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魔神、お供えをされる


「――さま。……旦那さま?」


 美少女だ。


 いや、美少年か。


 この泣き出しそうな顔を見るのは何度目だろう。


 この顔を、笑顔にしたいんだ……。


 はっと飛び起きる。

 メナは驚いた、というより、ほっとした表情だ。


「また、眠ってしまったか……」

 まあ、寝心地としてはいい。

 木の根本やゲーミングチェアではないのだから。

 ふっくらした布団から歩く。


 外は明るい。

 眠ったのはついさっき、村に来てわずかに経ってからだ。

 そのときの景色と変わらない。


 感覚としては、うたた寝だ。

 しかし……。

 

「よかった……。旦那さまがお休みになって、しばらくして、声をかけたのですけど……」

 メナが声をしゃくらせながら言う。

 ああ、と空を仰いだ。


 小さな窓から見える空が、憎らしい。

 憎らしいほどに、朝になっている。

 また二十時間……もっと眠ったのか?


「……夜になって、何度か声をかけて、体を揺すったんですが……」

「起きなかったか」

 気づかなかった。

「頑張って俺を、起こそうとしてくれたんだな」

 メナが小さくうなずく。


「お腹の上に乗ったり、脇をくすぐったり、くさい草を嗅がせたり、いろいろやっててみたんですけど……」

「おい」

 まったく気づかなかった。

「あの、お水でお顔を拭いて、それから、その……」

 メナの頬が赤らんだ。

「旦那さまで腕まくらをしちゃいました」

「起きると思ってか? 起きないと思ってか?」

 それも気づかなかった。


「起こせって言われたのに、ボク、ボク……」

 メナは涙ぐむ。

「……ごめんなさい! ロクジカンというのが、なにかわからなくて……」

「そうか……。いや、いい。すまんな」

 目を腫らすメナの頭をなでる。


「ところで……」

 屋敷、に眺めを戻す。


「この、なんだ、リンゴだとかダイコンだとか……壺? なんなんだ……」

 布団を囲むように置かれてある。

 眠っている間のできごとだろう。

 よくわからないが、木の板やら石やら粗い縄もある。

「旦那さまにお供えしようと、村のひとたちが持ってきたんです」


 言っては悪いが、ゴミ屋敷になったのかと思った。


 リンゴは小さくしぼみ、ダイコンは細く痩せている。

 これが現状、この村で採れるものらしい。

「……この木の板はなんに使うんだ?」

「えっと……。畑を耕したり、壁の穴を、これで塞いでます」

 そうか、とだけつぶやいた。


 村にはなにもない、か。




 見晴らしとしては絶景といえる。

 山々に囲まれ、森があり、少し行けば川もある。


「その少しの距離を、なん往復も分け入っていく……」


 メナがきょとんと見つめる。

 荒れた指先が痛々しい。


 今にも壊れそうな桶と、フチの欠けた壺が置かれている。

 桶は粗い縄でくくられ、水漏れをふさいでいるつもりだろうか。

「なあメナ、あそこ……井戸の周りに並べるのは、なにか意味があるのか?」

 枯れているという井戸を指さす。


「水汲みの道具は、あそこに置くといいらしいです。水がたくさん取れるからって言ってるひともいます」

「うん? おまじない、みたいなものか?」

「昔からそうしているらしいので……ごめんなさい、よくわかりません……」

 メナがうつむいて答える。


 畑は草やぶだ。

 村長が腰を曲げている。もともと曲がっているのだが。

 木の棒で穴を掘っている。


「……なにをしているんだ?」

「ああ、魔神様、お目覚めになられたんで!」

「魔神は……いや、もういい。なにか採っていたのか」

 土をほじくった跡がいくつか。

 新しいものも、乾いたものもある。

「ジャガイモも、掘らんと探せませんで。掘って探して、探して掘ってでござますで……」


 飛んでくる虫を手で払う。

「探す? 栽培しているんじゃないのか?」

「みんなで植えて、誰かが採る。その繰り返しなんだで。どこに生えてるかわからんでござます」

「自然農業にもほどがあるだろう。(うね)とか……よく知らんが、列に栽培して、季節ごとに計画して収穫するものじゃないのか?」


 聞いてるのか聞こえていないのか、村長は言う。

「植えんと採るだけのもんもおりますで。働くと腹が減る、育てても山賊に盗られたらばムダだで。獣にも盗られますで」

「だから、あきらめると?」

「……はい? わしが村長でござますで」

「いや……もういい……」


 視察なんぞに訪れたんじゃないんだが……。

 メナは後ろをついてくる。

 ときどきこちらを見上げながら、裸足でひたひたと歩く。


「昔からそうしていた、か……」

 いや、そうじゃない。

 言葉通りに受け取るべきじゃない。


 きっと昔の村も、それなりの知恵があったはずだ。

 でなければ、いちおうでも存続できているはずがない。

 途中で廃れて、そのままなのだ。


「なんというか、人間をなめてるな……」


 この村に必要なもの。


 知識と、やる気だ。



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