魔神とパーシアンナ
両手で顔を覆う。
「……つまり、命占術師とは、医者なんだな」
ただ淡々と、話をまとめていく。
白衣の女性は、パーシアンナと名乗った。
そして、命占術師、とも。
「医者……というのは知りませんが、定義を聞く限りはそうでしょう。私は王都で学び、コートベルへ来ました。あちらはなにかと心が狭苦しいので。……ああいうふうに」
ベルーシカへちらりと目を流した。
やれ異端だの邪教だのと騒いでいる。
「……それで、こちらで診療所でも開きました。そして検診から帰ると……」
今度は崩れた建物へと顔を向けた。
ひとつ向こうが、その診療所のようだ。
「ねえ、これ虚体じゃないの?」
ミシァが望遠鏡で突っつく。
パーシアンナがそのW.W.を見上げた。
「いいえ、星体ですよ。だって、こんなに美しいですもの」
なんなんだ……。
W.W.を知っているのか?
この世界の文明水準からして、おかしいだろ。
どれだけの科学技術だと思っているんだ。
もっといえば、これは俺の想像の産物だぞ?
「あー、その、堕天教というのと、関係があるのか?」
パーシアンナは首を曖昧にかしげる。
「どちらかというと星体は天使教で、ご神体、と呼ばれています」
「ご神体……似たようなものが、ほかにあるのか?」
「ベルーシカさんが詳しいかと」
促されたベルーシカが腰に手を当てている。
「魔神が、ご神体に乗ってるわけがないじゃない!」
「あるのか、ないのか、聞いてるんだが?」
うるさい口が急に黙った。
助け舟のようにパーシアンナが言う。
「天使教でも堕天教でも、伝説、のようなものですから」
そして意地悪そうにベルーシカへ笑う。
「肯定も否定もできない。そうでしょう?」
「その伝説に乗っているから、君にとって俺が魔神先生なのか? めちゃくちゃじゃないか……」
「はい先生……。是非ともご教授くださいませ」
「は?」
「堕天の教えをもっと詳しく、快楽に導いてください、先生……」
パーシアンナがぐいぐいと迫る。
腕が巻かれ、太ももが当たる。
「先生のお話を……聞かせてくださいませ」
「うちも聞きたい」
ミシァが降ってきた。俺の頭に。
W.W.に登ろうとしていたようだ。
「どうやって動かすの? っていうか、魔神さっき消えたよね?」
頭にしがみつき、しっぽが叩いてくる。
「色々と聞きたいのはこっちなんだがな……」
「ボクも……えっと、なにか聞きたいです!」
メナも足に抱きつく。
身動きがとれない。
「では、みんなで、愛を育みましょう……」
甘ったるい声が耳にささやく。
俺は三人に埋められている。
「なにを言っているのかはともかくだ。とりあえず、こいつを移動させたいんだが。話はそのあとに聞きたい」
W.W.は、どの建物よりも高く、目立っている。
目立ちすぎだ。
すでに隠す必要もなく、ひとが集まっている。
街のどこからでも、頭一つぶんは見えるだろう。
さっきよりもずっと見物人は増えている。
子供たちが周りを走っている。
手のひらを合わせて祈る姿もある。
放っておくとまだまだ人が増えそうだ。
「じゃあ、家に来るといいよ」
しっぽがばちんと顔面を叩いた。
くるりとミシァが座る。俺の首に。
「ミシァの家?」
「見えるでしょ、あそこ」
肩車が、やや小高いところへ指をさした。
遠くに軒並みが広がっている。
いや、ひとつの建物なのか。
街の通りとはちがう趣が、ここからでも見て取れる。
「かなり、大きいな」
「いちおう、領主の家だからね」
しっぽがゆらゆらと揺れる。
メナが肩車を、うらやましそうに見つめていた。




