表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/57

魔神、生きた心地がしない


 生きた心地がしない。


 いや、目が覚めたときは生きた心地がしたんだが。


「まだ音沙汰なしか……」


 まだ、何事もない。

 それがかえって不気味だ。


「上への報告、奪回の準備、もしくは報復の軍備招集、そして進軍……の最中でしょうね。少なくとも軍事会議はすでに行われていると思われます。そう時間はかけないでしょう。相手がなにであろうと。軍のメンツがありますから」

 パーシアンナの言葉に頭を抱える。


 相手は王国軍だ。

 王国というのだから、この国。

 軍というのだから、その武力組織。

 警察のようなものでもある。


 そこを襲撃してしまった。

 国家反逆とかにならないか。

「……こちらからローバーを返却して、見逃してくれるってことは……」

 パーシアンナは首を横に振る。


「……ないよな。W.W.(ホワイトウィッチ)を出しているからな。そりゃ戦力を揃えてるかもしれんよな……」

「魔神様の裁き、と震えていたら見ものなんですが」

 パーシアンナが薄く笑って言う。

 楽しんでいないか?


 正直、武力で来ようと構わないのだ。

 W.W.(ホワイトウィッチ)で撃退は容易だろう。

 しかしそれが、俺のこの世界での今後の生き方に大きく関わってしまう。

 一生追われる身だ。

 いっそ国外逃亡でもしようか……。


「盗みはよくないわよね」

 ひと事のようにベルーシカが言う。

「……異端審問官の聖女閣下が教義に反する物品を接収した、という言い分で通そうと思ってるんだが」

「バカね。それを王国が素直に従うと思ってるの?」

「お前、ローバーは異端だとか言ったじゃないか」

「相手が山賊だったらね。残念」


 山賊だと思いこんでいた俺にも責任はあるが……。

「……参考までに聞くが、教会は王国に逆らっていいのか?」

 ベルーシカは腕を組む。ぷいと顔をそむけて言う。

「ローバーは異端よ」

「それは聞いた。その異端の理屈が、王国にも通じるかと聞いているんだ」

「さあね」

 そう捨てて、またそっぽを向いた。


「ミシァ。パーシアンナもだ。率直に聞くが……」

「うん?」

「はい」

「……貴族と王国軍は、どっちが強い?」


 パーシアンナは指先を(ほお)に添える。

 説明する言葉を組み立てている仕草だ。

「……いち領主の持つ戦力と、コートベル領内に駐屯する王国軍の兵力、ということでよろしいでしょうか?」

 察したようだ。

 うなずいて続けさせる。


「比べる以前に、昨日、ミシァさんも話したようにです。どの貴族も、王国軍のような職業軍人を整えているわけではありませんから。たとえば、街の自警団や個人の護衛などを戦力と見てよいのか……」

「ギルドの冒険者もだね」

 ミシァが付け加えた。

 今度はパーシアンナがうなずく。

「貴族の兵力、というなら、その都度それらを雇うことになります」

「お金かかっちゃうね、家が潰れちゃうよ」

「民間警備みたいなものか」

「ミンカ……?」

「いや……」

 逆にいえば、経済力次第で王国に張り合える。

 王国は貴族の反発を恐れているのだから。

「……いや。後ろ盾があれば、と思っただけだ」


 ミシァのしっぽがぐるぐると回る。

「王国軍、やっちゃう? 反乱しちゃう? 魔神がやるなら、ダディも応援すると思うよ?」

「俺はただ、村の畑を耕したかっただけなんだよ……」

 ……それがなんで、反乱の話になるんだ。


 王国軍がなにも言ってこないのがベストだ。

 もちろん、そうはいかないだろうが。

 相手の出方に最良を求めるのは歯がゆい気分だ。


「待て。なんかおかしい。……なんか……」

 違和感がある。

 こいつらにだ。


 メナだけがきょとんとしている。

 事情をよくわかっていないのだろう。

 ほかの三人は……。

 目を合わすと、微妙に反らしてくる。


「お前ら全員、正座しろ」


 こんなことをしている時間もないんだが……。




「えっと、村にひどいことをするのは、みんな山賊だと思ってました」

 正座をしたメナが言う。

「そうだな……そうだよな。村の大人ですら、そういう理屈だもんな……」

 メナを責めても仕方がない。


「ベルーシカ」

 呼ぶとびくりと背筋を伸ばした。

「教義に逆らうものはみんな山賊だと思ってました」

「嘘だな。本当は気づいていたんじゃないのか」

「う……」

「聖女様が王国軍の紋章を知らないはずがないよな。森でひと目見て、気づいたよな?」

「うう……」

 泣き出した。


「せ、せ、聖女として、と、とっ捕まえて、て、手柄がほしかったんです……」

「後先を考えずにか?」

「お、う、はっ、こ、こ、ごらじ……べっ……」

 泣き声のほうがうるさくて話にならない。

 通訳をするようにミシァが言う。

「王国は教会の目の上のたんこぶだから。こらしめてやろうと、思ったんだよね?」

 ベルーシカがうなずく。

「後先を考えずにか? ……ミシァ」


 しっぽがぶるりと立ち上がった。

「知らない」

「まだなにも聞いていないが。王国の紋章を見間違えました、とか言うつもりか?」

「あっ、そうですよ」

「嘘つけ!」

 口調までちがうじゃないか。

「だって、魔神がやるって言ったんじゃん!」

「その前に、なんで山賊じゃないって、ひと言でも言わなかったんだ」

「だって……」

 しっぽが沈んでいく。


「自分とこの領地だよ? なんで王国に好き勝手されなきゃいけないのさ。それで、魔神がやるっていうなら、これは反乱だなって思ったんだよね」

「王国軍を、やっつけたかったと?」

「王国から戦力を奪えば、貴族が有利になるじゃん」

「ローバーいくつかで、そうなるのか?」

 悔しそうに唇を曲げている。


「ミシァは領地のため、両親のためにやろうと思ったのか? 俺が王国軍に立ち向かえば、貴族の反乱のきっかけになると」

 うつむいたまま、しっぽで返事をした。


 気持ちまでは責められない。

 王国を攻めるよりも、自分の領地の発展を考えるべきだろうに。

 そう単純にいかないことはわかるが……。


「パーシアンナ」

「はい」

 静かに、いつも通りの返事だ。


「王国軍だとわかってたよな。王国の出身なんだろ?」

「先生の命令は絶対ですから」

「なんで教えてくれない……」

「先生が山賊と呼べば山賊ですし、豚とおっしゃれば、それは豚です」

「そうか……。なんか、叱る言葉もない……」

「いいえ、叱ってください。……私を犬と呼べば、私は犬になります……」

 うっとりと言う。

 なぜ楽しそうなんだ……。


「もういい、対策だ。目の前のことを考えよう。王国軍が来たら、だ」

 来るなら今すぐにでも来てほしい。


 こいつらに任せたら、次に起きたときの状況が予想できない。

 俺が起きている時間に、来てほしい。


 王国軍は教会の禁止しているローバーを持っていた。

 教会の法は通じないと思ったほうがいい。

 パーシアンナじゃないが、王国が俺たちを山賊と呼べば、山賊として扱われる。

 実際の行為は、まさに強奪なのだから。


 村の若者が慌ただしく駆けてきた。

 パーシアンナが森の見張りを指示していたようだ。


「……先生、来たようです」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ