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魔神、絡まれる


「さすがは魔神」


 ひとだかりは上へ下へと首を這わしている。

 安堵と驚きの声が交互に聞こえる。

 助かった子供とW.W.(ホワイトウィッチ)とを見比べてだ。


「よしよし、もう大丈夫だ! もう泣くな!」

 男は野太い声で子供を抱えた。

 川の水なのか汗なのか、ぽたぽたと足元を濡らしている。

 子供が泣いているのはもう、男の大声にじゃないだろうか。


「魔神って……メナに聞いたのか。まあ、そういうことになってはいるんだが……」

「旦那さまのすごさを、知ってもらおうと思って」

 少し自慢げにしているメナの頭をなでる。

「あんまり魔神魔神と言うな。魔神が人助けなんて聞いたことないぞ」


「でも助けたじゃん。やっぱりすごいよねー」

 ミシァがW.W.(ホワイトウィッチ)をぺしぺしと叩く。

 足部の、人間でいう小指の部分だ。

 望遠鏡で突っついたりもしている。

「こら、叩くな。傷でもつけたら弁償してもらうからな」

「いくら?」


 いくらだろう。

 値段は考えたことがなかった。

 もし買うとしたら、本当にどれほどの金額になるんだろう。

 W.W.(ホワイトウィッチ)を見上げた。

 もし、もとの世界だったとしたら?

 国家予算を注ぎ込んで、こういう巨大ヒト型兵器の製造ができるのか?

 ……技術的にもムリだろう。


 そう、この世界にもないはずだ。

 ないはずなのだが……。


「魔神様……?」

 白い巨人から目を戻すと、白衣が目についた。

 甘ったるい声だ。

 ひとだかりから一歩を前にする女性だ。


 膝あたりまでの長い(すそ)の白衣だ。

 それ以上に端正な顔立ちが冴えている。

 こちらを見つめている。


「おお、ちょうど良かった! 診てくれないか!」

 今度は野太い男の声だ。

 白衣の女性を呼んでいる。

 泣いている子供は、男が下ろした瞬間に泣き止んだ。




 医者なのだろう。


 見ていると子供に尋ねながら確かめている。

 自分の指を目で追わせたり、手で握らせたり、だ。

 にこりと笑い、子供が駆けていった。

 問題はなかったようだ。


 白衣がするりと立ち上がる。

 あご先で指を組み、こちらを見つめる。

「魔神様……」


 村人たちの、崇めるような視線を思い出した。

 白衣が駆け寄ってくる。

「魔神様っ……!」


 いや、ちょっとちがう。

 (ほお)が紅潮して、なんかこう、ときめいている。

 恍惚(こうこつ)というか、笑みさえ浮かべている。


「魔神様あああっ……!」

 いや、やっぱり同じだ。

 ひざまずいて見上げてくる。

 若いが少女ともいえない。

 しかし初恋でも弾けたかのような瞳だ。


「私……夢にまで見ておりました……! お導きください……! 堕落と邪悪の世界へ! 快楽と破壊の聖地へ……!」

「買い物があるから、またな」

 これ以上、妙な人間に絡まれたくはない。


「ああっ……お待ちを……! 魔神様……!」

「見るなメナ、教育上よろしくない」

 メナの手を引いて背を向ける。


「魔神、人気者だねえ」

「こら、望遠鏡で叩くな!」

「私……! 堕天の教えを守って参りました! 暗黒経典でございます! 深淵の闇、混沌の海へ、私を……いえすべてをお導きください、魔神様……」

「なんだその禍々しい経典は……」


 ベルーシカが声をひっくり返す。

「はあ? 思いっきり異端じゃない!」

 奇声にも近い。


「堕天教! わたしの前で堂々と言えるわね! 改心しなさい!」

「お断りします」

「魔神といい、堕天教といい、この街はどうなってるの!」

「どうなってるの?」

「だから、叩くな」

「この街は、魔神様のお力により、間もなく暗黒に導かれます……」

「導かねえよ」

「生きとし生けるものは、みな堕落し救われます」

「それ! その考えが聖天使様の教えに背くの!」

「堕天教では魔神様、つまり先生の教えがすべてです」

「旦那さま、だらくって、なんですか?」

「メナ、まだ知らなくていい……」

「やっぱ魔神ってすごいね。ねえ、これ乗っていい?」

「もう、お前ら黙ってろ、ややこしい……」


 時間もないのに。


 街の見物と、買い物だ。

 その前に金銭の調達もしなければならない。


 なのになんで、俺は妙なやつにばかり絡まれるんだ……。



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