獣は目覚める
この話はベティーがマイルズに会う少し前の話です。
酷い匂いがした。
瞼を開けるとそこに広がるのは赤で飾られた惨劇の会場だった。
酷い匂いの正体は辺り一帯に広がる様々な人間の死体のせいだと理解した。
「ここは?」
発声をできる事を確認する。
体の至る所を触ってみると何も異常はないようだ。
肉体は痩せこけており、病的なまでの白い肌、目に掛かるまで伸びた鬱陶しいと感じる白い髪。
「ベーティス・アイニッヒ」
何を意味をするのか彼は名を呟く。
「俺?……いや、僕か、そうだな……お腹が空いた」
彼は自問自答の解を得ると笑みを浮かべ、座っていた死体の腕をもぎ取る。
「ほむ……ほむ……やみー」
腕に齧り付き歯を立て貪る。
口回りを赤で染め人間の肉を咀嚼する。
何度も何度も何度も何度も何度も
同じ行動を繰り返しやがて、白い骨のみが残った。
「げふー……まだ足りないな……」
今度は足をもぎ取る。
「見てて思ったんだよね……人間のふくらはぎって美味しそうだな~って……」
またもや狂気の食事を始める。
人が人を喰らうという禁忌
とても許される行いではない。
彼は張り付いた笑顔を浮かべ、何の罪悪感も持たずに人の肉を喰らう。
やがて彼は腹を満たした。
周りにあった数十人程の死体は綺麗に余さず白い骨と化した。
「ふぅー……腹ごしらえもした事だし、動こうかな~」
軽々と体を浮かせ死体の山に立つ。
「う~ん、死体廃棄場と言った所かな~?どこもかしこも死体だらけ!どっかに出口はないのかな~?」
死体の山から彼は周りを見渡し光源を見つける。
「おっ!いーの見っけちゃった!」
光源の元へ駆ける。
「おお~!梯子だ~」
光源の場所には何処に繋がっているか見当もつかない長い梯子があった。
「ッ!?誰だ!貴様!!」
「やぁ!俺……じゃなくて、僕はベーティス・アイニッヒ!みんなからは愛称でベティーって言われてるんだ!君は誰かな?」
梯子を登った先には鎧を身に纏った男がいた。
「何!?アイニッヒだと?何故生きている!」
「さぁ?偶々生き返ったんじゃない?ねぇ、それよりも君の名前を教えてくれないかな?」
「そんな訳があるか!!ふざけた男だここで斬ってやる!」
鎧の男はベティーのふざけた態度に怒りをあらわにする。
「おいおい、乱暴はいけないよ」
「死ねッ!」
鎧の男は腰に差していた剣を抜き、ベティーに斬り掛かる。
「ほいっ」
「なっ!?」
斬り掛かる剣をベティーは難なく人差し指と中指のみで挟み、受け止める。
「なぁ……弱い癖にほざくなよ…雑魚が……」
髪が揺れ、眼が見える。
その目は深い深海の様に青く、猛禽類の獲物を狙う細い瞳は爛々と光り狂気が渦巻く。
「ぐふぇっ!」
受け止めていない、もう片方の手で硬い鎧に覆われた腹を問答無用に殴った。
「安心しろよ……まだ、殺さない……お前にはこれから情報を吐いて貰わないといけないからなぁ……」
殴られた衝撃により鎧の男は壁に吹き飛ばされていた。
「おい、聞いてんのか?」
「………」
「チッ!大の男が殴られたぐらいで気絶すんなよ」
「ぐぅっ!」
気絶していた鎧の男を蹴り起こす。
「ぐはっ!」
「おはようさん、早速で悪いが情報を吐いて貰うよ」
「なんなんだよ……お前は……」
鎧の男は怯えた様子でベティーを見る。
「ぐっ!?」
「あれれれれ~?もしかして~状況~分かってないのかな~?質問してるのはこっちだよ~?」
先程と同じように腹を蹴る。
「だけど、質問には答えてあげるよ」
彼は白い髪を靡かせ、狂気に吊り上がった笑みを浮かべ答える。
「初めまして、俺はベーティス・アイニッヒ、僕が知らない隠し持つもう一人のベーティス・アイニッヒだ」
「何だと……」
「ああ……別に理解して貰わなくていい。まぁ、初めましてって言ったけど最初から俺だったけどな……とりあえず俺は偽物でもあり本物でもあるってことさ」
そう言うと彼はニィッと嗜虐的な笑みを浮かべた。
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