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魔神、銘を刻む


 サモン・スキュラが山を駆け上がる。

 頂きのひとつを蹴りつけた。

 長い腕が、そのツメが、W.W.(ホワイトウィッチ)の空を薙ぎ払う。

 どしりとした着地にふたたび跳ねた。


 岩を蹴り、砂を巻き起こし、犬の頭が迫る。

 次々と牙がむき出される。

 数えてみると六頭、強靭な足もその獣に相応する数だ。

 それが駆ける。

 山を跳ね森を倒し岩が舞う。


 当然にも機体は揺さぶられる。

 操縦席――膝の上のメナが、ぐっと抱きついてくる。

「あー……すまん、メナ。モニターが見えん」

「あっ、ごめんなさい! 旦那さま!」

 ますます抱きついてくる。

 仕方なく、メナの頭ごしにモニターを覗いた。


 襲い来る牙、嘴のようなツメ、さらに高度を上げてかわす。

 テントウ虫を地に狙う。

 ……(もや)

 山々に沈む(もや)に見失った。

 あまり高く飛びすぎると、狙いも定まらない。

 テントウ虫の光弾を落としてみた。


 (もや)がわずかに穴を開ける。

 崖に当たったようだ。

 崩れた土砂が谷に落ちる。

 川に飲まれ、深くさらわれていく。


 その先は……。

「海だ」


 山々から切り取られたように景色が変わった。

 海岸線は崖に並び、わずかな岩礁に波が打たれる。

 群青色に濃く、空を支えているように広い。


 くるりと崖へ向き直った。

 テントウ虫を放つ。

「こっちだ、来いよ……」

 誘い込めるか。


 崖の上から女が吼える。

 腕を伸ばしツメを振るう。

 犬が駆け出す。

 がらりと崩れ、岩礁へと滑り落ちた。

「あ、落ちました!」

 波しぶきが犬を打ちつける。

 岩礁を足場に這い上がってくる。

 だが……。


「砂鉄を掘ったと言っていたな。もともとは、砂浜だったらしい」

 サモン・スキュラが足を取られた。

 わずかに岩礁の残る海岸、その下は深いようだ。

 一頭の足が海に飲まれ、もう一頭も足を滑らせる。


「足を止められたら、いいんだ。テントウ虫は効かないが……」

 武器庫(キャリバー)を開いた。


 W.W.(ホワイトウィッチ)の左腕を構えた。

 前腕部が静かに鳴る。

 二対の板だ。スリットが開く。

 さらに上腕へ……肩部を越えるまでの長さに伸びた。


 アイスキャンディーの平べったい棒のような形だ。

 それが二対の並行を持つ。

 レールガンだ。

 突き出して狙う。

「当たればいいがな。メナ、アイスキャンディーは当たったのか?」

「あ、えっと。はずれだったみたいです」

「また買ってやるさ」

 ひゅう、と音が鳴った。

 光が(はし)る。


 レールが電光を撃った。

 瞬間、海が割れる。

 海面がえぐられていた。

 崖は穴を穿ち、空が見えた。


 思い出したように波が落ちてくる。

 海が傷跡を埋めていく。

 荒海はふくれては沈み、しぶきの雨に打たれた。


 犬の頭を貫通したのだ。

「たまには当たるもんだな」

 だが、一頭だ。

 狙うなら胴体か、頭か……。


 どぷりと重い音がする。

 海が盛り上がった。

 蒼く山がそびえていく。

 波しぶきが剥がれ――。

「――尾?」

 魚の尾だ。

 覆いかぶさる……いや、叩きつけられる。

 再び、海が割れた。




 泡が見える。

 モニターにはそればかりだ。


 魚の群れでもいないものか。

 メナが見たらよろこぶだろうに。


 しぶきに日暈(かさ)が滲む。

 天使教のシンボルだそうだ。

 どうでもいいが……。

「いま祈るとしたら、こいつの速射性能のことだな」

 そして、このまま空から眺めているわけにもいかない

 アイスキャンディー……ではなく、レールガンを構える。

 装填(チャージ)はできている、が……。


 尾びれが立ち上がった。

 空に払い、海に叩きつける。

 これだけでもW.W.(ホワイトウィッチ)の背丈を越えている。

 その元はサモン・スキュラ、女の胴体だ。

 腕がしなり、ツメが掴みかかってくる。

 犬の群れが牙を剥いて待ち構える。


「旦那さま……がんばってください!」

 メナの頭へぽんぽんと返す。

 レールを前腕部の長さに収めた。

 威力は落ちるが、速射はできそうだ。


 旋回しつつ標準を定める。

 ヒットアンドアウェイだ。

 距離を取ってレールガンを撃ち続ければいい。

 制空権はまだこちらにある。

 犬の額に防がれるが……のけぞらせるほどの威力はある。


 跳ねた。いや、伸びた。

 女の腕じゃない。胴体だ。

 石像のような形相がモニターを埋めた。

 アイスキャンディーは間に合わない。

 激しい揺れが――ツメか、尾びれか。

 衝撃が襲う。


 山に叩きつけられたのだ。

 メナをしっかりと抱く。

「だいじょうぶだ。……泣いてないか?」

「はい……旦那さま!」

 樹木が多少の緩衝になったか……。


 W.W.(ホワイトウィッチ)は華奢ともいえる。

 しかし意外と打たれ強いのかもしれない。

 ただ、接近戦には不向きだろうか……。


 そういうことすら、今になってわかった。

 俺の不慣れもあるだろうが、だ。

 まさか、W.W.(ホワイトウィッチ)が苦戦するとは、まったく考えていなかった。

 メナがぐっと胸にしがみつく。

 口に出したら、不安がるだろう。


 山を薙ぎ払っている。

 サモン・スキュラ。虚体(マギア)だ。

 金切り声の叫びに()えている。


 こちらをねっとりと()めつけた。

 顔面のひびが怒りの形相を作っている、

 そして、迫ってくる。

 尾を引きずり、胴体がくねる。

 下肢は狂犬の群れだ。

 山地をえぐり取るように駆けてくる。


 両腕のツメが振り上がった。

 曲りくねり、しなり、食らいつくように伸びていく。

 たった二本の腕なのだ。

 しかしそれが、縄でも散らしたように空を覆い尽くす。


 近接用の武器を探る。

 ジャマダハルよりも強い武器だ。剣でも槍でもいい。

 武器庫(キャリバー)のリストは……。

 ロックがかかっている。

 投影を握りつぶした。


 イメージだ。

 ないものは、作ればいい。


 強い武器だ。

 どういう?

 あれを断つほどの、鋭い刃だ。

 どういう?

 光のように鋭く、何よりも固い。

 そう、細い月のように。


 銘を刻む。

 名前は……うん、大切だ。

 今度こそ、恥ずかしくない名前にしたい。


「……よし!」


 ――眉月宗近(びげつむねちか)――




 刀身が揺れる。

 刃先が煌めく。


 空が露を滴らせていく。


 その形が、見えた。


「旦那さま、びげつむねちか……って、なんですか?」

 メナがきょとんと尋ねた。

「はっ? 俺……声に出したか?」

 メナがうなずいた。


 ……恥ずかしい。


 思わず顔をおおった。

 言葉にして、思い出す。

 メナくらいの年のころだ……いや、もう少し後か。

 つっぱり棒に付けた刀銘じゃないか……。

 その頃から、俺のネーミングセンスは変わっていない。

 ……恥ずかしい。

 恥ずかしいからには……。


「見ておけ、メナ!」

 もう、やけくそだ。


「これが魔神の……堕天の力だ!」


 刀が弧を(はし)らせる。

 月が光の露を()ばす。


 つっぱり棒なのだが。


 サモン・スキュラを抜けた――。


「……魔神に斬れぬものは……無い!」


 かちりと鞘が鳴る。

 光の雨が虹を呼んだ。

 どこから湧いて出たのかはしらんが。



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