断罪の蒼
今回も長めですね。
「レ、レイアァァァァァ!!!!」
ギールの目の前には大切な幼馴染が立っていた。
輝く宝石のような瞳は濁り。
美しく整えられた顔は苦痛に歪み。
綺麗に仕立てられた服は赤く自分の血に染まっていた。
「……ククク………はぁ…どうですか……レイアさん?…この"痛み"……フフフ………貴女を庇った際に受けた赤龍の攻撃を再現したんですよ?……」
華奢なレイアの身体の後ろに隠れたベティーは不敵に嗤う。
「……痛いでしょぉ?………ええ、僕も痛かったですよぉ………」
ベティーはそう語ると赤龍の攻撃によってできた筈の大きな風穴があった腹を優しく擦る。
「……き、貴様ァァァァァァァッ!!!」
「…ククク……怒るなんて珍しい………いつもの冷静沈着な様子はどうしたんですか?」
激情に駆られるギール。ベティーはギールの怒りを煽る様に更に喋る。
「ああ……そういえば幼馴染でしたね?……ギールさんとレイアさん………なる程…………でも、怒る程じゃないですよね?………冒険者なんていつ死ぬか分からない職業………貴方達、死ぬ覚悟も無しにSランク冒険者になっていたんですか?」
「………なん……だと?………」
ピクリとギールの身体が動く。
「だからこうなったのかぁ……死ぬ覚悟も無いクセにいつまでも遊び感覚で冒険なんかしたからぁ………」
「……俺達の冒険を遊び感覚だと?………」
「………えぇ、まるで何も知らず、好奇心のままに赴く無垢な子供のような純粋な考え方………今だけを見て、その先を見ていない………」
「………ッ!俺だけでなく……レイアまで侮辱するとは………俺は貴様を絶対に許さん!………」
ワナワナと肩を震わせ魔力が高まってゆくギール。
「……許される気など元々ないのでいいですよ?すきに怒ってくださって………ククク……」
「……な………んで………」
「ん?」
腹を貫かれながらも赤く血に染まったレイアは口を開く。
「…ど……ゔ…じ……で………」
「ああ!……最初に貴女を狙った理由ですか?………そうですねぇ…しいて言うなら貴女のスキルが厄介だったからですかねぇ……」
ベティーはレイアの後ろからハキハキと喋る。
「『焔の涙』でしたっけ?貴女のスキル。灼熱の炎のような特性を持つ水を自由自在に操れるんですよね?さすがの僕といえど灼熱の鎧で固められた貴女には攻撃ができないと思ったので厄介だと思い、こうしたんですよ」
「……何故、レイアのスキルを………」
悠々とレイアのスキルを語るベティーを驚愕の表情で見るギール。
「この耳で確かに聞いたからです……貴方達のスキルを…じっくりと詳細に………」
「そんな―――――」
「馬鹿な………と、思うでしょう?……スキルとは長所でもあり短所でもあります……スキルの情報次第で大きなアドバンテージが得られますからねぇ………故に冒険者ギルドでは人視の玉で見た情報は一切口外せず、他人のスキルを確認するには特殊なスキルを使うぐらいしか確認できません……」
「まさか!?」
ギールがキッ!と刺すようにベティーを睨む。
「いえ、僕のスキルで貴方達を見た訳ではありませんよ……僕はただ、その人から聞いただけ………スキルとは秘密です……貴方達は街を歩いて時、いったいどれ程の視線を浴びるでしょうか?数人?数十人?もしかしたら数百人?……その一人の中にたまたまステータスを視えるスキルを持っていたら………他人の秘密だぁ……自分の秘密ならともかく他人…しかも有名なあの『紅水』と『蒼炎』の秘密……罪悪感はあったかもしれない………でも所詮は他人……知ったこっちゃない。軽く友達に話したかもしれない……もしくは貴方達に恨みがあるものに金と引き換えに喋ったかもしれない……最初は軽い噂だったのだろう………だが、大きな街……噂はどんどん広がり…本当かどうか確認した者が現れたのだろう………そして秘密は暴かれていき…こうして僕が耳にする事ができた……」
ニィっと口角を上げる。
「運が悪かった……確かにそうかもしれません……誰もかれもがステータスを見れる訳ではありません…よく分からない知らない他人のステータスなんて興味がある訳ありません……どこの馬の骨かも分からない人のステータスを見ようとするでしょうか?………僕はしませんよ…時間の無駄ですからね……ただ、貴方達は時間を無駄にするには余りにも名前がでか過ぎた……理不尽ですが…Sランク冒険者になってしまったからこうなってしまった……驚きましたよぉ…聞いていた能力とは違う事が起きて赤龍を倒してしまうのだから………」
「俺達自身が……自らの首を締めたとでも言うのか…」
「はい、貴方達が有名でなければこうして狙わなかったでしょう………」
「……仲…間だど……思っ…てた……」
口の中に血を含みながらもレイアは口を開く。
「………短い時間…だっだげど……背中を預げられるぐらい…君を信頼じでいだ………」
「そうですか……それは甚だしい勘違いですよ?………僕は貴方達をいつ殺せるのか狂おしい程焦がれていたのですからぁ……」
段々と顔が酷く歪み嗤いはじめる。
「どうやってギールさんを殺して欲しいですかぁ?……バラバラに切り裂きますか?グチャグチャに潰しますか?ここらへんにいる魔物の餌にでもしますか?………安心して下さい……貴女は最後に殺します…気付いて無いかもしれませんけど僕はわざと貴女の急所を外してあげたんですよ?何故だか分かりますか?」
ベティーの顔は嗜虐的に変わる。
「貴女の力を称賛して、貴女の大切な人を目の前で殺してあげます。先に死んで彼の最期を見れないのは悲しいでしょう?だから彼を殺した後、すぐ貴女を殺してあげるんです。一緒に死ねるんですから…二人とも幸せでしょう?……」
「な…に……を…」
ベティーの提案を理解できずにただ混乱するレイア。
「単独であの赤龍を倒した貴女の素晴らしい力を称賛しているだけですよ?二人いなければ本当は貴女と正面戦いたかったのですが……まぁ…しょうがないですね……ですから―――」
「ふざけるなッ!」
ベティーが話している最中にギールが大きな声を挙げ割り込む。
「称賛?幸せ?……お前はただそうやって理由を並べて人を殺したいだけだろうッ!!」
「……理解されないとは…悲しいものですね………」
「理解する必要はない!お前は悪だッ!」
「好きに呼ぶのは構わないのですが……まるで自分が正義みたいな物言いですね?」
「俺は絶対の正義ではない……民衆を守る英雄でもない………ただ…俺は……大切な一人の幼馴染を傷付ける奴は絶対に許さない……問答無用で悪として断罪するッ!」
「……そうですか………なら、早く僕を断罪してみてくださいよ?……早くしないと貴方の大切な幼馴染…………死にますよ?」
「ギ……ール………」
「言われなくても今、ここで!俺がお前を断罪するッ!」
ギールの魔力が高まり開戦の火蓋が切られた。
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