第一話
どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう………………………………………………………
洗面台の前で頭を抱えている、紅花 幸也、15歳【男子】
幸也は顔を上げて鏡を見る、身を包むのは黒いブレザーの制服、幸也が今日から通う高校の制服だ。
そう今日から俺は高校生……………、新しい生活が始まる、きっと普通の人は楽しみで仕方ないだろう。
でも……でも俺は……、またも頭を抱えて洗面台に突っ伏す。
別にHIKIKOMORIでも対人恐怖症でもない、高校に行く事、事態は楽しみだ。
だけど――その高校が問題だった………。
20年ほど前から何の兆候なく人類に異変が起きた。
超能力者、世にそう言われる存在が現れ、急速に増えていった。
今では全人口の10万分の1は超能力者だと言われている。
不幸か幸運か俺もその一人だ。
普通の人よりも運動能力、学力共に優れた能力者達。
そんな人間達のみが通う高校、黒羽学園、それに幸也も通うことになった。いいや、そうなった。
生徒全員が同じ能力者である、偏見も差別も何もない場所、普通なら喜ぶべき学園。
それでも幸也は絶対に行きたくは無い。
「絶対荒事に巻き込まれる…………」
これは予言――いいや確定事項と言ってもいい、
今までの人生で能力にかかわる事において荒事に巻き込まれなかったことなど一度もない。
きっと強い能力を持った人たちに絡まれたり、嫌な思いをするに違いない…………。
そう確信できるからこそ、俺は学園に行くのが嫌で嫌で仕方がない。
現に同じ能力者であり、同じ学園に通うことになっている、幼馴染兼トラブルメーカーが約一名居る……。
そんな中では、絶対に平和に暮らせるはずがない。
「はぁー…………………」
深いため息の跡に顔を上げ、洗面台の鏡を見て気合を入れる。
「大丈夫……大丈夫、きっと何とかなる!」
「――なに鏡見て意気込んでんの、まさか……ナルシストになっちゃたの?!」
「うおぉ!」
俺の背中を叩きながらナルシスト扱いしてくる奴を、俺は後ろを振り向いて睨む。
叩いた犯人はなお反省も何も無い表情でこちらを見ている。
「いきなり何だ、御影………」
上杉 御影、俺の幼馴染だ。
ショートヘアの可愛らしい顔付きに元気そうなオーラを身に纏った少女だ。
一見すると愛らしい美少女である、だけど幼児体系のつるぺったんだ。それに俺は知っているぞこいつがどんな子悪魔か!
憎むべきトラブルメーカーであるか!
「何って折角一緒の学園に通うんだから一緒に行こうと思って、誘いに来たんだよ」
はしゃぎながら笑う姿は何とも可愛らしい、だがそんなことで見惚れてはいけない、コイツの行動と思考は最低最悪だ。
これ以上ここに居させると何をしでかすかわからない、中学生の頃にワックスなどの化粧品をダメにしやがった事だってある。
「わかった、わかったから玄関で待ってろ、すぐに行くから」
「しょうがないなぁ、玄関で待っててやるからすぐにこいよー!」
朝から元気な奴だ……、しょうがない、ここは覚悟を決めて学園に行くべきか。
俺は一度部屋に戻り、鞄を手にしてから玄関に向かう、家には誰もいないので戸締りをして外にでる。
「それじゃ、いきましょーか」
元気の塊の様にはしゃぎながら歩き始める、本当にコイツは今日から高校生なのだろうか、もしかしたら小学生かもしれない。
にしても、こいつは怖くないのだろうか、能力者しかいないところが、
物凄い気性の荒い奴が襲ってきた入りするかもしれない………。
能力を使った喧嘩が日常茶飯事かもしれないんだぞ!
「幸也、またヘタレな事考えてたでしょ?」
「へ?」
何だいきなり――まさか俺の心のうちを読まれたか?
いいや、そんなはずはない、こいつがそんな器用な真似できるはずが無い。
「どうせ、能力者たちが大量に居て怖いんでしょ〜、顔に出てるよ!」
「そ……そんなことないからな」
ぐぅ……予想外だ、流石に付き合いが長いだけあって俺の考えはお見通しか………。
馬鹿の癖に中々やるじゃないか、俺のほうが学力は低いが。
「なーに、何かあったら私に助けを求めるといいよ! どーんと任せなさい!」
主な荒事はお前が持ち込んでくるんだけどな、とは言わず、もしもの時の為に頷いておく。
そんな他愛も無い会話をしながら歩いて20分ほどすると学園に着いた。
「お〜、この学園て何時見てもおっきいよねぇ」
御影の言う通り学園は異常に大きい、通常の高校の二倍以上はゆうにあるだろう。
更に極最近できたものなので校舎もそれに準ずる施設もまた新しい。
そんな感想を抱いていると
「そうだねぇ、御影ちゃんの胸とは段違いやね!」
公衆の面前でいきなりセクハラ発言をしたのは決して俺じゃない。
「誰の何がちっちゃいだってぇ?」
御影は颯爽と声の主の胸倉を掴んで威嚇する。掴まれたのは決して俺じゃない。
もし俺だったらきっと掴まれた瞬間に拳が飛んできている。
「冗談やって冗談」
へらへらと笑いながらそこに居たのは俺の悪友、藤堂暁だ。
二枚目の男前な顔付きと体格の良い体、そして能力者な為に運動も学力も良い、普通だったらモテモテナ野朗だが。
セクハラ発言等が目立つ為にいまいちモテないそんな馬鹿だ。またも学力は俺のほうが低いのだが。
「次にそういったら海の藻屑にしてやるからなゴラァ!」
いい加減、怒るのを止めてくれ御影、校門の前でそんなに騒がれると周りに居る俺も恥ずかしい……。
「さて、さっさとクラス発表みにいこか幸やん」
「そうだな、できればお前とは一緒がいいが御影とは遠慮しておこう」
「何! 俺とが良いやって…………、いくらモテへんからって俺は男の趣味はあらへんぞ!」
「だれがそんな風に解釈しろと言った!」
たく……何で俺の周りには馬鹿ばっかなんだろうか……、類は友を呼ぶと言うが、決してそんなこと無いと信じたい……。
そんな俺と暁のやり取りを見ていた御影が何か悪戯をしそうな子供のような顔で見ている。
「あんまり騒がないでよー、周りに居る私まで恥ずかしいじゃん」
さっきまで騒いでた奴が何をいいがやる………、まぁいい、ここは俺が大人になって静かにするべきだ。
それに反論したってまともに聞かないだろう。
「それじゃ、見に行きましょか」
暁の一声で動き出す俺と御影、このクラス分けで多分、今後一年間の運命が決まるといっても過言でないだろう。
俺はゆっくりとクラス分けの紙が貼られている場所の前に立つ。
目を閉じてそっと祈る。
「どうか……平和なクラスでありま」
「ねーねー、三人とも一緒のクラスだよー!」
俺の祈りは終わることなく砕け散った。そうか……神は俺を甘やかしてはくれないか、別に信じてるわけじゃないが
こういう時だけは信じて憎んでやろう。
「諦めるこったな幸やん、俺らと一緒のクラスな時点で平穏な日常なんて悪魔に食べられちまったようなもんや」
「いや、まだだ、まだ分からない…………、御影をうまく制御できれば平穏な日常は帰ってくる」
そうだ、あいつの興味をそそる様な事に近づけなければいい、そうすれば俺は平穏な日常が手に入る!
すぐさま振り向き御影を見て見ると……
「おい! 突っ立てんじゃねえよチビ! 邪魔なんだよ!」
不良だぞオーラを纏った長身の男が御影に絡んでる、ああベタ過ぎるベタ過ぎるぞ神よ! あんたはそんなに俺が憎いか!
ダメだ、昔から短気な上、喧嘩っ早い御影がこんな暴言無視できるはずが無い。
だが、何としても喧嘩は防がなくてはいけない。
「誰がチビだってぇ?」
御影が不良気取りの男を威嚇する。
――無理だ、俺に今の状態の御影を抑えることなどできない、抑えようとするときっと暴れる。
そして俺はフルボッコにされてしまう。此処は暁に頼むしかない。
「止めろ――何としてでも止めてくれ暁………」
肘で暁の脇腹を小突きながら小声で懇願する、入学初日から面倒ごとに巻き込まれたら、済し崩しにどんどん巻き込まれる。
だが、俺の考えがわかっているであろうに、暁は悪戯っぽい笑みを浮かべて戯言を吐いてくる。
「面白そうやから、このまんまでええんとちゃう?」
暁は明らかに面白がって御影を見ている、コイツに頼った俺が間違いだった……。
そんな自らの間違いを反省している間にも御影と男はヒートアップしていく。
「チビが粋がってんじゃねえよ!」
とうとう男の方が切れた、右手を後ろに引き―――御影の居る方向に押し出す。
御影は危険を察知したのか、急に左に飛びのく。
――瞬間、手の向けられた方向から鈍い音と共に先ほどまで御影が居た地面が陥没する。
「うわぁ………」
陥没した部分を見やり御影が声を漏らす。
あんなもん当たったら人間じゃ耐えられないな。まぁ絶対に食らう気なんて無いが。
「どうだ、俺様の能力は! 掌で圧縮した空気を押し出して目標物を潰す! 最高だろうがよ!」
「相手に能力教えるなんて、馬鹿なんじゃないの?」
怖がる様子も無く御影は挑発する。
駄目だ、もう止められそうにも無い………。
男は顔面を真っ赤にして御影をより強く睨む。
俺は自分が犠牲になってでも御影を止めなかったことに後悔する。
「今更謝ったってゆるさねえからなぁ!」
気のせいだろうか、何だかこの男、思いっきり負ける人が言う台詞叫んでるな。
そっちこそと呟き、御影も戦闘体勢に入る、男はまたも右手を後方に下げ、突き出し圧縮した空気を飛ばしてくる。
御影はその攻撃を横に飛びのくことで回避し次の一撃が来る前に一気に距離を詰める。
詰めた勢いを拳に乗せて男の鳩尾目掛けて殴る。
「おっし!」
確かな感触を感じたのか喚起の声を御影があげる。
隣でよわっちのぉと無責任にもつまらなそうに呟く暁を俺は睨む。
よわっちぃとかそういう問題ではない、喧嘩をしたことが問題だ。
「いぇーい!」
こちらに向けて手を振ってくる御影、ほんと弱いな不良っぽい男よ―――え?
「こんなんでやられるかよ!」
男が急に動き出し、両手を後ろに下げ、即御影に向かって突き出す。
声に振り向いた時には御影の寸前にまで迫っている。
「もらったぁ!」
男が腕を完璧に振りぬく、轟音と共に土煙が上がる。
暁は驚き、俺は呆然としている、それでも暁も俺もたいした心配はしていなかった。
「へへ……、どうなってても文句なんて言わせねえよ」
男は勝ち誇っているのかにやけている、その笑みが続いたのは、ほんの数秒間だけだったが。
それでもほんの数秒だけでも勝利の気分に浸れただけましだろう。
「へっへぇーん!」
土煙が晴れ、そこに御影が居ない代わりに声だけがする。
男は驚きを隠せない表情で叫ぶ。
(普通の能力者は)
「何処行きやがった!?」
「後ろだよーっとぅぉ」
男が声を聞いた瞬間に振り向き、そのまま攻撃に入るが、御影は一瞬でその場から消える。
(御影に勝ったと思うことすら)
「嘘………だろ?」
とっさに後ろを振り向いた男が見たのは拳を振り上げる御影の姿。
「糞がぁ!」
男は後ろに振り向くと同時に能力を発動させ掌から空気を飛ばす。
先ほどまで殴りかかろうとした御影はまたも消えるように居なくなり、
「ここだよーっと!」
(普通はできない)
男の頭上に現れる、そしてそのまま落下の力を利用し、頭上を仰いだ男の顔面に思いっきりドロップキックをかます。
ぐぅと男は唸りながら地面に倒れる。男は悔しそうに着地を決めた御影を見上げる。
「へっへぇーん、私の能力は高速移動だよ〜」
種明かしをしながらこちらに駆け寄ってくる。
さっき自分で能力ばらすのは馬鹿だとか言ってなかったか? どうせ忘れているんだろうけど。
「高速移動? 女? お前……旋風かよ……」
男は御影の事を旋風と呼ぶ、それと同時に今まで周りで見ていたほかの生徒達がざわめき始める。
旋風、それは不本意ながら広がった御影の二つ名。
二つ名は基本的に力が強くなお暴れん坊な者に付けられる能力を模した呼称だ。
簡単に言えば、問題児に付けられる不名誉なものなのだが、問題児だらけの能力者の中では尊敬の眼差しで見てくる野郎も居る。
「無駄に暴れやがって………」
どうせコイツのことだ二つ名が広まって喜んでるんだろう。
問題児になってなにが嬉しいんだか、まぁ暴れ終わった時の心地よい疲労感には同意できるが。
「いーじゃん、勝ったんだし問題なし、気にしちゃ駄目だよぉ」
「二つ名付きってばれた時点で問題なんだよ………」
きっとコイツの近くに居たら俺まで問題児扱いだ、そしてコイツの荒事に巻き込まれていくんだァ…………。
そしてばれたくも無い秘密もばれていく。
「まぁまぁ、怪我も無かったんやから別に気にせんでおけや幸やん」
「お前が無駄に甘やかすからこいつが手の付けられない馬鹿になっちまったんだぞ暁!」
「馬鹿って誰のことだぁおい?」
御影が能力を駆使して一瞬で近づき俺の胸倉を掴む、ちくしょういきなり能力を使うなんて反則だ。
もっと小さい頃からおしとやかさをコイツに求めていれば今頃は大人しかっただろうか?
「お二人さん、痴話喧嘩しとらんで講堂むかわへんか? 人いのうなってるで?」
辺りを見回して見るが騒動が治まった同時に興味をなくした生徒達はとっくに居なくなっている。
講堂に向かって走り出す俺と暁。
御影はどうしたと振り向いた瞬間にはもう既に目の前に移動していた。
「うぉ! 入学式でいきなり遅刻なんて真っ平ごめんだからな!」
「御影のはやっぱ便利な能力やなぁ」
「そんなこと無いよぉ、だってこれ使った後物凄い筋肉軋むし、まぁ慣れたから平気だけどね」
無駄に体力ばっかありやがるから平気なんだなと悪態をつこうとしたが、
絶対に無駄な体力を消費することになるので口をつぐんだ。




