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魔神、村へ降り立つ


 着地点は選ばなければならない。


 幸いにも狭い山道とはちがい、そこそこ開けてはある。

 村人にとって幸いかはわからないが。


 W.W.(ホワイトウィッチ)が村の中央に降り立った。


 考えていたのは、よく山賊に襲われないものだ、ということだった。

 それでいちおうは村を成立させているのだから。


 襲われるほどの金品がない。

 実際に見た第一印象が、それだった。




 そう、第一印象は大切だ。

 ハッチを開け、操縦席から村を見下ろす。


 日陰に敷かれた村人と目が合った。

 畑仕事をしていたのだろう。

 傍らに(くわ)が転がり、腰を抜かしている。

 屋内から出てきたばかりの者らも、呆然と見上げている。


 光源にも気をつけたほうがいいだろう。

 朝日を背に受けるよう、立ち位置を数歩ばかり調整する。

 照明の演出で印象は変わるものだ。


 広域拡声装置を引っ張った。

 カールコードが伸びる。

 あれだ、ぐるぐるした線だ。

 アマチュア無線機にあるような、そんな感じだ。

 搭載された機能の中には、微妙にローテクなものがある。


 手に収めたマイクを、口元に移した。

 スズメの群れが勢いよく飛び立つ。

『あー。こほん。……村人よ聞け。俺の名はクリストファー・フォルネウス。人は俺を、魔神と呼ぶ……』

 一陣の風が拭いた。

 おかげで冷静になれた。

 やはり、恥ずかしい。

『いや……いい。今のは忘れてくれ』


 巨人からの声に、さほど村の動きはない。

 というよりも、動けないほどに怯えている。

 ただただ目を丸くしている。

 まさか言葉が通じていないわけでもないだろうが。


 メナがカールコードを持って立っている。

 すくうような両手が、コードをびよんと揺らす。

「メナ……なにしてるんだ?」

「あっ、なんか、旦那さまが演説しているときは、そばで立っているほうがいいかなって」

 ……街宣演説に来たのではない。


「メナ、お前のことでもあるんだ。いや、それは考えなくていいが。……村の代表者はいるか? 村長とか長老とか、誰だ?」

 メナが井戸でも覗くように探した。

 この高さに、ぶるりと首を引っ込める。

 井戸といえば、ずっと下の足元(・・)にあるようだが……。

「ああ、とりあえず降りよう。ここからは話したくても話せないからな」


 蹄鉄型のタラップが降りる。

 メナが落ちないように肩を抱く。

 まあ、歓迎されないとは思うが。

 されたくはない。

 気持ちの上では、殴り込みなのだ。 

 この子を守らないといけない。


「村長はいるか? 話がしたい」

 村人はどれも、俺とメナを交互に見ている。それと背後の巨人とをだ。

 近くの者と目が合うと、すぐに逃げていった。


 入れ替わるように老人が現れる。

 顔の深い(しわ)が年齢を表している。

 よぼよぼの手足、曲がった腰、くすみきった肌。


 いきなりの土下座だ。


「お許しください……! 村にはなにもありませんで……!」

 しゃがれた悲痛な声だ。

 搾るような叫びだ。

 強盗かなにかに……まあ、そう思われても仕方ないか。

「なにかを差し出せだとか、そういうことで来たんじゃない。むしろその逆だ」


 土下座のままで返ってくる。

 地面から声がするかのようだ。

「……子供ひとりでは、お気に召さなんでしょうか。しかし若いものも限られておりますで……赤子ならば二、三人おるんですが……」

 そうじゃない。

「そういうことじゃない……!」


 朽ちかけた家……で、母子が様子をうかがっている。

 抱かれている子供だけが、怯えを知らずに見ている。

 じっとりとした木の板からだ。

 それで囲んだだけの家の中からだ。

 赤ん坊を差し出す? バカな。


「そういうことを、やめろと言いに来たんだ」

 傍らのメナが不安そうにしている。

 俺が声を上げるたびに目をつむる。

 

「……と言いますと……。なにかお恵みくださるで……?」

 老人が顔を上げる。

「そんなわけないだろう……」

「ではなんのご用で……本当に、村にはなんもありません……」


 そのようだ。

 たとえば、崩れている途中までの壁がある。

 崩れたというか、途中で施工を放り投げたようにも見える。


 畑にいた子供が――メナよりは大きいか、草やぶを分けてこちらへ来た。

 大人が怯えた顔で引っ張って止める。

 畑とわかったのは、草の中に掘られた土の跡があったからだ。

 ほっそりとした、ダイコンか? 束になって置かれてある。

 とても、農業とは思えない。

 家庭菜園にしても、もっと鮮やかだろうに。


「……こういうことを言いに来たんじゃないが、草は抜かないのか?」

 老人は俺の見やる先に気づく。

「草を抜くと、土が乾いてしまいますで……」

「育たないだろう」

「村のみなで考えた決め事ですで。単に嫌だと働かない者もおりますで」

 つまり、知恵と怠けか……。


 知恵といえるのか?


「乾くなら抜いた草でもかぶせるとか……。知らんが、水を撒けばいいだろうに。井戸……は飲用か? 近くに川があるだろう」

「……井戸はだいぶ昔に枯れて、そのままですで」

 そのまま……放っているのか?

「飲み水はどうしてるんだ?」

 老人はちらりとメナを見た。

「その子の仕事でして……。いなくなれば誰をと、もめておりまして……」

「そう、それだ。それを言いに来た。……貧しいのはわかった。だが、もう少し……」

 もう少し、なんだ。


 老人が次の言葉を見つめる。

 ほかの村人も、怖怖とこちらをうかがっている。


 安心したのは、村の貧しさということだ。

 メナがなにか特別、虐げられているわけではない。


 いや、ちがう。

「メナを山賊に差し出そうとした。そればかりは許せない」

「山賊……というか、ええ。最近、村の近くに来まして、水や食料を尋ねて来ました。村になにもないと知って去っていったで……。でもいつまたやってくるかわからんで……」

「断れないってか。代わりに子供や赤ん坊を差し出すとか、ありえないだろ、常識的に……」

「武器を持ち、大人数でありましたので……村を守るためですで」


 老人からは、後ろめたさや罪の意識を感じない。

 常識が異なるのだから、通じないのだろうか……。

 いや、そういうことが常識だから、貧しいのだ。

 その守るべき村の、担い手じゃないか、子供は。


 朝日がW.W.(ホワイトウィッチ)を照らしている。

 ただ佇み、光の稜線を奏でている。

 スズメが肩部にとまった。


 山賊を退治でもすれば、村は助かるのか?

 いや、山賊にすら見捨てられるような村だ。

 根本的な問題は、なんだ。

 なぜメナが辛い思いをするんだ。


 まずは生活水準の低さだ。

 それだけで解決することでもなさそうな気もするが……。


 ため息ひとつに、村人たちは怯えだす。

 老人が土下座を続け、許しを請う。

 有り余るほどの恐怖は感じてもらっているが、どうしたものか……。


「魔神様!」

 スズメが飛び立った。

 朽ちた家の屋根、草ぶきからだ。


 ああ、俺のことか。

 日焼けした女性が駆けてくる。

「魔神様! 夫が働かないんです!」


「……はい?」



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