表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/57

魔神、出撃


 犬たちが青天に()える。


 落石が川を打ちひしぐ。

 降りしきる土砂に流れが埋まった。


 洞窟のあった山が崩潰していく。

 それはもういい。山賊の隠れ家は、もぬけの殻も同然となったのだから。

 あの首領の女がどうなったのか。

 生き埋めになったか。

 生きてはいるはずだ。


 召喚されたサモン・スキュラが、目の前にいるのだから。


 犬の一頭が崖をつかんだ。

 前足を叩きつけ、さらなる土砂が崩れ込む。

 もう一頭は木々を薙ぎ払う。さらに一頭の猛りが天を衝く。

 いったい何頭いるのだろうか。


 その背中からは……人の胴だ。

 首領の女がそのまま巨大化したような、いや、もっと(おぞ)ましい。

 怒りを表す彫像のように、石と化した怪物のように。


 けたたましい犬を従わせ、その手で這い昇ってくる。

 潰れた山から、もうひとつの山が生まれたように。


「……そりゃ王国軍も攻められないわけだ。あんなのが、あるのか……」

 ……この世界に。

 息を切らして走る。

 振り返って見上げた矢先、影に覆われた。


 片腕が薙ぎ払われたのだ。

 ヘビのようにしなやかに、その先にはツメだ。

 猛禽類の嘴、それが人の指を成している。

 巨木のたわみが破ける。

 飛ばされた樹木が、太陽に重なる。

 その影が降ってくる。


 張り出した丘に駆け込んだ。

 転がるように身を屈める。

 破れた巨木が跳ねて飛んでくる。

 岩に弾かれ、たわみ、ずしんと落ちた。


「ま、まさしく異端よ……! あんなの教会が許すはずない!」

 ベルーシカは表情を歪ませた。

 無数の犬、女の胴体、そして顔……。

 見上げた先々へにらみを凝らしていく。

「ああ、虚体(マギア)は異端中の異端なんだったか。聖女様の権限で取り締まってみたらどうだ?」

 にらみが俺のほうに向いた。

 (ほお)をふくらまして言う。

「あんたがしなさいよ。魔神同士で戦ったら?」

「聖天使様の奇跡は起きないのか? お祈りでもして、お前も巨大化したらいいのにな」

 身を伏せつつ言う。

「なに言ってるの? バカじゃないの?」

 偉そうな態度だが足は震えている。


 しっぽもぶるりと震えた。

「あれじゃあ、ローバーが何台あっても足りないよね……」

 ミシァにしては珍しく声色が固い。

 頭についた落ち葉を払ってやる。

「あの隊長よりも、ずっとおっかないな。そりゃ誰だって怖いよな」

「……そこで! 魔神の魔神じゃん!」

 勢いよくしっぽが立った。

 俺の(あご)を打つ。

星体(ギア)虚体(マギア)って、どっちが強いの! どっちが勝つの! 魔神、やっちゃえ! 興奮してきたよ! どうしてくれよう!」

 しっぽが力を蓄えていたように、ぶんぶんと回りだした。

 立ち上がって拳を構えている。

 可愛らしく怯えていたのではなかった。


 W.W.(ホワイトウィッチ)が最終手段になることは想定していた。

 想定はしていたが……。

虚体(マギア)というのが、ここまで巨大だとは思っていなかったぞ」

 遠吠えがけたたましく森に響く。

 つんざく咆哮に頭を押さえてやり過ごす。


 白い巨人は転がった巨木を見つめている。

 ただ静かに、森に白い彩りを与えている。

 胸部のハッチが開き、メナがきょとんと顔を覗かせた。


「……同じくらいの大きさか。もちろん立てば、だが。W.W.(ホワイトウィッチ)は牛じゃないからな」

 パーシアンナがさらりと言う。

「大きさまで伝えておくべきだったでしょうか?」

 蹄鉄型のタラップに乗って答える。

「いや。呪文のような単位を言われても、余計わからなかっただろうからな」

「村の駐屯軍からも、よく見えるでしょう」

「そういうことだ」


 王国軍に力を見せつけないといけない。

 サモン・スキュラは申し分のない相手のようだ。


「旦那さま! おかえりなさい!」

「ああ、いい子にしていたか?」

 メナの腕が回ってくる。

 しっかりと抱きかかえ、膝の上に乗せる。


 遠吠えの響きが森を駆け巡った。

 ハッチが静寂を生む。


 ゲーミングチェアに、しっかりと腰を埋めた。


 操縦席が光の分岐に包まれる。

 モニターが外を映していく。

「メナ。こういうときにな、なんて叫ぶか知ってるか?」

「えっと……わかりません……」


「クリストファー・フォルネウス! W.W.(ホワイトウィッチ)、出撃する!」


 白い巨人が森に立った。


「えっと、旦那さま、なんで自己紹介をするんですか?」


 ……自分が恥ずかしくなった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ