魔神、四つん這いをする
森だけあってヘビくらいはいる
相手はネズミだろうか、落ち葉の下から牙を剥いた。
それをトンビの爪がさらっていく
空から狙っていたのだろう。
W.W.は四つん這いで歩いている。
落ち葉を分け入るようにだ。
実際は倒木を踏み、岩石を乗り越え、樹木を揺らしながら、だが。
「……俺はなあ、巨大ロボットってな、もっと凛々しく立ちそびえてるもんだと思ってたんだよ。腕がロケットみたいに飛ぶとか、ライフルビームでもいい。少なくても、赤ちゃんみたいにはいはいをするなんて考えたこともなかった」
思えばそうだ。
登場した山道はせまく満員電車のようになる。
威嚇しようとしたポーズは美少女アイドルさながら。
今日はこそこそと森の中を四つん這い……。
強そうな巨大ロボットのイメージとはかけ離れてばかりだ。
「ごめんなさい、旦那さま、ろけっと……とか、よくわかりません」
ハッチは開いたままだ。
膝の上のメナは、周囲を眺めては俺のほうをちょこちょこと確かめてくる。
それはそれでほほえましいのだが。
「うむ。要するに、もっと堂々と歩きたい、ということだ……」
「堂々と歩けばいいじゃん」
操縦席の上からしっぽが降ってきた。
ミシァは上機嫌にうろうろと、胸部やら肩部やらを登っている。
滑り落ちるたびに手ですくって操縦席に戻してやるのだが……。
こういう繊細な使い方しかしていない。
たとえば、この世界にトレーラーがあったらどうだろう。
運搬に便利だろうか。
いや。走るため道路がないと、まともな役に立たない。
馬車のほうが、この世界では便利なのだ。
その馬車も、こういう山の中では動けない。
適材適所なのだ。
このW.W.が活躍できるところはどこなのだろうか……。
「……堂々と歩いたら王国軍に見つかるだろうが。それに相手にもだ。こんな山々で山賊に逃げられたら、捜すあてもなくなる」
居場所の見当はついている。
そこまで身を潜めながら近づいていく。
王国軍――村にいる機兵連隊よりも前に、山賊を討伐しなければいけない。
「今度こそ山賊なんだ」
三角の山につぶやいた。
しっぽがぶらぶらと目の前に垂れる。
「いそうな所を踏んで歩けば、びっくりして出てくるんじゃないの? ついでに踏みつけて倒せば、うちらの勝ちじゃん」
「だから……ヘタにW.W.を動かすと王国軍に見つかると……今は山賊よりも、俺たちのほうを捜していると思うぞ?」
犯罪者なのだ。
それも国家転覆に当たる罪が二回、いや三回になったのか。
それと兵備の窃盗……そちらが可愛く見えてしまうくらいだ。
そのローバーは村に置いてあるが……。
もうそれでの畑の開拓はできそうもない。
村の発展どころか、追われる身になっている。
「王国軍に見つかってもいいじゃん。踏み潰したり追い払ったりできるし。今さら、なにが困るのさ。やっちゃいなよ」
「お前はやっちゃいたいだけだろ。踏み潰したりもしない。……手柄を横取りされないか心配なんだ。俺たちがサモン・スキュラを倒してだ。そこに王国軍が到着する。自分らが倒した、と言われたら交渉もできなくなる」
そう。だから引き渡すのは、王国側ではなく教会がいい。
ここでの第三者の教会を利用する。
教会にとって王国は目の上のたんこぶ、らしい。
その王国軍の追う山賊は、交渉の材料だ。
捕えれば圧倒的な力の証明になる。
力を直接、王国軍に見せつけても意地を張られるだけだ。
「……だから、その首領も可能な限り生け捕りにしたい。最低でも王国軍と交渉できる形にだ。こっちの目的は、あくまで無罪放免だからな」
一生追われるのはごめんだ。
「倒せる前提なのね」
ぐったりとベルーシカがつぶやいた。
水平にしたタラップの隅でうつ伏せている。
やはり打ち上げられた魚のようだ。目は死んでいる。
操縦席に入れて乗り物酔いされたら、たまったもんじゃない。
「そこが一番、振動が少ないんだがな。……サモン・スキュラ、か……」
召喚師、その召喚する虚体。
王国の機兵連隊も攻めきれずにいる。
山賊自体なら前に退けている。
その首領の召喚師のことは知らないが……。
戦闘になれば、時間を止められる。
そのアドバンテージは、どんな武器よりも大きい。
怪力になるとかではないから、使い方次第なのだが。
「まあ、W.W.がこっちの最終兵器なんだ。これで倒せないとは思えないが……」
まさか相手も、巨大ロボットが四つん這いで来るとは思わないだろう。
「……とにかく、なるべく迅速に。山賊を見つけたら王国軍よりも前に討伐する」
「山賊を見つけたら、踏み潰すんだよね? それとも撃っちゃう?」
「だから、捕獲が優先だと……」
ふらりと眠気がやってきた。
今日はここまでのようだ。
山賊の隠れ山に、できるだけ近づくことはできた。
「パーシアンナ……も、寝ているのか……。まあ、昨晩からずっと警戒に当たっててくれたようだから、寝かせておいたほうがいいか……」
白衣がやわらかく肩にもたれている。
「……先生、ふふ……はい、もちろん。混沌の彼方へ……」
……寝言のようだ。
「お! 眠りの魔神! 待ってました!」
ミシァが逆さに顔を覗いてくる。
しっぽが鼻をくすぐってくる。
それでも、眠気には抗えない。
「……夜は交代で見張りをするんだぞ。獣にも注意だ。なにかあったらお前ら……メナを守れよ……それとあまり騒ぐなよ……」
うつらうつらと、インベントリーからレーションメイドを探る。
こいつらの食料だ。
ぎゃあぎゃあ騒いでいるが、人数分を取り出した。
次に目が覚めるのは、およそ二十時間後。
それまで、こいつらがなにかやらかさないか、それだけが心配だ。
「……時間は有限だからな。大切にしろよ……起きたら迅速に……討伐を開始する……」
そうできることを祈る。
なぜかメナが抱きついてくる。
いっしょに寝ようとしているのか?
おい、しっぽも巻き付いてくるぞ……。
もげ、とかいう声も聞こえる……。
ふわりとした感触のなか、眠りについた。




