目覚め
「ん、んん……ここは」
白い髪の青年ベティーはボロ屋の中にあった窓から光が差し目覚める。
服はいつも着ている服ではなく質素な平民の様な服を着ていた。
「いつのまに……ん?」
彼は胸に手を当てる。
「ない……痛みがない!」
病気により彼を苦しめていた痛みが何故か無くなっていた。
「す、凄い!こんなに動いても何も痛くならない!!」
病気の苦しみから解放され、彼は子供の様に無邪気にボロ屋の中を走り回ったり、跳びはねたりしていた。
「おっとっと、喜んでいる場合じゃない……ここはどこなんだ?」
ボロ屋にある窓から外の景色を見る。
外の景色は自分がいつも見ている景色とは全く違かった。
アイニッヒ領にはない活気と見たことのない商品を売る商売人
領内では見かける事があまりなかった冒険者がここでは大量にいた。
大きな剣を持つがたいの良い者や、奇妙な帽子を被り杖を持つ怪しい者など多種多様な冒険者がいた。
「凄い……」
今まで囚われていたあの部屋からは絶対に見れない光景に目を奪われていた。
「外に行こう!」
彼は少年の様に素早くボロ屋から飛び出る。
「スゥゥゥゥーー……」
外に飛び出ると手を広げ大きく深呼吸をした。
「はぁぁぁぁーー……ここは僕が居た場所じゃない!本当にどこなんだ!!」
彼は声を大にして叫ぶ。
「あのーお兄さん、あまり大きな声を出さないでもらえないかね、周りの人に迷惑だし、私の仕事の迷惑にもなるんだけど……」
後ろ声を掛けられ振り向くと、そこには困った顔を浮かべた初老の男性がいた。
「あ!す、すいません!ご迷惑な事をしてしまって」
「はっはっはっ、別に私は構わないよ。頭なんて下げなくていいのに律義な青年だ」
「節操の無いことをしてしまったのは僕なので礼儀をもって謝礼しただけですよ!僕は」
「それでもさ、面白い青年だ。私はマイルズ、君の名前は何て言うのかね?」
マイルズの質問に一瞬、悩む。
家名を名乗るか……
「……ベティー……僕の名前はベティーです!マイルズさん!」
「はっはっはっ、ベティー君か、良い名前だ」
初老の老人マイルズは愉快に笑う。
「それにしても、それは何て言う物ですか?」
ベティーはマイルズの前に並んでいた丸い緑の商品に指を指す。
「ん?これを知らないとは……もしかして寒い遠くの地域に暮らしていたのかね?」
「え、あぁー……まぁ、そうですね」
「これは『ガブル』、果物だよ。甘酸っぱい食べ物でこうやって……」
マイルズはガブルに齧りつき「シャキッ」と良い音が鳴る。
「皮ごと食べれるんだ。はむ……はむ……んんー美味い!!」
ベティーはマイルズの一通りの光景に目を奪われる。
「食べるかい?」
「え?でも……」
「いいのさ!初めての客にはタダであげてるんだ。ほれっ」
「おっ!……とと……」
マイルズがガブルを放り、それをベティーが受け止める。
「食べてみてくれ」
マイルズとアイコンタクトを取り、ガブルを頬張る。
「はむ…………美味いっ!!」
初めての味に驚き、止める暇も与えずにかぶりつく。
「はっはっはっ、そうだろう!私のガブルは王都一だからね!」
「ん?」
マイルズの言葉に手を止める。
「すいません……ここは王都って言うんですか?」
「は?ベティー君は何も知らずにここに来たのかね?」
ベティーはすかさず、こくりと頷く。
「はぁー……そうなのか、ここは『王都イリーヘル』って言うんだ。このガイア世界の……ってガイア世界は知ってるよね?」
「はい」
ガイア世界
創造神ガイアが創った、この陸、この空、この海を人々は神が作った世界
ガイア世界と読んでいた。
「そう、とりあえず王都イリーヘルはガイア世界でも有数の力を持つ巨大な国なんだ」
「はあ……成る程」
「本当に何も知らないみたいだね……」
マイルズが呆れた顔でベティー見る。
「はっ!ていうか、こんなに世話なったのにお金を……ってない!?」
「お金はいいって言ってるのに……」
ははは……と困った笑みを浮かべる。
「いえ!ここまでお世話になったからにはちゃんとした礼をしないと済まないんです!……と言う事で何か僕にもできそうな職とかありませんかね……」
「はぁ……まあそこまで言うのなら、君が腰に差している“剣“を見る限り戦えるみたいだから冒険者ギルドに行けばいいんじゃないのかな?」
「え?」
マイルズに言われ、腰に手を触れる。
腰に手を触れてみると何故か“見覚えがない剣“を持っていた。
「これは……」
「まあ若いけど頑張ってくれよ!冒険者は辛い職業だから無理しないでね!」
「え、あ、はい!!精進します!」
「うん!良い返事だ!ほれっ、おまけにあげるよ」
ガブルを放り投げる。
「良いんですか?」
「ああ、君が冒険者になったお祝いさ!」
「……ありがとうございます!!」
深く頭を下げる。
「別に大した事じゃないさ……冒険者ギルドはこの先を真っ直ぐ行った先の右にあるよ!!じゃ、またね!」
「はい!ありがとうございました!!」
礼を告げ、ベティーはマイルズの言われた通りに道を進む。
♢
「にしても彼、“鉄臭かったな“……まさか……いや、純粋な少年の様な彼にそんな事はあり得ないか……」
マイルズは一瞬、嫌な思考が遮るが否定する。
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