捕食者
宜しくお願いします!
「いてぇ……いてぇ……いてぇなぁ?……………おい……」
ギールの攻撃を防御するため交差させていた腕を解き、血塗れになりながらも笑みを浮かべるベティー。
傍から見ても重症だと言うのに彼は何故か笑う。
「……まるで人が変わったような口調だな……いや、その口調の時が本当のお前か?」
「………ごちゃごちゃうるせえよ……気に食わねえ…気に食わねえ…気に食わねえ……」
ベティーが頭を掻きむしり、ブツブツと何かを呟く。
「てめぇのツラが気に食わねえ……てめぇの考えが気に食わねえ……てめぇの力が気に食わねえ……」
没頭し、更に激しく頭を掻きむしる。
「ああ……ムカつく………ムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつく………」
「ッ!『四枚目』!」
ベティーの何か異常な様子を察知し、次の攻撃を行う為、ベティーは花びらを燃やす。
ボウッと四枚目の花びらが燃え、青色の花が蒼く、また輝き始める。
「アイリス……アイリス!……アイリスッ!………貴女さえいなければ……」
ベティーを追い込んだ一撃が着実に準備されているというのに彼は全く気にした様子は窺えず何かをブツブツと独り言を喋る。
(なんなんだ……コイツは………今までに戦った相手にない不気味さがある……)
ギールは視線を切らず、逃さぬよう独り言を言うベティーを凝視する。
「ッ!『飛べ』!」
間髪を容れずにギールは叫び、青色の花の雌しべが閃光を放つ。
光はすぐに辺りを包み込みベティーを包む。
「……僕は英雄になりたいんだ……………憎い!憎い!憎い!……母さん…母さん……アイリス…アイリス……置いてかないで………」
発射の合図とも取れる閃光が放たれたようとベティーは気にせず、まだ独り言を喋り続ける。
三枚目の時でも、相当の破壊力を持つ『蒼炎の花弁』。青き花は無慈悲にも血塗れのベティーを葬ろうと轟音を鳴らした。
ゴゴゴゴゴゴン!!!
赤龍と咆哮と同じぐらいの轟音が森の中に響き渡る。
「当りだッ!」
当りか外れかの二択という弱点を持つ技。その一撃はギールの持つ攻撃の中で最高峰の攻撃力だった。
青き花が向いた方角には疎らで大きな抉らた後が沢山あったが、一人の男が立っていた所は男が立っていた場所以外だけがくり抜かれてしまったのかと錯覚させる程、綺麗に景色が残っていた。
男は何事もなかったように一人、呟く。
「僕は……………獣だ………」
悲しみに満ちた瞳を伏せる。
「………ねぇ……君も…そう思うだろう?………」
男はギールの方へ振り向く。
優しく微笑むように。
「ッ!?」
男と目が合ったギールは謎の寒気に襲われた。
人間の本能が察知してしまったのか、男の深い深淵のような暗い瞳を見てゾクリと恐怖した。
「そうさ……俺は獣さ。己の欲のまま喰らい尽くす貪欲な獣だ!……ククク………ハーッハッハッハ!!!」
ベティーの顔が酷く歪み、残忍に嗤う。
「奪ってやる!壊してやる!殺してやる!……ハハハ!!………てめぇを殺した後、大切な女をグチャグチャにして絶望に顔を歪ませて殺してやるよ!!……ハッハッハ!!」
楽しげに下品に高らかに嗤う。
「……燃やすッ!!……」
「ククク……そうだ!その感情だ!!……憎いか?俺がそんなに憎いか?……フフフ…もっと憎め!!……お前の本性を見せてみろ!」
「ッ!!『五枚目』ッ!」
感情に任せ、叫ぶようにギールは掛け声をあげる。花びらは燃え尽き雌しべだけが残る。
ギールの掛け声に答えるように青き花がこれまでに無い程に蒼く照り輝く。
「お前はこの一撃で必ず死ぬ。冥土の土産にお前の最期の遺言を聞いてやろう」
「最期……?………そうか…ククク……当りか外れがあるというのに強気に出たものだ……」
「『蒼炎の花弁』は大量の魔力消費をする事によって確実に当りが出るようになっている……二分の一で自分の命運を賭ける……なんてするわけないだろう?」
「なる程…どうりでこんな技を使った訳だ」
「俺の勝利は確定した……お前は次の一撃で必ず死ぬ………だからお前の遺言を聞いてやると言っているんだ」
「そうか………ククク……」
ベティーは顔を伏せひとりでに嗤う。
「喰らう」
「『飛べ』ッ!!」
目で直視できない強烈な閃光が雌しべから放たれ、光がすべてを包む。
閃光で何も見えない中、ギールは薄目に瞼を上げベティーを見つめる。
!!!!!
音と認識していいのだろうか。赤龍の咆哮よりも強烈な爆音が鳴り響き、青き花の雌しべから蒼い光が放射状に降り注ぐ。
その威力は絶大で木を燃やし削り、地面を溶かし抉る。
地獄の雨とも言っていい一撃が眩い閃光の中、放たれていた。
薄目に辺りを見渡しても、これまでに無い程の惨状を生み出しており、無慈悲にも蒼色の雨はまだ降り注がれていた。
「なっ!?」
ギールは驚愕に目を見開き、口を大きく開いた。
目の前に奴が来ていた。
放射状に放たれる地獄の雨を全て躱し、一歩、また一歩と確実にギールとの距離を詰めていた。
「そんな馬鹿な!?ありえない!!」
強力な防御系のスキルでない限り、躱すことも防ぐこともできる筈がない『蒼炎の花弁』を彼は残虐な笑みを浮かべながら全て躱していた。
「クソッ!」
距離を縮めてくるベティーを止めようと彼に手を掲げ、魔法を放つがいとも簡単に避けられた。
何発撃っても、彼は全てを躱す。地獄の雨が降り注がれているのにも関わらず。
「折角綺麗だった花が…こんなのになってしまうなんてなぁ……みすぼらしくて笑えてくるぜ……」
ベティーは手を横に一振りすると青き花を切り裂いた。
「……な…何故、全て避けられた!……それまでに強力なスキルをお前は持っていたというのかッ!」
「……3回だ………」
「な、なにを」
「お前の花が攻撃した回数だ」
「それがどうしたというんだ!」
「全て覚えた」
「なんだと……」
ギールの顔が驚愕に染まる。
「俺はお前の攻撃を見て全て記憶し、避けた……」
「馬鹿な!一体どれほどの数の光が放たれていると思っているんだ!」
「……俺には関係ない………ただ、てめぇ殺すだけに良く見ただけだ……」
ベティーの顔が狂気に染まる。
「………ざぁんねんだったなぁ?……俺を断罪できなくてぇ………無様に負けて俺に殺されるんだからなぁ?」
「ッ!」
「安心しろよ?すぐあの世に送ってやる……………あの女をグチャグチャに殺した後になぁ?」
「貴様ァ!!――――――っがぁ!!」
ギールは大きく拳を振りかぶりベティーに殴り掛かるが簡単に受け止められ、返しに心臓を抉られる。
「じゃあなぁ……『蒼炎』………」
「…………レイ………………………ア…………」
どさりとギールは倒れ、目の前の世界は真っ暗に染まり、意識を失った。
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