表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/57

魔神、邸宅へ


 青草が庭を囲んでいる。


 そよそよと風を招くように揺れている。


 なだらかに下った先に、街の中心が見える。


 領主の家、らしく、街の全貌を見下ろせる立地。

 港街コートベルで、ひとつ抜き出たこぶ(・・)のひとつだ。


 白い巨人は妙に緑地の風景に映える。

 怯えていたような小鳥も集まってきた。

 足部の下、はるか小さく草をついばんでいる。


 刈り取られたばかりなのだろうか。

 青臭い風は頭をそろえて小高い丘を駆け下りている。


 ふと疑問が生まれる。

「きれいなもんだな。ぜんぶ人力で刈ってるのか?」

 馬やロバがものを運ぶ世界だ。

 (のこぎり)も満足にない村もある。

 見る限りまだ、機械技術、というものにまだ会えていない。


「まさか」

 ミシァが戻ってきた。

 庭の門のほうから駆け寄ってくる。

 息を切らしてはいるが、見るからに楽しそうである。


魔法(キャスト)だよ。草刈りの魔法使い(キャスター)を雇ってるから」

魔法(キャスト)

「集めた草は農地に……あっちね。土に混ぜて耕すらしいよ」

 ミシァのしっぽが遠くをさして言う。

 街を壁を越えたずっと先にあるようだ。


 魔法(キャスト)とは、ベルーシカが山賊相手に使っていたものか。

 変な呪文……ラップで。

「耕すのも、魔法(キャスト)でやるのか?」

 使用人や農民がラップを歌いながら作業している姿を想像した。


「まさか」

 しっぽががくりと力を抜く。


「魔神って、たまにわかんないこと言うよね。コスパ悪いじゃん。アセンブラーひとつ、いくらすると思ってんの?」

「アセンブラー」

 また知らない言葉がでてきた……。


「それより、いいってさ。会いたいって。魔神の魔神はそこに置いて、入って来いってさ」

 しっぽが急かすようにくるくる回る。

 プロペラの動力機のように押されて歩く。


 世界観としては、こう、なんだ。

 空飛ぶ飛行機を思いついた奇才が世間に嘲笑される、くらいの時代か?

 もう少し前か?

 W.W.(ホワイトウィッチ)へ振り返ってみた。

 好奇か、招かれざる客か。


 横に長い門を通り過ぎ、庭を歩く。

 街の喧騒から逃れたような花壇が、静かに一行を見つめる。


 メナも、身なりさえ整えれば、こういう風景が似合うのだ。

 その少女のような少年は、庭を邸宅をと、瞳を忙しくしている。

 思い出したように小さな手がぎゅっと握り返してくる。

 ちゃんとした靴も買わないといけない。


「……コートベル領爵も、先生の教えに導かれたら良いのですが」

 甘い蜜を見つけたように、パーシアンナがささやいた。


「その、堕天の教えだとかはともかくだ。俺は、もとの世界……まあ、俺のいた国、だ。その一般的なことしか知らないぞ」

 ここへも流されるように来ている。

 この世界のことを教えてほしいのは俺のほうだ。


 白衣がなびいた。

「これは、私たちのいう一般的な知識です」

 パーシアンナは胸のポケットからペンを滑らせる。

 万年筆にしか見えないが、キャップには小さな宝石が光る。

 ベルーシカが持っていた杖のように。


 そのベルーシカも、なぜかついてきているが。

 目が合うと、ぷいとそっぽを向いた。

 黙っているのに仕草までうるさく感じる。


「……このようなものを、先生はご存知ないように思われましたが?」

 パーシアンナが唇にペンを当てて言った。

「ペンは知ってるが……もしかしてそれで、魔法(キャスト)を使うのか?」

 うなずいて、かちりとキャップが抜かれた。

 やはりペンだが、軸のほうを示す。

「これがアーティクルです。力の源ですね」


 次にキャップの、宝石のことを言っているようだ。

「こちらがアセンブラーです。ふたつが揃って、魔法(キャスト)の道具です」

 キャップがかちりと閉まった。

 教鞭にでもしたように揺らしている。

「どちらかひとつでは、使えないと?」

「はい。一般的には。ですからまあ便宜上、ふたつをまとめてアーティクルと呼んでいます」

 電池と装置のような関係か。

 インクとペン先といってもいいだろうか。


「その、アーティクルがあれば、魔法キャストは使えるのか? 俺とかメナも」

 パーシアンナは少し考える。

「……魔法言語が理解できれば、可能かと」

「難しいか?」

「普段、使われる文字と比べたらずっと。それに計算が加わります。難しいといえるでしょう」


 村の発展に利用できると思ったが……。

 村では読み書きも不便だから、まずはそこからか。


「あの変なラップを唱えるのか……?」

 パーシアンナは少し首をひねるが、返事は早い。

「先生は食事の際、お祈りなどをして召し上がりますか?」

「お祈りまでは、しないな。する家庭もあるだろうけど。いただきますとかごちそうさまとか、それくらいだ」

「たぶん、そういうものです」


 してもしなくてもいい。

 少し安心した。

 パーシアンナは続ける。

「例外が、ローバーです。アーティクル単体が動力源ですから。仕組みのほうはわかりませんが。虚体(マギア)も同様です」

「そう、それだ。W.W.(ホワイトウィッチ)みたいなものがあるのか? そういうことを……」


 知りたいんだが。

 優先順位としては後になる、か。

 まずは身近な、生活の範囲からなんとかするべきか。


 頭をかきながら、日陰に入る。


 見上げると、コートベル領主の邸宅があった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ