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魔神、村へ帰る


「ご苦労だったな。パーシアンナにはいろいろ教えてもらった。名残惜しいよ」

「はい?」

「ミシァも、まあ、助かった。領爵にお礼を言っといてくれ」

「うん?」

 ベルーシカが両手をしゃくって言葉を待っている。

 何度も両手をしゃくる。

「お前は……」

 なにか役に立ったか?

「まあ、お別れだと思えば、俺もうれしいよ」

「はあ?」


 W.W.(ホワイトウィッチ)のハッチが開く。

 蹄鉄型のタラップに乗り、ゆっくりと昇っていく。


 風がふわりと高くなっていく。

 かたむく陽を眺めながらメナの背中を支えた。

「村の外も、なかなかいいものだろう?」

「はい、旦那さま」


「う、動くなら動くって言ってよ!」

「おお、魔神! 魔神に乗るよ!」

「大きくて……素敵……」

「なんでお前らも乗ってる!」


 タラップが胸部に着いた。

 転がるように操縦席に押し込まれる。

 ハッチがぴたりと閉まり、一瞬の暗闇に包まれた。

「暗いよおお! なんで暗いのよおおお!」

 ベルーシカが騒ぐ。

 耳元が痛い。

 そして苦しい。

 メナはともかく、もともとひとりぶんのゲーミングチェアだ。

 五人もまともに入るわけがない。


 信号系統の光が走った。

 走る光が分岐を繰り返す。

 落ち着いた明るさになり、しんと静まった。


「せまいよおおお! なんでせまいのよおおお!」

「いちいちうるさい! お前らがいるからだろうが!」


 頭を抱える。

 ……こともできない。


「村を見たいんだよね。魔神村。自分とこの領地じゃん? 魔神村になるとこ、うちも見とかないといけないと思うんだよね」

 しっぽが鼻の穴に入りそうだ。

「自治じゃないのかよ……。ミシァはダディとマミィが心配するだろ」

「え? 行けって言われたよ? 魔神を手伝えって」

「いつだよ」

「昨日。寝てたじゃん」

「そうか……」

 しっぽにぺちぺちと叩かれている。


「先生といっしょなら、地獄の果てまでもお供します……」

 パーシアンナは必要以上にくっついている気がする。

「地獄へは行かない……」

「ぜひお側で……村が暗黒と混沌に導かれる様をお見せください……」

「そんな禍々しい村にする気はない。パーシアンナは診療所があるだろ。ずっとサボってるじゃないか」

「あら、そうですね。では、先生の村で開きます」

「そんな簡単に……いや、でも、メナの治療もあるか……助かるといえば助かるが。……ベルーシカ……お前は来なくていいぞ……」

「あきらめないわ」

「は?」

「また布教するわ」

「ああ……宗教勧誘に行って失敗したんだったな。あきらめて泣いて帰ったのに、また行くのか」

「哀れな子牛たちが魔神に支配されそうなのに、放っておけるわけないじゃない」

「お前は……その哀れな子牛たちに、うるさいから出て行けって言われたんだろ……」


 睡魔が襲ってくるころだ。

 村にたどり着けるだろうか。

 この状態のまま眠るわけにもいかない。

 早く、帰りたい……。


 リンゴの木箱を手のひらに包み込む。

 消しゴムほどの大きさだ。

 潰さないよう、落とさないよう、持ち上げていく。


 空へ跳ねた。

 そのまま加速していく。


 余計なおみやげまでついてきたが。

 村に着いたら……。

 リンゴを配る。

 公平に分けないと(いさか)いが生まれるかもしれない。

 そんな村だ。


 魔神様(・・・)に素直に従ってくれるといいんだが。

 リンゴだって自力で作れるようにしなければならない。

 農地の再開発、水の確保、倉庫の建築。

 あの畑は耕して、種を蒔き直す。害獣よけの柵もだ。

 季節ごとに作物の計画表を作って、収穫時期と配分も決める。

 そのためにも読み書きが必要になる。

 人口も正確に把握しないといけない。

 灌漑(かんがい)用の水路もか。

 飲み水はどうするか。

 木材を集めて家屋や倉庫の修繕をする。

 すると食料は労働の歩合制にすべきか。

 そうしたら体力のない村人はどうする。

 手先でできる仕事を作らないといけない。


 そしてなにより、村人自身を働かせなくてはならない。


 ため息をうならせる。

 リンゴひとつ取ってもこれだ。

 領主とは大変なものだ。


「魔神、また寝たの?」

「寝てねえよ」

「あんた、一度寝たら起きないの?」

「今は起きてるだろうが」

「旦那さま。眠りの魔神って、なんかかっこいいです」

「ああ、そうか、眠ってばかりだけどな……」

「先生……私の胸の中でお休みください」

「パーシアンナ、息ができない」


 村と街との距離は遠くない。

 それでも生活の差ははるかに離れている。


 地上を映すモニターが村を捉えた。

 白の村だ。

「ミシァ、ちょっと聞きたいんだが」

「え、なに? このボタン押していいの?」

「勝手にいじるな。貴族が街を治める場合……」

「う……うっ……」

 ベルーシカが妙な声を吐いている。

「おい、どうした?」

 口元を押さえ、なにかを耐えている。

「ね、ねえ……もっと静かに飛べないの……?」

「お前……まさか……」

 こいつ……乗り物酔いか……?

 馬車にも酔っていた。

「もげっ……」

「おい、もう着くから、耐えろ」

「もげ……もげ……」

「待て! ここでは……よせっ!」

「もげえええ……」


 ……最悪だ。



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