揺れ動く炎
宜しくお願いします。
「…………レイ………………………ア…………」
意識が耄碌としてゆく中、俺は一人の名前を呼ぶ。
身体の言う事が聞かず目の前に去る男をはっきりとしない視界で見る。
(俺は……敗けた…………のか……)
ぐらりと視界が揺れ、地面が急接近する。
ドサッ!と倒れ。消えゆく意識の中、俺は思っていた。
(……もう…魔力は……それほど残っていない………)
『蒼炎の花弁』で使った魔力が大きく、まともな魔法を撃つ事すらもできなくなってしまった。
(………アア……俺は…死ぬのか……)
真っ暗に染まりゆく視界に映る大量の血を見て、自分の最期を悟る。
(……また…守れないのか……俺は………)
敗北した悔しさと何かの感情が胸の中いっぱいになり、あの時の事を鮮明に思い出す。
十年前程だっただろうか、幼い時の俺とレイアは親が仲が良く、よく知り合い遊ぶ仲だった。
「ギールくん!僕達のスキルどうなるだろうね!!」
「僕は剣が強くなるスキルが欲しいなぁ!こう……スキルを使って僕がレイアちゃんを守るんだ!!」
「ギールくんならきっとそんなスキルが来るよ!!いいなぁ!僕も強いスキルが欲しいなぁ……」
いつもの場所で仲良く遊ぶ俺とレイア。
今日、教会による選定の儀式が行われようとしていたので俺達はスキルの事を話し合っていた。
選定の儀式は年に何回か行われるスキルを調べる儀式の事である。
スキルの発現は幼い赤子から年老いた老人までと言われており、こうして教会で儀式が行われているのだ。
「ああ!ギールくん!教会が見えてきたよ!」
「本当だ!………凄い人の数……父さん達どこにいるのかな………」
年に数回しか行われない重要な儀式という事もあり、教会周辺には老若男女問わず無数の人間がいた。
「あ!ギールくん!見つけたよ!あそこあそこ!!」
大量の人間の群れをかいくぐり見覚えのある姿を目にする。
「父さん!母さん!」
「………お!来たかギール!レイアちゃんも!今日は随分と帰りが早かったなぁ!」
「さっきぶりだね!おじさん!おばさん!もう僕達は選定の儀式が楽しみ楽しみで仕方なかったんだよ!」
「もう、楽しみなのは分かるけれども落ち着きなさい?ギールもレイアちゃんも」
フフフと優しく俺の母親が微笑む。
「あれ?そういえばレイアちゃんのお父さんとお母さんは?」
「ああ!選定の儀式は順番制だからな。二人はさきに教会に行って並んでくれているぞ!」
「本当ぉ!?ギールくん!もしかしたら僕達、早くスキルが分かるかもしれないね!」
「そうだねレイアちゃん!僕、すっごくワクワクしてきたよ!ね!ね!父さん!早く行こ!」
俺は父親の手を引っ張り急かすような真似をする。
「ああ分かった!分かたって!今から行くぞ!」
そう父親が言うと俺とレイアは教会の中に進んだ。
「あっ!お父さんとお母さんだ!!」
広い聖堂の中、沢山の人が密集しておりその中にレイアの父親と母親が俺達を見つけたのかこちらに大きく手を振っている。
「おかえりレイア!ギールくん!やっぱり選定の儀式だから早めに帰ってきたね?」
「え?お父さんなんで分かったの?」
「そんなのレイア達の顔を見ればすぐ分かったさ。前から選定の儀式の事を聞いていてずっとウズウズしていたからな」
レイアの父親がレイアの頭を撫でる。
「昔からレイアは顔に良くでていたからね。お菓子を内緒に食べてた時もバレバレだったし」
「もう!お母さん!からかわないでよ!」
レイアはぷんすかと頬を膨らませ怒るが俺達は愉快に笑う。
「はい。すいません。次の方どうぞ」
神官がこちらに来て催促する。
「二人共、選定の儀式は一人で行われるけど順番はどうするんだい?」
「うーん…どうしよっかレイアちゃん」
「僕が行くよお父さん!ギールくん!」
「え、いいの?最初で?」
「もう、僕、さっきから気になって気になってしょうがないんだ!だから早くスキルを見たいんだ!」
「僕だってスキル気になるけど………」
「ダメだよ!僕が最初に言ったんだから!」
もじもじとする俺をレイアが止める。
「えぇ!?やっぱズルいよ先にスキル見るなんて!」
「もうダメだもんね!ギールくんが最初に言わなかったのが悪いんだから」
「ははは!ごめんよギールくん。こうなってしまっては僕達の言う事も聞かなくなってしまうからねこの子は……悪いけどレイアに先を譲ってくれるかい?」
不満そうにする俺を宥めるようにレイアの父親は優しく笑う。
「はい………」
「やったぁ!」
申し訳なさそうにするレイアの父親の顔を見て負けてしまった俺はレイアに先を譲ったのだ。
「ごめんねギールくん。今度、おじさんがお詫びに何か買ってあげるから許してくれないかな?」
「本当ですか!?」
「いいなぁ!」
「ああ!いいよ。少し注文するなら高過ぎるの勘弁して欲しいな」
レイアの父親は苦笑気味に言う。
「すいません。順番は決まりましたかね?」
先程の神官がこちらの様子を窺っていたのか順番が決まったタイミングで話しかける。
「あ、はい。すいません。待たせてしまって」
「いえいえ、今日は大切な選定の儀式ですからね。スキルを確認する順番だけで大喧嘩する。なんて事がありますから、まだまだこの子達は軽いもんですよ」
神官の男はにこやかに笑いながら喋る。
「それは……困った事が起こりますね」
「ええ……騎士団などが居れば簡単に収められるんですけど…騎士団がいない遠方の場所とかだと……………ああ!失礼しました!えーっと選定の儀式はレイアさんからで宜しいですかね?」
「はい!お願いします!」
レイアが大きく手を上に挙げる。
「はい……では、レイアさんこちらへ……」
神官の男がレイアを手引きし、一人の神官の前まで連れていく。
レイアを手引きした神官よりも質の高い服を着ており、優しく微笑んで待っていた。
「司祭様、お願いします」
「ありがとうございます。タルバさん……それではお名前を聞いても宜しいですかな可愛らしい子羊よ」
「レイア…レイア・イグニースです」
「レイアさん……では、これより選定の儀式を行いますが宜しいですか?」
「はい!」
レイアは意気揚々と答える。
「ハッハッハッ………明るい子だ。では、手を出してもらって良いですか?左手でも右手でもどちらでも構いませんので」
「はい」
レイアは司祭の言葉に答え、右手を司祭に差し出す。
司祭が差し出された右手に重ねるように左手を差し出す。
「希望と勝利の女神プルケルよ……今、彷徨い悩める子羊に天恵を与えたまえ……」
司祭が詠唱を終わらせるとレイアの手のひらから光が溢れる。
「!」
レイアの手のひらから光が出た瞬間、司祭の顔が僅かに歪んだ。
「こ、これは……」
「?……どうかなさいましたか?司祭様……」
額に汗を流す司祭を心配したのか神官が声を掛ける。
「この子は……レイア・イグニースはスキル『焔の涙』……」
「おお!それは今までに調べた中でも聞いた事のないスキルですね!もしかしたらかなり強力なスキルをレイアさんが―――――――」
「……『焔の涙』と炎神の加護を持っている………」
面白い!と思った方は感想、レビュー、評価、ブクマ等、宜しくお願いします。