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魔神、脱走する


 ――まずはメナだ。


 騒がしい二人は、まあついでだ。

 担ぎ上げられなければ置いていこう。


 空気がゆっくりとまとわりつく。


 止まった時間を走った。


 メナをゆっくりと抱き上げる。

 ゆっくりとだ。

 解除(リリース)したときの反動で吹き飛んでしまう。

 W.W.(ホワイトウィッチ)の足元に下ろす。


「……村のために言い返した、か」

 ベルーシカとミシァを担ぎ上げた。

 両肩にずっしりと沈む。

 いや、この時間の中では、風船のようでもある。


 メナの泣きじゃくったままの顔。

 いつまでも見ていたくはない。

 早く、解放してあげたい――。


 肩からずるりと滑り落ちた。

 ベルーシカは顔面、ミシァは後頭部を地面に打ったようだ。

「いたいいたいいたい! なに! なんなの!」

「ふぎゃあ! 前も打ったとこ!」

 双方とも身をよじって転がる。

 メナがきょとんと泣き止んだ。


「旦那さま! 旦那さま……!」

 頭をぽんぽんとなでる。

「もうだいじょうぶだ。行くぞ」

「……はい!」


「パーシアンナ、走れ!」

 声の先を探し、白衣が駆けてくる。

 誰にとっても、一瞬だったのだ。

「あ! またあんたの魔神力ね!」

「魔神! わかんないけど魔神!」

 縛られたままの二人が跳ねだす。


 W.W.(ホワイトウィッチ)の胸部が開いた。

 蹄鉄型のタラップが降りてくる。

 この高さだ。多少の時間はかかる。


 どっちが早いか。

 消えた(・・・)俺たちに気づいた兵士たちとだ。

 戸惑いながらも剣を抜いて向かって来た。


「先生! 先生! 先生っ……!」

 パーシアンナの鞭がぴしりとうなる。

 ペンから鞭が伸び、兵士たちを打っていく。

「一瞬たりとも離れたくないのに……!」

「一瞬くらい、許してくれ。それと、こいつらの縄も頼む」


 ペン先がナイフへと変わった。

 縄が切られていく。

「早く乗って逃げようよおおお!」

「魔神! 兵士! こっち来た!」

 兵士が駆け出してくる。


「おい、これ」

 インベントリー……ではなく、ズボンの中から引っこ抜く。

 なぜか入っている杖と銃。

 こいつらのアーティクルだ。


「なあ、なんで、俺の尻……じゃなくて、ズボンの中に隠したんだ……」

「あんた、お尻からなんでも出すじゃない」

「逆に、そこに入れたら、見つからないと思ったんだよね」

 ベルーシカがしっかりと杖を握った。

 宝石……アセンブラーが光る。


 耳鳴りだ。

 兵士たちが倒れていく。

 村人も犠牲になってるのは可哀想だが。


「いただきますは、言わないのか?」

「は? なにそれ?」

「こっちもいくよー!」

 がちゃがちゃと銃が組み立てられる。

 砲身の長い小銃だ。

 しっぽも使ってミシァが構えた。

「撃っちゃっていいよね!」

「今だけは、いいぞ」


 ばりばりと轟音が放たれた。

 砲身に並ぶアセンブラーが次々に光る。

 光っては消え、光っては消えと、発射と装填の連続だ。

「おい、加減しろ!」

「なに? 聞こえない!」

 静寂にかちかちと鳴る。

 ひとまず撃ち尽くしたようだ。


 蹄鉄型のタラップに乗る。

 ゆっくりと上っていく。

 追ってくる兵士は、もういない。

 ただ一人を除いて。


「隊長殿、すばらしい標準装備で助かりました」

 見上げる屈強な男に別れを告げた。

 W.W.(ホワイトウィッチ)がなければ、やっぱりこわい。


 そして偉そうなことを言ってる場合じゃない。

 これで国家転覆と強盗に、逃亡まで罪がついた。


 しかし今は、目の前の問題が優先だ。

 W.W.(ホワイトウィッチ)が高く跳ぶ。

「ベルーシカ、吐くなよ……」



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