2話「没落王子、アルバ」
「アルバ・ドラグレア。 貴様をこの国から永久追放する。 この王族の恥さらしが!」
王冠を被った男が、10歳の金髪の少年を殴った。
彼の名はアルバ・ドラグレア。 ドラグレア王国の第3王子だ。
だが、たった今、その地位は剥奪された。
「王族には品が無ければいけない。 なのに貴様はいつもスラム街へ行き、奴らに食料を分けていたそうだな。 王族にそんな甘い者はいらん!」
「…ですが父様…彼らも同じドラグレアに住む国民では…」
少年は、ボロボロの身体で言った。
すると、男はまた少年を殴った。
「スラム街の奴らは人間ではない! 奴らはゴミだ! 税金も払わず、仕事もせず! まだ家畜の方が価値がある! 兄達を見ろ! 剣術も、王族としての心構えも貴様よりある! 知識は貴様の方が上のようだが、王族としては貴様はゴミだ!」
部屋を追い出され、少年…アルバは荷物を纏めていた。
そんなアルバの部屋に、少女が入ってきた。
アルバと同じ金髪の少女。アルス・ドラグレアだ。
歳はアルバの2個下の8歳。
アルバにだけ懐いていて、他の兄達には懐いていない。
「…お兄様…? 出ていくのですか…?」
「うん…ごめんねアルス。 明日から俺は居ないけど、兄さん達と仲良くな?」
「やだ…! 離れたくない…! お兄様と一緒に居たいです…!」
アルスは、アルバに抱きついて泣き出す。
アルバは、アルスの頭を優しく撫でる。
「アルス。 お前は優しい子だ。 お前なら将来、立派な王女になれる。 兄さん達に負けるな」
そう言って、泣いているアルスを置いて、アルバはドラグレア王国を後にした。
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あれから7年後、17歳になった俺は今、ラミア王国に居た。
そこで俺がしていたのは…
「いらっしゃいませ! こちらの席へどうぞ!」
酒場の店員だ。 だが、俺はこの職場を気に入っている。
俺は昔、この店の店長に拾われたんだ。
空腹で倒れていた所を助けられて、それ以来この店でお世話になっている。
「アルバ〜! ちょっと買い出し頼む!」
この店の店長、ゴルダさんに言われ、俺はすぐに「はい!」と返事をする。
酒場を出て、商店街へと歩き出す。
周りには剣士や魔法使いが沢山居る。 確かこの街にはでっかい魔法学園があるんだよな。
かなりのエリート校だったはずだ。
ま、俺にはもう縁のない話だけどな。
「兄ちゃん! 危ねえぞ!」
誰かにそう言われ、ふと上を見ると、酔っ払った男が俺に剣を振り下ろしてきていた。
別に、酒に酔って戦闘を始めるのは珍しい事じゃない。
俺は、男の剣をするりと躱し、懐に入ると、男の足をはらい、そのまま投げ飛ばした。
珍しい事じゃない…が…
「戦闘なら街の外でやってくれ」
気絶した酔っ払いにそう吐き捨て、歩き出した。
「わざとなんだよなぁ!?」
俺の進行方向で、男が少女に絡んでいた。
男は剣士で、少女は魔法使い。
なるほど…この世界では剣士と魔法使いは仲が悪い、加えて男はかなりイライラしている。
何か嫌な事があったのだろう。
だが、八つ当たりはよくない。
少女の方は…銀色の髪で、可愛い顔をしている。
杖を持っているが、見習い魔法使いだろう。
身体が震えてるし。
観察していると、男が拳を振り上げた。
は…? おいまさか! 殴る気か!?
そう思った瞬間、俺は走り出した。
そして男と少女の間に入り…
顔面を殴られた。
「痛ってえええええ!!」