第四話
そこにはクラクションを鳴らしたであろう走行中のトラックとその目の前まで接近を許してしまっている一人の少女が写る。
(御影なら……)
一瞬の思考、御影の能力ならば間に合う、だが御影はクレーンゲームに夢中だ、こちらに気づいている可能性は低い。
(緊急事態……か……)
助けないなんて選択肢はない、即時に判断し自身の能力を発動させる。
(模倣旋風)
発動と同時に高速移動を開始する、鞄を投げ捨て、少女に衝突寸前のトラックの目の前まで一瞬で移動する。
そのまま少女を乱暴に抱きかかえ、トラックの目の前から脱出を図る。
(ギリギリか?)
一瞬危険を感じたものの何とかぶつかる前にトラックの目の前から脱出する、加速に耐え切れず前のめりに倒れる。
抱えた少女を地面にぶつけないように注意しながら背中から落る、背中に激痛が走るも少女には何一つ怪我はさせていない。
「ぃたぁ〜……」
痛みの走る背中を摩りながら上半身を起こす、大勢の人々がこちらを向いてくるが無視する。
御影達が気づいたのかこちらに走ってくる、御影は速攻で暁は多少遅れて到着する。
「何無茶してんの?!」
御影が怒っている、その怒気にやられたのか抱えている少女が少しおびえている。
「わりぃわりぃ、ちょっち人助けを……」
「それぐらい解ってるけど……いいの?」
御影の確認はきっと俺が能力をしようしたことについてだろう。
「まぁお前の同類に見られてなければ平気だとは思う」
俺の能力は他人の能力や行動を完全に模倣することだ、能力の場合は一日に一回の回数制限が付くが。
普段はだいたいこの能力は使わない。
理由は簡単だ、正体がバレるのが嫌だからだ。俺が贋者であると。
御影達と何度も荒事に巻き込まれているせいで俺の能力には贋者《二つ名》が付いている、ただ荒事の度に仮面をしたり
顔を隠したりしていた為に贋者が俺だということはバレていない。
だが今回のことでばれる可能性が無いわけではない。
(助けたことに後悔はしてないんだけどな)
「まぁ贋者だってばれたいんならお好きに能力を使えばいいよ、どうなっても知らないけど」
「まぁまぁ御影もそんな怒らんとけ、幸やんの性格上、人助けに体が勝手に動いてしもうたんやろうから」
まるで人助けが趣味みたいな言い方だが今回は何も言い返せない。それよりも先ほどから腕の中で丸まっている少女を
地面に座らせる。
「怪我はないと思うんだが何処も怪我してないよな?」
少女は小さく頷く、歳は8歳ぐらいだろうか? だが近くには親の影もないが、どういうことだろうか?
「助けていただいてありがとうございます」
「お〜偉い偉い、ちゃんとお礼がいえるやん、御影とは大違いや」
「私だって助けられたらいえってぇの!」
「それが普通だからな御影」
先ほどまでこちらを見ていた野次馬達はいつの間にか興味をなくしたのか居なくなっている。
「さて、親とか何処かにいるか?」
流石に小さい子一人を置いていくわけにはいかない、また引かれかけるかも知れないし。
「此処には居ない」
首を横に振りながら呟く。
「んじゃ、どうやって此処にきたんだ?」
「車で来たんだけど、お姉ちゃんを見つけて追っていこうとしたら気づいたら道に迷ってて」
「そうか、じゃぁ車を運転してた人とかは何処にいるの?」
此処に親が居ないって言うのは車に居るからだろうか?
それとも祖父などと来て姉を見つけて車から降りて道に迷ったのだろうか
「その人ならお兄さんの後ろに」
後ろ? そんな気配は全くしなかったが俺は後ろを振り向く。
「うぉぉ!」
そこには筋肉質の長身の黒服の男が立っていた、威圧感抜群なのに気づかなかった何て情けない。
「お嬢様、勝手に行動しないでください」
「お姉ちゃんを見つけたからつい」
お嬢様? 黒服の男といいどっかの令嬢様か?
「何処かのお金持ちらしいね」
「そやなぁ、こりゃたまげた」
余り驚いた様には見えない御影と暁だった。
「それでは、失礼させてもらいます」
「助けてくれてありがとうねお兄さん」
少女はこちらに手を振りながら黒服の男についていった。
「何だったんだが」
「さーねぇ」
「ま、何でもいいやろ、クレーンゲームのぬいぐるみ取りにいこか」
「さんせーい!」
その後クレーンゲームに戻ったら狙っていた人形がなくなっており、御影に散々怒鳴られ謝りまくる事になった。
その後も適当に時間を潰して家に帰った。 御影と家の前でわかれて中に入る。
「ただいまっと」
誰もいない家だがこれだけは何故か言ってしまう。
リビングにいき、適当に持っていた鞄を投げ置く。そのまま二階の自分の部屋に向かう。
部屋に入り、すぐさまベッドに向かい倒れこむ。
「いてぇ………」
贋者の能力で模倣した能力はリスクもそのまま返ってくる、御影の場合は足への膨大な負担。
御影のようにちょくちょく使って慣れていない俺のひょろい足はすぐさま悲鳴を上げる。
家に帰るまでは平然としていることができたが、さすがに歩いたせいで余計痛みと疲労感が増している。
そのまま寝てしまおうかと考えていたが、悩んでいるうちにいつの間にか寝てしまった。
「ふぁ〜…………」
「何締りの無い欠伸してるのよ」
昨日は結局深夜に起きて、寝たせいか、現在御影と共に学園に登校するまで眠れなかった。
やはりあそこは維持でも起きているべきだったと今更ながら悔やむが、今更しょうがない。
御影が何かずっと喋っていたが殆ど耳に入らなかった。時折聞いてないことを見破られ幾度か蹴られたが
これもまた睡魔との闘いのせいで殆ど効かなかった、どうせなら眠気が覚めると嬉しいが無理のようだ。
「おいおい幸やん、ものすごい眠そうやなぁ〜」
昨日と同じく校門近くで暁に出会う、待ち伏せでもしてるのだろうか?
それとも本当にタイミングがあっているのだろうか? 疑問だ。
「そんな眠たげな顔でアリスちゃんの前にいくんか〜?」
「あー………そーだったな」
そういえば席が隣なのだ、だからといって眠気が覚めるわけではない、どうせこちらを振り向かないのだろうし
この際気にしないでいこう。
「まぁ幸やんがいいならいいんやけどね」
そのまま適当に会話をしながら教室に向かう、途中でちらちらこちらを見る視線が気になるが
昨日の御影の騒動のせいだろう、まだ俺のことがばれたわけじゃないはずだ。
もしもそうならもっと視線が痛いはずだ。
教室の中に入り、自分の席に座る、アリスはまだ来ておらず、隣の席は空席のままだ。
そこに鞄を自分の席においた御影が座る。
「アリスさん来たら気まずくないか?」
「遠慮すること無いよあんな女」
何だろう、御影はアリスの事が気に入らないのか? 普段よりも表情が険しい。
だからといって何かあるわけでも無いだろう、喧嘩を売らなければの話だが。
流石にあのアリスの能力を見たのならそれも無いだろう、圧倒的な防御力の前では御影の高速移動も意味が無いだろう。
もっとも、何か発動条件やリスクがあるのなら変わるだろうが。
「何ぼーっとしてんの? まだ眠い?」
「眠いな、ぼーっとしてたのは別の理由だが」
「理由って何?」
「お前が暴れないように願ってただけだ」
「それじゃぁまるで私がしょっちゅう暴れてるみたいじゃん」
その通りだろうと呟いた瞬間に拳が鳩尾に突き刺さる。
「クリティカルヒット、幸やんのライフに1のダメージ、幸やんは息絶えた」
「1ダメージって低いな! つか俺のライフ1?!」
痛みを無視してついつい突っ込んでしまった、背後では暁が楽しそうに笑っている。
そんな中、教室にミー先生がやってきた。
「はーい、席に着いて下さい、ホームルームを始めます」
少し舌足らずな発音で大声で叫ぶ、必死さが伝わったのかすぐさまクラスメート達は席に着く。
御影と暁も素直に席に着き、ホームルームが始まる。
(眠いなぁ……)
ふぁ〜と欠伸をして、何となく右を向いて見る。そこはまだ空席だった。
(まだアリスさんが来てない?)
休みだろうか、何となく体の弱そうなイメージがある。
肌が白すぎるせいだろうか? 先入観過ぎるか。
「あれ〜? アリスちゃんはまだ来てないんですか?」
どうやら連絡もいって無いらしい、遅刻か? 優等生がそんな事をするのだろうか。
それこそが先入観過ぎるのかも知れないが。
「まぁアリスちゃんならいいです、サボりって事も無いですし、きっと何かしら事情があるんでしょう」
ミー先生は一人で勝手に納得しホームルームを続ける、ミー先生がいいならそれでいいんだが、
未だに来てないことは少し気になる。
昨日に轢かれかけた少女を見ただけに事故にでもあったのかと思ったが、あの能力があるなら寧ろ
轢いた車の運転手の方が危ないだろうと思考が行き着き、考えるのを止める。
「すみません、遅れました」
ホームルームが終わりかけた頃にアリスさんは登校してきた。
余り急いだ様子もなく平然としている、だがはっきりとクラス全員は遅刻した原因が解った。
寧ろ気づかない方が凄いだろう。
アリスさんの綺麗な髪には寝癖がついている。
本人は気づいていないのだろう、だが周りから見ればすぐにわかるほど一部分だけはねている。
アリスさんは集まる視線を訝しげに思ったのか席に着いた瞬間、隣の席である俺に何かあったのかと聞いてくる。
隣の席であるため話しかけられたこと自体は嬉しい――だが、今回に限っては隣の席だということをかなり後悔した。
(言うんだ幸やん、勇気をだすんや!)
暁がこちらをじっと見ている、言いたいことは解る、だが……現実にそれをなすことはかなり厳しい。
俺が悩んでいる間にもアリスさんはこちらをじっと見てくる。
ああ……美少女に見つめられるなんて男としては至高の一時だろう。
覚悟を決めないといけないらしい、これ以上無駄に時間を浪費したところで自体が好転することなど有り得ない。
(言ってしまえばそれで終わりだ!)
「え……っと、あの――寝癖着いてますよ?」
その瞬間アリスさんは立ち上がり教室から出て行った。数分後寝癖を直したアリスさんが教室に戻ってきた時、
思いっきり睨まれたのには言ってしまった自分に後悔がつのった。
「いやぁ、ものの見事に言ってしまったな幸やん」
ホームルームが終わり隣からの険悪なオーラに耐えられなくなった俺は暁の席の隣に座っていた。
一番けしかけてきた本人が馬鹿にしてくるとは、はめられたのか?
「つうか、普通もっと気を使って言うでしょ」
「ならお前が言えば良かったじゃねぇか御影……」
いつの間にかいた御影が暁と共に先ほどの話題で精神的ダメージを俺に与えていく。
流石に直球勝負は不味かったか……。いや? 直球勝負以外に何か方法があったのだろうか……………
「さて……どうしたもんか、アリスさんのあの不機嫌オーラに耐えられる自信が無い」
「私だって居心地悪いわよ、後ろの方からあんな不機嫌オーラ出されたら」
「サボっちまうかい幸やん?」
魅惑的な誘惑だ。だが入学二日目からのサボりは問題児扱いに拍車をかける気がする。
そんな俺の思考は無駄だった、いきなり御影に腕を掴まれて連れて行かれる。
「ナイスアイディアだよ暁、今から全力でサボろう」
「まて? 何で俺まで?」
「旅は道連れ世は情けって言うじゃない?」
「旅じゃ無いし、情けも何も無いよな?!」
俺の反論は虚しく、御影と暁は俺を引きずって教室からエスケープした。




