何もない少年
宜しくお願いします。
綺羅びやかで神秘的な祭壇を進むギールと神官は、やがて選定の儀式でギールを待つ司祭の元まで辿り着いた。
「貴方がギールさんですね?」
「は、はい!よよ、宜しくお願いします!!………あれ?僕、名前言いましたか?」
優しそうな笑顔を浮かべる司祭にギールは緊張気味に反応する。
「いえ……先程のレイアさんとの選定の儀式でお友達の貴方のお名前を聞いていたので………」
「ああ!そうでしたか!レイアちゃんからは儀式の結果しか聞いていなかったので驚いちゃいました」
司祭の言葉に納得するとギールは恥ずかしそうに頭をポリポリとかく。
「えぇ……随分と仲の良い友人だと………そうレイアさんが仰っていましたから……」
「そ、そんなぁ〜///」
「すいません……私の事をあまり自己紹介していませんでしたね。私はこの教会の司祭の役を頂いております。フトゥールム・ウィデーレと申します……」
「あ、いや!こちらこそ自己紹介しそびれました!改めて!!僕はギール・ファタリテと言います!今日は宜しくお願いします!!」
司祭ウィデーレに恐縮しながらもギールは挨拶した。
「はい………では…早速、選定の儀式と移らせてもらいますが心の準備などは宜しいですか?」
「は、はい!!」
選定の儀式で緊張しているのか少々、上擦った声で返事する。
「では……お手数おかけしますが、右手か左手。どちらかを私の方へと差し出して頂けますか?」
「はい!」
ギールは司祭ウィデーレに返事をすると共にレイアの時と同じく右手を差し出す。
「失礼します……」
司祭ウィデーレは差し出され右手に重ねるように右手を上に置き、口ずさむ。
「希望と勝利の女神プルケルよ……今、彷徨い悩める子羊に天恵を与えたまえ……」
司祭ウィデーレの詠唱が終わるとレイアの選定の儀式のようにギールの手が光る訳でもなく、静寂が支配するが。司祭ウィデーレの表情に驚愕が現れる。
「ッ!」
だが、何かを察したのか驚くのは一瞬ですぐに冷静を取り戻し、瞼を伏せ、祈るように手を握るギールに驚愕の真実を告げた。
「ギール・ファタリテ………貴方のスキルは何も……………ありません………」
「…………………………え………………」
信じられない事実に認めらなかったのかギールは反応が遅れる。
「そ、そんな………………な、何かの間違いですよね……?………司祭様………」
「…………」
ギールの今にでも崩れそうな顔から出る、震える言葉を司祭ウィデーレは瞼を閉じ、ただ苦虫を噛んだのような顔で聞き、沈黙していた。
「…………え、……だって………レイアちゃんは『加護』を手に入れたのに………僕は何も………?………本当に…何も貰えなかったのか…………?」
死んだ表情のギールがうわ言のようにブツブツと呟く。
「……ギールさん…………お辛いでしょうが…これが事実です……貴方は何のスキルも得られなかった………」
「………嘘…じゃないの?……ハハ…ハハハ………」
目を伏せ気まずそうに言う司祭ウィデーレだが、ギールはおかしくなってしまったのか急に笑いだした。
「……これじゃ…僕は何もできないじゃないか………僕が守らなきゃいけなのに………僕が約束したのに………僕の大切な幼馴染なのに………僕の大切な人なのに……………」
頭を抱え、涙を流し、ギールは辛そうに泣いていた。
「ハハハ………あーあ……大事な約束なのに破っちゃったよ………ハハ…ハハハハ……レイアちゃんに初めて嘘付いちゃった………」
彼は壊れたように頭を抱え、涙を流しながら笑っていた。
「ギールさん………貴方にレイアさんを守る覚悟があるのなら。今から言う私の言葉を忘れないで下さい」
「………ハハ……な…に…………?」
目を伏せていた司祭ウィデーレは口を開き、泣きながら笑う少年に告げた。
「ライブラという古本屋に向かいなさい……そこに貴方の選択の分岐になる運命の出会いがあります……」
「ライ……ブラ…?」
「えぇ……貴方が最期まで諦めないのならば、そこへ向かいなさい…きっと貴方の力になれるはずです……」
「………」
司祭ウィデーレの言葉を聞いていたギールは黙々と頭を下げ、強く拳を握り締める。
「……うん!!………僕、絶対に行くよ!」
顔を上げ、先程まで笑いながら泣いていた少年は泣いた跡が残っていたが、太陽のような輝きを放つ笑顔を見せ、その瞳に覚悟を宿していた。
「……僕が諦めてどうするんだ!……レイアちゃんが諦めても僕は諦めないって決めてはずなのに!……」
握っていた両手の力は更に強くなる。
「……ごめんなさい!司祭様!こんなみっともない姿を見せてしまったね!……ありがとうございます!司祭様!……僕は司祭様のお陰でまだ諦めないことができた!!」
深々とギールは司祭ウィデーレに頭を下げ、謝罪と感謝を伝える。
「絶対に諦めません!!……ありがとうございました!!」
深々と頭を下げていたギールは瞬時に身体を起こし、儀式の場から一目散に去って行った。
「………諦めないで下さいギールさん……きっと…この先、遠い未来で命を落とそうということがあっても……諦めなければ貴方達は変えられる……」
司祭ウィデーレは遠い目でギールの背中を見つめしみじみと誰もいない中、言葉を残すのであった。
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