魔神、ちゃんと戦う
広大な山々だ。
見渡す限りの森が広がる。
そこを踏みつけて跳ぶ。
ひとつの隆起を越えた。
サモン・スキュラを眼下に捉える。
犬たちが見上げ、女の胴体がこちらを睨んだ。
腕がしなり放たれる。
そのツメが天を薙ぎ払う。
わずかに脚部をかすったか。
身をひるがえして犬の背後へ着いた。
犬の一頭が足を返す。
牙を立てて唸りを上げる。
ほかの犬たちも――サモン・スキュラの下半身だ、一斉に駆け出す。
前足は山を叩き、後足は地を穿つ。
女の両腕はムチのように、ヘビのように。
嘴をしたツメが森に刻みを与えていく。
メナがぎゅっと俺の膝をにぎった。
揺れるたびに目をつぶっているのだろう。
「……怖くないか? いや、怖いよな。だいじょうぶだ」
「……ボク、旦那さまといっしょなら、怖くありません……!」
そうか、と頭をなでる。
正直、俺は怖い。
それはサモン・スキュラのなりであり、形相であり……。
なにより、W.W.の戦闘経験がない。
山賊を踏みつけたり、畑を掘ったり、瓦礫を持ち上げたり……。
この世界に来て、それくらいにしか使っていない。
使いこなせるのか。
使いこなさなければならない。
まずは……。
「武器庫」
プリズムが開いていく。
モニターの横、武器のリストが宙に投影されていく。
「テントウ虫、だったな」
メナにつぶやいた。
右腕部の小盾を構える。
ひゅう、と風がすり抜けていく。
光弾の連射だ。
サモン・スキュラの踏む地面をがりがりと削っていく。
「旦那さま! すごいです!」
「うむ、まだ最高出力じゃないぞ? まずはな……」
W.W.が飛んだ。
ツメのしなりを避け、後方へとひるがえる。
颯爽と踵を返した。
「まずは、逃げる」
丘を跳ねた。
次の丘に着地する。
振り返ると、やはり追ってきている。
三角の山……木の山のすそ野が遠くなる。
「踏まれたら、痛いからな」
「はい!」
元気よくメナが返事をした。
犬の足は、ぜんぶで何本あるのか。
複数の頭がそれぞれで駆けてくるのだ。
それが女の下肢でもある。
森をなぎ倒し、谷を滑っては這い上がる。崖すらも駆け走る。
そして跳ね飛んだ。
W.W.に飛びかかる。
のしかかりに腕を耐えた。
踵の堪えが岩場を割って埋まる。
犬の暴れに小盾を潜り込ませ、ゼロ距離の光弾を浴びせた。
「近接武器は……!」
リストをなぞる。
「……ジャマダハル……」
サモン・スキュラがのしかかってくる。
「なぜこんなマイナーな武器が……」
両方の下腿部に一刀づつ。両手に抜いた。
犬を払い、突き打つ。
がちりと額に止められた。
刀身をぎりぎりと咬まれ、押さえつけられる。
もう一刀の突きが額にめり込んだ。
相当に固い。刃先がはじき返される。
そして図体の如く重い。
いくつもの前足が肩部にまとわりついてくる。
牙を払うも次の牙が迫る。
がらりと足場が崩れ、身を仰け反った。
岩を掴み、叩きつける。
犬の顔面をめがけ、手に握る岩で叩く。
転がって距離を取り、上空へ退避する。
頭を抱えた。
手のひらで顔をおおう。
「……俺は、もっとさ、かっこいい戦い方をしたいんだ……なんだよ犬を岩で叩くって。原始的すぎるだろ……」
「旦那さまは! かっこいいです!」
「そうか……もっと、がんばってみるよ……」
メナに励まされ、上空から様子をうかがう。
……その隙もないようだ。
腕が伸びてきた。ツメだ。
女の顔がぎろりと睨めつける。
とはいえ、飛行のメリットは大きい。
このまま上空からテントウ虫を撃ち続けるのはどうだろうか。
光弾をばら撒いた。
もう手加減はない。
風を立てて岩場が打ち拉がれていく。
崖が崩れ犬が女が埋まっていく。
砂煙の向こう、犬の額が……またも光弾を弾いている。
咆哮が猛った。
犬たちは崖を駆ける。
踏み台にして跳び上がる。
この高さまで、届くのか――。
牙は空を咬み、大地に落ちた。
間一髪といえる……が。
地響きに転がり、サモン・スキュラは起き上がる。
「……気を抜くと、次はわからんな……」




