じゃった…村に来ていた冒険者の方も負けてしまって…」
「拐われた…? そいつらは今どこに?」
「多分、村の外れの洞窟じゃろう…洞窟には、ゴロツキの幹部とリーダーがおる…」
「分かった。 セリア」
「うん。 行こう!」
セリアが杖を握りしめる。
「よし! んじゃ早速…」
行こう! と言おうとしたら
ぐぅ〜……
と、俺の腹が鳴った。
そう言えば、まだ何も食べてなかった。
「はぁ…すみませんおじいさん。 何か、すぐに食べれる物はありませんか?」
セリアが村人に聞くと、村人はパンと水をくれた。
俺とセリアは、パンを食べる。
おぉ…2日振りの食事…! パンがこんなに美味しく思えたのは初めてだ…!
「よっしゃあ! 力が湧いてきた! 皆! 村の子供達は全員連れて帰ってくるから、安心して待っててくれ!」
村人達は、何度も俺達に頭を下げた。
村人達に洞窟までの道を聞き、俺とセリアは洞窟へと向かった。
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「洞窟…きっとあれだよアルバ」
「よっしゃ、んじゃ早速!」
「待ってアルバ!」
草むらから出て洞窟へ向かおうとする俺の手を、セリアが掴んだ。
「なんだよセリア」
「向こうには人質が居るんだよ? あまり刺激せずに、慎重に行こう」
確かに、俺達に気づいて人質を盾にしてきたら厄介だしな…
セリアの提案に頷き、俺とセリアはゆっくりと洞窟へ入った。
幸い見張りは居なく、すんなり奥へ来る事が出来た。
「居たよアルバ…人質と、リーダー格のゴロツキだよ」
見ると、若い男女と子供が縛られていた。
そして、村にいたゴロツキよりも強そうな奴らが3人いた。
皆剣を持っている。
「さっきはよくも暴れてくれたなぁ? 」
ゴロツキの1人が、薄桃色の肩までの髪をした少女の髪を掴む。
桃色の髪の少女は、他の人質よりもボロボロだった。
歳は…俺達と同じくらいか。
「村の人達を…開放しなさい…!」
「あぁ? そりゃ出来ねぇなぁ」
桃色の髪の少女は、右足で思い切りゴロツキの足を蹴った。
足を蹴られたゴロツキは、痛みで少女の髪から手を離した。
その隙に、少女はもう1発蹴りを入れようとしたが…
「あまり調子に乗るなよ」
別のゴロツキに首を掴まれてしまった。
少女の脚は宙に浮き、少女は息をする事が出来ずにもがく。
「少し腕に自信があるようだが、人数差を考えるべきだったな。 てめぇはここで…ぶあっ!?」
俺は、少女の首を掴んでいるゴロツキの背中を思い切り蹴り飛ばした。
ゴロツキは地面を転がる。
俺は、少女を抱える。
「大丈夫か? 安心しろ、助けに来た」
「え…へ…?」
「セリア! 皆を開放してくれ! 俺はこいつらを倒す!」
少女を地面に座らせ、俺とゴロツキ3人の周りを炎で囲む。
これで、ゴロツキ達は村人に手が出せない。
「なんだてめぇ…! 」
「邪魔する気か!?」
ゴロツキ達が剣を構える。
俺も剣を構え、剣に炎を纏わせる。
「そうだよ、俺はお前らの邪魔をしにきた。 悔しかったらかかってきな!」
俺が挑発すると、ゴロツキ達は3人纏めて突っ込んできた。
真っ直ぐ突っ込んでくるとは…ありがたい限りだ。
俺は、剣を持っている右手を後ろに引き、力を貯める。
そして、ゴロツキとの距離が近くなった瞬間…
「炎突!」
炎を纏わせた剣を思い切り前に出した。
炎はゴロツキ達を包み、そのまま壁に叩きつけた。
「ふぅ…大した事なかったなぁ」
剣を鞘に納め、振り返る。
村人達は全員セリアが開放してくれたらしい。
そして…桃色の少女は、地面に座ったまま、俺を見上げて目をキラキラさせていた。
「えっと…大丈夫だったか?」
「やっと…やっと見つけた…」
「ん? なんて?」
「やっと見つけた…私だけの…王子様!」
「…はぁ!?」
桃色の少女は、顔を赤らめて俺に抱きついてきた。
いやいやいや! 待って! おかしいだろ!?
いや無理無理! 抱きつかれるとか無理無理慣れてないし緊張するしあっ…いい匂いする…じゃなくて!
「待て待て! 一旦落ちつ…」
「アルバ! 後ろ!」
セリアが叫び、顔だけ後ろを向くと、ゴロツキの1人が俺に向かって剣を振り下ろしてきていた。
まずい…! 1人だけ倒し切れてなかったか…!
「くそっ…!」
「私の王子様に…」
俺が振り向いて剣を抜くよりも先に、桃色の少女がゴロツキの前に出た。
そして、右手を強く握り…
「手を出さないで!!」
ゴロツキの腹を殴った。
ゴロツキは、壁まで吹っ飛び、壁には巨大な穴が空いた。
な、なんて力だよ……
「だ、大丈夫でしたか?」
少女は俺の方を見てそう聞いてくる。
いや…俺よりも貴女の方が重傷ですけどね…
あっ、そうだ! こんな時こそ!
「癒せ、フェニクス!」
俺の右手が光り、その右手で桃色の少女の肩に触れると、少女の傷が全て治った。
これもフェニクスの能力の一つだ。
俺の魔力を消費して、他者や自分の傷を治す。
まぁ、俺は魔力が少ないからあまり使えないけどな。
「これでよしっと…」
「なんてお優しい方…! 私、貴方についていきます!」
「えぇ…」
「私、フローラ・アルマリアと申します! 貴方のお名前をお聞かせ頂いてもよろしいですか…?」
「俺はアルバだ」
「アルバ様…! 私、アルバ様に惚れてしまいました…! 私を守ってくれた殿方はアルバ様が初めてです…!」
惚れ…!? 俺に惚れた!?
いや…可愛い子にこんな事言われて嫌な訳ないけども…急すぎないか!?
「おー、モテモテじゃんアルバ」
セリアが俺の肩を叩いて言ってくる。
コイツ…楽しんでやがるな…!? 顔がニヤけてるぞ…!
ん…? なんか、フローラの肩がプルプルしてる…?
「こ…恋敵…あなた…! 私の恋のライバル…!」
「へ!? 私が!?」
フローラがセリアの方を指差してそう言った。
「貴方がアルバさんとどういう関係かは知りませんが、私負けません!」
「いやいや! 勘違いだから! 私、アルバとは何もないから!」
セリアが本気で否定しているが、フローラは全く信用していないみたいだ。
「あー…とりあえず、村に帰ろうぜ? 」
話し合いは村でする事にして、とりあえずこの場は納めた。
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「なるほど…という事はアルバ様とセリアさんは迷宮攻略をして、一緒に旅をしているんですね」
「そういう事。 だからアルバとはただの仲間なの」
「すみません。 私てっきり勘違いを…」
村人を皆返した俺達は、村人から手厚い歓迎を受けた。
そして、今日はもう遅いからという理由で、宿に泊めてもらうことになった。
フローラとセリアは、お互いの誤解が解け、意気投合したみたいだ。
だが…
「あの…フローラ? そろそろ腕離してくれないか?」
フローラは現在、俺の腕にしがみついている。
引き離そうとしたが、全く動かなかった。
全力でやっても、フローラはずっと笑顔だった。
どうやら、力ではフローラに勝てないらしい。
「嫌です、ずっと一緒にいましょ?」
「いやいや…そもそも、なんでこんなに俺に懐いてんだ…? 一度助けただけだろ?」
「一度助けられたから。 ですわ」
フローラは、先程までの笑顔が消え、悲しそうな顔をしながら話しだした。
「私、産まれた時から異常に力が強かったんです。 10歳の時には、巨大な岩を片手で粉砕出来ました」
ひぇっ…
なるほど…だからゴロツキを殴り飛ばせたのか…
「そんな子供でしたから、昔から女扱いされず…住んでいた村では、大人達は私を兵器として扱いました。
モンスターが攻めてきたら私だけで戦わされたり…
怪我をしても、誰も私の心配はしませんでした」
俺とセリアは、何も言えなくなる。
先程まで明るく笑顔だったフローラに、こんな過去があったとは…
「私は、普通に人間扱いされたかった。 だから、17歳になった先月に村を旅だったんです。 世界を周れば、何処かに私を人間扱いしてくれる人が居ると信じて…
そこで、私はアルバ様に出会ったんです!
アルバ様は、私を助けてくれた。 私の馬鹿力を見ても、怯えずにいてくれた。 私の傷を治してくれた。 アルバ様は、私の理想の人だったんです」
「だからアルバの事を王子様〜って言ってたんだね」
「はい…本当に嬉しくて…」
俺は、フローラの顔を見る。
見た目は普通の女の子なのに、生まれ持った力のせいで苦労をしてきたんだな…
もし、フローラが何の力も持たずに産まれていれば、こんな旅なんてしなくて済んだんだ。
…俺も、王族としてじゃなく、普通の人間として産まれていれば…
「フローラ、俺達と旅をしないか?」
「…へ?」
「俺とセリアは、世界中を旅するつもりなんだ。 まぁ、旅を始めたのはつい最近だけどさ。
1人で旅するより、皆で旅した方が楽しいだろ?」
フローラは、笑顔になり、俺に抱きついてきた。
「はい…! 私、一生アルバ様についていきます!」
フローラがどんどん抱きつく力を強くする。
俺の身体が、骨がどんどんミシミシ…といった音を立てる。
「ちょ…待ってフローラ…苦し……」
「はっ! すみませんアルバ様…!」
この日、剣士と魔法使いのパーティーに、怪力少女が加わった。
また、賑やかで楽しい旅になりそうだ。