魔神、買い物をする
かちゃかちゃと中銅貨が誇らしげに鳴る。
「このホタテが、銅貨十枚」
「はい」
「その銅貨……アサリ一枚で、リンゴが五つは買える」
「うん」
パーシアンナとミシァが返事をする。
リンゴ計算だと、全財産はリンゴ百五十個程度に相当する。
村人……白の村だ。
三十人いないくらいだったか。
日用品や建材のぶんを差し引いても、手土産には充分だろう。
ずっとお恵みを施し続けるわけにもいかない。
「自給を目指さないとな……」
にぎやかな通りに向かってつぶやく。
「なにを買うの?」
ベルーシカが言う。
教会って、ヒマなのか?
「白の村に必要なものだ。なにもないからな……」
ぽっかりと雲が開けてきた。
そこから太陽が街を照らしている。
「まず食料に日用品、衣服や布製品もだな。農具や建築資材も手に入るといいんだが……」
ゆっくり買い物をしている時間はない。
おそらく起きていられるのは、夕方までだ。
もっと短いかもしれない。
買い物の途中に道端で倒れても困る。
「……それまでには済ませたいな」
これほど時間を貴重に思ったことがあっただろうか。
いつまでも睡眠をむさぼるのは楽に見られるしれない。
俺もそう思っていた。
しかし実際には、できることが極端に少ない。
眠る前後まで考慮すると、なおさら制限される。
動ける時間、俺にとっては大きな財産だ。
買い物を手分けできれば効率はいいんだが……。
「たくさん買うものあるね。手伝いに来てよかったよ」
ミシァが言う。
助かるには助かる、が。
村のことだ。ほかにやらせるのもどうか。
メナが心配そうに見つめてくる。
瞳をうるませ、少しでも怒鳴ろうものなら泣き出しそうな顔だ。
「……メナ、食料を買ってこれるか?」
「あ、えっと、はい……!」
しぼり出したような声だ。
メナにとっては買い物も初めてだから不安だろう。
やはり離れるべきではないか。
ベルーシカがメナの手を引っ張る。
「わたしがいるからだいじょうぶよ」
「……それが不安なんだが……」
そのベルーシカが手のひらを見せてきた。
お手?
手を乗せてみた。
手が払いのけられる。
ふたたび手のひらを見せてくる。
無言でひらひらと要求している。
「……聖女閣下は貧乏なのか? 金をたかるのか?」
「なわけないでしょ? 侍祭たちがお財布を持って帰っちゃったんだから仕方ないじゃない」
「それで、なんでお前に恵まなきゃいけないんだ?」
「……お腹すいたんだもん」
「ミシァの家でバカ食いしてたって聞いたが」
「今朝食べてから、なにも食べてないもん……」
「朝食は食べたんだな……。わかった、わかった。メナ、村の食料を買ったら、余った分で好きなものを買うといい。この聖女様にも恵んでやれ」
「お布施としていただくわ」
「もう好きにしろ……」
これでいちおう、教会の偉い身分らしい。
「……ミシァ、お前の街だ。詳しいんだから頼むぞ」
「うん、値切りなら任せて!」
しっぽが回る。
ますます心配になってきた。
「では、私は先生といっしょに甘美な人生の旅に……」
「買い物だ」
ところどころでメナが振り返る。
それも人込みに見えなくなった。
パーシアンナがメモを取る。
「日用品、布製品、農具、建材……」
「まあ、思いつくのがそれだ。足りなければ後々で買えばいいんだが……」
「できるだけ村のことは村で賄えないか、と?」
「そういうことだ。俺は慈善家でも運送屋でもないからな」
がたがたと荷馬車が過ぎていく。
いや、ロバか。
丸太を積んで港のほうへ向かっているようだ。
「……森はあるのに、切り出す道具がないと言って諦めているようなところだからな……」
コートベルはさすが港街だ。
陸から海からのものが集まっている。
このにぎわいは貿易で成り立っていると見ていいだろう。
街中を探せば、ないものはない、らしい。
大通りから市場をめぐり、商家通りという区画へ歩く。
にぎわいの裏手といったところか、専門店のようなものが軒を並べる。
「鋸、水桶や水瓶、衣服……」
買えば買うほど、きりがないように思えてきた。
足りないものだらけだが、ではなにが本当に必要なのか。
「本……。本屋もあるのか」
村に読める人間が少ないからムダだろうか。
いや、だからこそ必要なのか。
「これは、なんだ?」
形や大きさは本だが……。
めくれるはずもない板だ。
「蝋板です。なつかしいですね」
パーシアンナも手に取る。
「今でもメモに使うこともあるんですが。子供のころは、これで勉強をしました。ほら、この棒で引っ掻いて書くんです。消すときは反対のヘラで削って……」
「ああ、ロウでできてるのか」
試しに引っ掻いてみる。
ごほんと店主がにらみを刺してきた。
「ああ、買います。買いますよ」
木枠にロウと粘土を塗った板らしい。
同じものを塗ればまた使える。
メナに文字の練習にちょうどいい。
なにが村にとって必要かはわからない。
ならば、メナにとって必要なものを買えばいいのだ。
「ああ、あった」
やっと見つけた。
商家通りも隅まで歩いたところだった。
「先生、なんです?」
「一番大切なものだ。これを買いに来たと言ってもいい」




