1話「落第魔法使い、セリア」
「セリア・エゼルミア! 貴様を落第魔法使いとし、この学園から除名する」
とある少女に向かって、髭を生やした老人が告げた。
少女がいる場所は、ラミア魔法学園。
アルケミア大陸の三大魔法学園の一つだ。
他には、クレスト魔法学園、カルラス魔法学園がある。
ラミア魔法学園では、成績が悪い生徒を見せしめとして皆の前で除名をする風習がある。
こうする事で、他の生徒のやる気を上げているのだ。
「セリア・エゼルミア。 貴様は、課題だった魔法の威力コントロールをクリア出来なかった。 威力コントロールは魔法使いにとっては基礎中の基礎。
貴様には、魔法使いの才能はない」
老人がそう告げると、他の生徒はクスクスと笑い出した。
そして、今しがた落第魔法使いと言われた銀色の髪を背中まで伸ばし、魔法使いの帽子を被った少女は、プルプルと身体を震わせた。
だが、これは泣いている訳ではない。
少女は、後ろを振り返り、沢山の生徒を前にして、叫んだ。
「私は…! 絶対に世界一の魔法使いになる! 学園で学ばなくたって…! 絶対に…!
立派な魔法使いになってみせる!」
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落第魔法使いとなり、学園を追放されたわたし…セリアは、荷物を纏め、学園の門を潜った。
「はぁ…どうしよう…落第になっちゃった…」
皆の前では強気でいたけど、実はかなり焦っている。
「私…魔法使い向いてないのかな…」
私は、昔の事を思い出していた。
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セリアは、小さな村で産まれた、ごく普通の女の子だった。
そんなセリアが5歳の時、森で迷子になり、1人泣いていた。
そんなセリアの元に、モンスターが現れたのだ。
モンスターは、セリアに襲いかかった。
「フレイム・キャノン!」
だが、モンスターがセリアに触れる事は無かった。
モンスターに炎の球が当たり、奥まで飛ばされたからだ。
セリアは、泣きながら顔を上げる。 そこには、紫色のローブ、帽子を被り、立派な杖を持った綺麗な女性が立っていた。
女性は、少女の頭を撫でた。
「大丈夫? もう安心していいよ」
女性の声は、凄く優しかった。
そして、凄く綺麗な炎魔法に、セリアは見惚れてしまった。
女性は、セリアを村まで送ると、名も告げずに、森へと帰っていったのだ。
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「あの人みたいになりたくて魔法学園に入ったけど…はぁ…」
私は、あの女性に憧れていた。
自分もあの人みたいに強くなりたい、そう思って頑張ってきたけど…結果は落第魔法使い。
「…才能があればなぁ…」
学園を除名された私には、住む場所がない。
そんな私が取るべき行動は2つ。
大人しく村に帰るか、働いて自分で生活するか。
村に帰るのは絶対に嫌だ。 夢を諦めたくない。
かと言って、17歳の私に出来る仕事なんてないし…
「あ…まだ1つある…」
もう1つの選択肢。 それは、迷宮をクリアする事だ。
この世界に無数にある迷宮。 迷宮は、10階以上の階層に分けられていて、モンスターが住んでいる。
だけど、迷宮の先には、無数のお宝と、神器が眠っていると言われている。
神器とは、装備の事で、神の力を人間が使えるようになると言われている。
この街、ラミアの近くにも1つだけ、迷宮がある。
だけど、その迷宮は未だにクリアされてない。
「もし…私にクリア出来れば…一攫千金で…しかも神器も手に入る」
そんな事を考えながら歩いていると、人にぶつかってしまった。
謝ろうと思って顔を上げると、胸ぐらを掴まれた。
マズイ…この人…剣士だ。
「おい魔法使いのガキ。 てめぇなめてんのか?」
「すみません…! 前見てなくて…!」
この世界では、魔法使いと剣士は仲が悪い。
大昔、剣士て1番強かった人物と、魔法使いで1番強かった人物が殺しあった。 結果は引き分け、そして、自分の領地へ帰った2人は、仲間にこう伝えた。
《魔法使いを見たら殺せ》
《剣士を見つけたら殺せ》
この言葉通りに、今までもずっと、剣士と魔法使いは争い続けてきた。
街で会えば戦闘。
魔法使いと剣士の戦闘は珍しくない。
「あぁ? わざとだろ?わざとなんだよなぁ!?」
男が大きな声を出したので、私はビックリして固まってしまった。
私は、威圧してくる男の人が嫌いだ。
暴力で全て解決しようとする男の人が嫌いだ。
「ちょうどいい。 ちょっと殴らせろ」
男は、私を壁の方に投げた。
私は、足が竦んで動く事が出来なかった。
出来たのは、母から入学祝いに貰った魔法の杖をギュッと握りしめる事だけだった。
男が拳を振り上げた。
ーー殴られる。
私は、目を瞑った。
だが、いつまでも痛みは来なかった。
変わりに、別の男の人の叫び声が聞こえた。
「痛ってえええええ!!!」
金髪の、私と同い年くらいの男の子だった。