魔神会議・1
「ここに名前を書けば、お腹いっぱいになるのかねえ」
「なります」
「リンゴは食べられるかねえ」
「もちろん」
「でもワシは字が書けんでのう」
「だいじょうぶ。丸を描くだけです」
「こら!」
「いたいいたいいたい!」
ベルーシカの耳を引っ張る。
「また布教のジャマ! あんたまだ寝てないの?」
「わるいな、まだ起きてる。それよりも、会議だ」
「はあ?」
急いで屋敷に一行を集める。
動けるときに動かないといけない。
起きていられるのは短いのだから。
ローバーというものを手に入れる、いわば作戦会議だ。
「……何度か聞いたが、もう少し詳しく。ローバーってなんだ?」
草ぶきを敷いてそこに座る。
ミシァも飛び跳ねるように腰を下ろした。
しっぽと両手を伸ばして言う。
「機械だよ。工事とかに使う、おっきな機械。魔神の魔神ほどおっきくはないけど」
「機械があるのか……」
なんとなく、丸太と縄を組み合わせたような、器具を想像していた。
もとの世界でも、古代に水道橋を作ったりしていたものだ。
しかし話を聞いていると、どうもちがうらしい。
パーシアンナがするりと指先で形を作る。
「アーティクルが動力源です。アームを自在に動かして……ちょうど手足のように。物を上げたり、歩いて運搬したり、用途は様々ですね」
「歩くのか? 二本足で」
「はい。ですから先生の星体も、街ではそう思うものもいたかもしれません」
W.W.の小型機とでも思えばいいのか。
汎用性の程度は広いようだ。
そして人力以上の労働が期待できる。
「畑を耕したり、運搬や建築なんかもできるのか?」
ミシァが大きくうなずく。
「だからさ、街のひとたちも魔神の魔神を見て、あったら工事に便利そうだなーって思ったはずだよ、たぶん」
土木機械にしては行き過ぎているのだが。
その星体といい、ローバーといい。
そしてなんといったか、虚体だ。
この世界は文明がちぐはぐなところがある。
もっとも、星体は伝説上の存在らしいが。
「あの、村のひとたちが……」
「うん? なんだメナ。入ってきていいんだぞ?」
ちょこんと屋敷の入口から顔を覗かせている。
「えっと、旦那さまの魔神さまで、また畑を耕してくれないかって、言ってます……」
また魔神頼みか。
「あー……それについて話してるんだ。とりあえず自分たちでしろと言っといてくれ」
「えっと、それと、山賊退治もしてほしいって……」
「またか……俺をなんだと思ってるんだ……」
外を覗くと、村人がこちらを見ている。
今にも集まってきそうな気配だ。
手で払って追い返した。
「魔神でしょ?」
いちいちに構っているヒマもないのに……。
「……根本的に、村のことは村人がやればいいと思ってるんだ。だからローバーだって、村にあれば村人で動かして……。うん? 動かすのはどうやるんだ?」
しっぽが外をさして言う。
「魔神の魔神」
「……みたいに、乗って動かすのか?」
しっぽがうなずいた。
「誰でも操縦できるのか?」
しっぽが自分をさす。
「ミシァができるのか? それは助かる。……ちなみに、なぜ工事に使う機械を、お前が操縦できるんだ?」
しっぽがくるりと回った。
「動かすのは誰でもできるよ。それに、貴族なら一台くらい趣味で持ってるもんだよ? なかったら領地の開拓とか庭の整地とか、どうやってやんのさ? まあそれだけに使うんじゃないけどさ」
「……異端よ」
珍しく黙っていたベルーシカがぽつりと言った。
「うん?」
「異端なの! なに、貴族なら持ってるとか!」
床をぎしぎしと踏んで鳴らす。
ただでさえボロ屋なのに壊れない心配だ。
「……聞き捨てならない。貴族が持ってる? ローバーは異端よ、違法よ!」
ベルーシカは腰に手を構えた。
ミシァが頬をふくらませる。
「はあ? みんな知ってるくらい常識でしょ。いいじゃない。べつに悪いことに使っていないよ?」
今度はベルーシカが頬をふくらませた。
「コートベル卿は、清廉なひとだと思ってたわ!」
まあ、表向きには、そうなんだろう。
「あーつまり、教会の法律では、ローバーを使うのは違法ってことか?」
「所有してる時点で違法よ、それこそ常識! 世界の法律としてね」
「じゃあ問題ないか。そのローバーは、どこで手に入るんだ?」
「はあ? ちょっと!」
「あの……」
今度はメナだ。
ちょこんと……なぜか俺の膝の上に座っている。
「ボク、見ました」




