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魔神、縛られる


 交渉は成功した。


 気持ちよく眠りにつけた。


 これからの課題は多いが、それは明日からの話だ。

 今は、安心して眠ろう。


「……そう思って、眠ったんだが」


 後ろ手に縛られている。

「おいおいおい……! どうなってるんだ!」

「ふふ、先生。おはようございます」

 すぐとなりでパーシアンナが微笑みをかける。

 その手も後ろに縛られている。


 メナは……。

 どこだ。


 いた。

 同じように縛られている。

 とりあえず無事なようだが……。


 ここは村の外だ。

 まったく知らない場所よりはいいが……。

 俺たちは捕まっている。

 村じゅうを兵士たちが、どこともなく歩いている。

 村人は……縛られこそしていないが、一箇所に集められている。


「交渉はうまくいったんじゃないのか……?」

「はうっ! 先生の吐息が耳に! 身も心も溶けてしまいます……」

「パーシアンナ、説明してくれ」

「はい、もうすでに溶けていますが……」

 縄は固い。

 どこかの山賊の粗縄とは大ちがいだ。


 そして、尻の下がごわごわする。

 なにか踏んでいるのか?


「順を追って話しますと、先生が暗黒の深海で瞑想を始められたあと……」

「待て。なんだそれは」

「お眠りになられたではありませんか」

「……わかってるならそう表現してくれ」

「では、先生がお休みになられたあとです」

「なにがあった」

「なにごともなく。どちらかといえば王国軍も友好的でした。まあ、油断はできないので、私は先生の添い寝をしつつ警戒に当たっていたわけですが」

「……添い寝はいらんが、起きていてくれたのか。それは助かった」

「メナちゃんの眠り顔を見ながら、先生との子供のように考えていると、それはそれは幸せな気分に浸れました」

「するとメナも添い寝か……。いや、そこからなぜ、こうなったのか聞きたい」

「はい。今朝になり、村の人たちが機兵連隊のみなさんへお供えをはじめました」

「お供え?」

「そう話し合っていたようです。これで見逃してくれ、と」

「見逃すもなにも……」

 力には屈服で。

 やられる前に自ら被害を作る。

 そうやってメナも差し出そうとしたのだ。


 聞きながらも尻がごつごつする。

 ズボンの中に、なにか入っている。

 縛られたままでは、なにかはわからないが。

 眠ってる間に、いたずらでもされたか?

「先生?」

「……いや、そういう村人だったな……それで?」

「細いダイコンや小さなジャガイモです」

「ああ、村にはそれしかないんだ」

「その貧しさを兵士たちが、からかいまして……。言い返したのです」

「言い返した。誰が?」

「わたしを誰だと思ってるのよ!」

 ベルーシカが大声を上げた。

 縛られたまま暴れている。


 パーシアンナの目線が示している。

「あいつか……」

「はい。それとミシァさんも」

 村の農作物をバカにされて、言い返したのか。

 それだけ村に愛着が湧いたということか?

「まあ、からかわれたら俺だって怒ったかもしれんな……。に、してもだ。それで縛り上げるのか? 王国軍はそんな横柄なのか?」


「横柄であることは否めませんが。そのあと……」

「教会が黙っちゃいないわ! 聖天使様の罰を受けなさい!」

「おっ、ベル! 撃っちゃう?」

 ミシァも加わって騒がしい。


 兵士が同情したふうな声で返す。

「申し訳ありませんが、閣下。ああいったことをされては、教義よりも軍令を優先するしかないのですよ。それにアーティクルもお持ちではないではありませんか」

「でしょうね! 絶対に見つからない場所に隠したもの!」

 縛られながらも偉そうに言う。


 この状況から考えると、まあ魔法(キャスト)の道具は没収されるのだろう。

 取り上げられる前に隠したようだ。

「隠したことを堂々と隠したと言うのはベルーシカらしいが……。なあ、まさかと思うが、その魔法(キャスト)で……」

「はい。暴れていました」


 がっくりとうなだれる。

「兵士を五人ほど倒したようです」

「倒すなよ……」

「ですが、相手も兵士です。数も質も圧倒的な差ですので、あっという間に」

「交渉が台無しだ……」


 うなだれた目の前を、大きな影が埋める。

「フォルネウス殿、お目覚めですかな」

 隊長だ。


「このような事態になり大変、残念に思います」

「ああ、俺もだ……」

「昨日のお話は興味深いものでしたが……我々は軍兵です。軍令により動きますので、今はこうするしかありません。申し訳ありませんがご理解を」

「うん……そりゃそうだろうな、暴れたら、取り押さえるよな……」

「処分は追って行います。それまで辛抱を」

 ずしりとした鎧が去っていく。


「どういう処分だろう……」

「軍への攻撃は国家転覆罪ですから。先日の強奪も、そうですね」

「その転覆罪をふたつ……。本当に、止めてほしかったぞ」

 パーシアンナはただ微笑んで返す。

 なぜか楽しんでいるようだ。

「国家転覆なんて、混沌と破壊そのものじゃありませんか……」

「そうだったな、堕天教か……。俺は、畑を耕したかっただけなんだがな」

「ここを混沌の渦にいたしますか? それとも王都の評議会裁判までのお楽しみになさいますか?」

「裁判か……。行き着く先は、どこだ?」


「問答無用、で……」

 パーシアンナは手を、首に横切らせる。

「ああ、そうなるのか……短い人生だったな……」

 ……手?


「ああ、いちおう……」

 パーシアンナは両手をひらひらとさせる。

 ロープは切られていた。

 兵士に気づかれる前に、後ろ手に戻す。

「よく切れたな」

「ええ、今し方……」

 パーシアンナがうっとりと微笑む。

 尻の下がひとつ軽くなっている。


 俺のロープも切られる。

 縛られているように両手を戻した。

「それはそうと、パーシアンナ。君にはあいつらを止めてほしかったぞ」

「先生の指示を仰ごうかと」

「起こそうとはしたか? まあ、起きないだろうが」

「はい。起こそうと寝室に忍び込みました」

「寝室というか、屋敷はそれだけだ。それに忍ぶ必要はないだろう」

 なんか表現が怪しい。今さらだが。


「すると、先生の可愛らしい寝顔がありまして。うっとりと眺めて堪能いたしました。それから覆いかぶさろうとしたときです」

「非常事態にか」

「無粋にも兵士が入って来て、先生も捕縛すると言うではありませんか。引き裂かれた愛のように感じました……」

「兵士はその光景をどう思ったんだろうな」

「しかし先生はそういった縛り縛られる戯れもお好きかと思いまして。どちらが好みなのかと考えているうちに今にいたります」

「君も一因の気がしてきた」

「私は先生の赴くままにいたします……」


「……旦那さま、ごめんなさい……」

 メナの声が聞こえる。

 泣きじゃくりながら訴えている。

 メナが一番の被害者じゃないか……。


「メナちゃんが、一番がんばったのですよ?」

「……うん?」

「先生を守ろうと、先生の星体(ギア)を動かそうと……」

「動かせないだろ。俺だけだ」

「ええ。ですが、巨大な足元にすがるように叫び続けていました。兵士からすれば脅威ですよね。もしも動いたら、圧倒的に勝ち目はありませんから」

「そうか……メナが……」

「旦那さまはお尻から布団を出せるんだ、と叫んでいました」

「メナ……」

「そんな奇妙な奴は捕らえてしまえ、と先生も捕まったわけです」

「……メナ……」

 なんだろう、この涙は。


 俺が眠っている時間。

 それは起きている時間よりも、ずっと長い。


「……経緯は把握した」


 俺の知らない間に、いろいろなことが起きる。


「それで。君は、捕まったまま、じっとしていたのか? ちがうだろう?」


 パーシアンナが不敵に微笑んだ。

「はい。縄で縛られた先生を眺めていろいろな妄想をしながら、兵士にそれとなく聞き出しておきました」

「前半はいらんが、後半は聞きたい」

「ある罪人を追っているそうです」



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