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魔神、金勘定を学ぶ


 破壊音が鳴った。


 そして、がらりと崩れる音がする。


「あ、起きてる」

 ミシァが壁の穴から出てきた。


 なぜ壁に穴が?

 俺は……ベッドにいる。

「……ああ、あのまま眠ってしまったのか。ここは……」

「客室だよ。いきなり倒れるからさ、びっくりしたよ。おーい、起きてるよ!」


 客室なら、壁にいきなり穴が開くものだろうか。

 ミシァは壁の穴に呼びかけた。

 壁の穴に、なぜ?


「旦那さま! おはようございます!」

「あんた……ずっと眠ったままかと思った」

「寝顔も素敵でした、先生……」

 わらわらと壁をくぐってくる。

 なにが起こってているんだ?


「ダディとマミィも心配してたよ? ぜんぜん起きないから。命占術師がいるから大丈夫って言っといたけど」

「ああ……わるいな。こういう体質なんだ……。ところで、この壁の穴はなんなんだ?」

「んっと、これは魔法(キャスト)で」

 ミシァは、指で銃の形を作る。

「ばん!」

 これまで見たなかで、最高の笑顔だ。

 舌をしまい忘れている。


 見回すと、部屋中のいたるところにタペストリーが飾られてある。

 どうも掛け方が不自然だ。

 高いのも低いのもあり、壁を隠すように……。


 めくっていく。

 となりの部屋が見えた。

「魔法弾を撃ってさ」

「空けたのか……これ全部……」

「てへ」

「舌をしまい忘れてるぞ……。領爵夫妻……ダディとマミィに叱られるぞ……」

「才能あるってさ!」

「そうか……」

 あの夫妻なら、そう言うかもしれない。


「……なんというか……家の壁すら満足に揃わないところもあるのにな……」

「うん?」

「いや、領爵には申し訳ないな、話の途中で眠ってしまって……」

 邸宅に着いてからを思い出していく。

 知らない間に夜が来て、朝を過ぎて、今はもう昼を過ぎている。


「本当にボクも、できますか……?」

「できるできる」

「読み書きからですね。私が手取り足取り、教えます」


 俺以外の時間が進んでいる。

「おい、メナに妙なこと教えるなよ? ……ああ、そうだ、買い物の資金ができたんだ。ミシァに聞きたいことが……」


 腹が鳴った。

 丸一日間を眠っていたのだ。

 そういえば昨日の朝からなにも食べていない。

「朝ごはんも昼ごはんも終わったわよ? おいしかったわ。とっても、おいしかったわ」

「そうか。そうですか」

「食べるなら用意させるよ?」

「いや、そこまではなんか、申し訳無い……」


 インベントリーを開いた。

 腰の後ろに手を入れ、レーションメイドを探る。


「そうだ、メナ。ちゃんと食べたか? せっかく出されたんだから、いっぱい食べるんだぞ?」

「あ……えっと、はい……」

 メナがそわそわと答える。


「あ、あ、あんたなにやってんのよ!」

 ベルーシカが声を張り上げた。

 顔が真っ赤だ。

 どうした?


「食事をしようとしてるんだが。なんだ、教義に反したか?」

「バカじゃないの! ……最低!」

 まったく騒がしい。

 フルーツ味にしようか、それともチーズ味か。


 メナもミシァも、俺から視線をそらしている。

「先生は……そういうご趣味を……」

 パーシアンナがもじもじと腰をくねっている。


「待て。なにを言っている」

「あの、それ……」

 メナがおそるおそる言う。

「うん? メナ、言いたいことがあるなら遠慮することはないぞ? そうだ、メナも食うか? チーズ味が好きだったな」


 チーズ味とつぶやきながら、肘のあたりまで突っ込む。

「ああ、チョコ味もあるぞ?」

「えっと……お尻、です……」

「うん?」


 ベルーシカが勢いよくまくしたてる。

「あんたは! お尻に! 手を突っ込んで! モノを取り出してるって言ってるの!」

「……は?」

「最低! メナの教育にも悪いわ、行きましょう!」

 少年の手を引っ張る。

 バタンとドアが閉められた。


「尻……? いや、俺は黒い渦に……」

 ああ! と思い出す。


 ゲームのモーションでは、尻から道具を出しているように見えた。

 もしかして、他からみると、そう見えるのか……?


 ミシァのしっぽが丸まって震えている。

「なあ、ミシァ」

「ひっ」

 尻を押さえながら下がる。


「待て! よく見ろ、黒い渦だ。落ち着け、尻じゃない」

「どう見ても! お尻だよ!」


 パーシアンナが顔を赤らめて腰をなびかせる。

「先生……私、覚悟はできています……」

「なんのだ!」


 ……最初に知りたかった。

 俺は、尻の穴から食料を出していたのか。

 尻からぽんぽん綿を出していたのか。

 インベントリーは人前で使わないほうがよさそうだ……。


「なあ、ミシァ、聞きたいことがあるんだが……」

「へっ、へんなことしないなら! 教える……」

「しないから……教えてくれ……」




 ベッドの上に並べる。


 大銀貨が三枚。

 名前の通りに大きく、置くとシーツに(しわ)を作った。

 領爵に美少女フィギュアを売った代金だ。


 これが、どれくらいの価値なのかを知らなければならない。


「大銀貨一枚が、銀貨十枚と同じね」

 ミシァがその一枚を指して言う。

 もう片手で、自分のポケットから銀貨を取り出した。


「……同じ銀だよな。サイズとしては十倍に見えないが?」

「よしきた!」

 銀貨は、俺の知っている硬貨に似ている。

 大銀貨は、なんというか……。


「大銀貨は、メダルって呼ばれてるの」

 そう、メダルだ。

 大銀貨(メダル)はいくぶんか大きく、複雑な文様が刻まれている。

 ひっくり返しても、フチにもだ。


「さて。これは、なんの紋章でしょう?」

「……街で……いや、見たことはないな」

 にんまりとミシァは笑った。

 意外と教えるのが好きなのかもしれない。

 それか、お金の話が好きなのか。


大銀貨(メダル)は王国発行なの。……で、コゼニは、貴族同士の取り決めで発行してる」

「コゼニ?」

「銀貨。貴族にとっては小銭」

 ぴんと弾いてみせる。


「金貨もあるのか?」

「もちろん。手持ちはないけど……」

 ミシァは指で丸を作った。

「なんの紋章でしょう?」

「丸? ああ、いや、見たな。……教会、天使教の印か?」

「正解! それくらいは知ってるよね!」

 そう言って腹に頭突きを飛ばしてきた。


「金貨は教会の発行なの。テンシって呼ぶけど、あんまり教会のひとの前で言わないほうがいいよね」

「ああ、それで……」

 金塊の取引を、教会が取り締まっている、わけだ。


 腹の下に尋ねる。

「銀貨一枚で、例えば、なにが買えるんだ?」

「んーと……。ゆうべ、魔神が食べそこねたぶんくらい?」

「お肉に野菜に、それとデザートに果物……お高めのディナーくらいですね」

 パーシアンナが付け足した。

 なかなか豪勢だったらしい。


「それがコゼニの価値か……なんかなあ……」

「食べそこねて残念? いちおう、起こそうとしたよ?」

「そうじゃなくて……。干からびたようなダイコンを捧げられてな。この銀貨くらいの大きさのジャガイモで喜んでいたり。それが村にできる精一杯なんだよ」


 庶民にとっては大金か。


「魔神の村?」

「メナの村だ。第四街道? 一日歩いた山の中……正確にはわからないが、とにかく小さな村だ」

 ミシァが腕を組んで記憶を引っ張っていく。

 地図を思い浮かべるように、指をたどっていく。

「ああ、あそこ、あったね。白の村」

「白の村」

 そういう名前だったのか。


「あのへん、住みにくいんだよ。クラウディアの国境がすぐでしょ? 昔は行き来はあったみたいだけど、今は仲わるいからねえ」

 そういうことを村長が言っていた気がする。

 目ヤニを思い出して、目をこすってから続きを聞いた。


「もっと大昔は砂鉄が採れたんだよ。山から海になってるでしょ? その砂浜を掘ってさ。でも採り尽くして、地形が変わるほど採っちゃったみたい。で、今は資源がない。でもまあ、それで隣国もわざわざ攻めてこない。国からしたら、いい緩衝地帯だよ」

「木材は? 森の資源があるだろ」

「曲がってて使えない。コートベルの近くで大規模に植林しててさ。加工しやすいまっすぐの木」

「ずいぶん詳しいな」

「領主の娘だし」


 ベッドの上で転がりながらしゃべる姿からは想像がつかないが。

「その領主の娘は、貧しい村をどうにかしようとか思わないのか?」

「どうにかって?」

 ミシァが顔を上げた。

「領地のぜんぶには手が回らないよ」

 枕を抱きながら転がって言う。


「街の工事、見たでしょ? 整備にもお金がかかるのよ。そのうえ外では賊だとかモンスターとか出るし、ほっとくと街の中まで来る。対策に費用が追いつかない」

 山賊には遭ったが、モンスター?

 モンスターまでいるのか?


「安全な街は維持にも費用がかかるじゃん。中途半端に村にお金を使ってもさ、襲われてでもしたらおしまいよ?」

「だからって、都市だけ発展するのもな……」

「自治領」

 枕に飽きたのか、投げつけてきた。


「王国の干渉も受けない。庇護も受けない。自分で治める。そういう貴族領地もあるの」

 枕を投げ返した。

「それを村にしろってか?」

 ふたたび投げ返される。

「白の村だけじゃないよ。それぞれの町村集落の自由自治が、コートベル領の方針」

「放ったらかしとも言えるが?」

 自由とは便利な言葉だ。

 放っておくと、あの村は永遠にあのままの気がする。


「じゃあ、つまりだ。村の開発も村自身に任せる、ということでいいのか?」

「うん。ダディもそう言ってる」


 少なくても、だ。

 メナには腹いっぱい食べさせてやりたい。

 このまま街で暮らすのもいいのだが。


 できるなら、やってみてもいいんじゃないか。


「ひょっとして魔神! 魔神村を作るの?」

「うん? ああ、開発には協力はしてみようと……。そんな禍々しい名前の村にはしないが」

 ミシァもパーシアンナも目を見開いた。

 きらきらと瞳が弾けている。


「先生! 村を滅ぼして、先生の王国を作るのですね! 私もお手伝いします!」

「滅ぼさない」

「よし、破壊しちゃえ!」

「開発するって言ってるだろうが」


 しっぽがベッドで楽しそうにしている。

「こっちには枢機卿団もいるし、なんでもできそうだよね」

「……枢機卿団?」


 パーシアンナがベッドにもたれて言う。

令廷(レディ)の称号を持つ、聖女のことです。異端審問官ですね」

「……は?」

「法を取り締まる権限のほか、教会から各領地に派遣されて、そのまま領主代理として治めたりもします」

「待て。ひょっとして……」


 ベルーシカ……?


「待て、待て。あいつ、そんなに偉いのか?」

「領地貴族と同等か、王宮評議会議長か、そのくらいの権限があります」


 ぱりんと音が聞こえた。

「壺おおお! 割っちゃったよおおお!」


 あいつがか。



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