枯れ木の様な渇いた体
白く清潔な部屋の中、枯れ木の様な細い体をした白髪の青年ベティーが立っていた。
普段は母に起こしてもらい彼の一日が始まるのだが、今日は珍しく母に起こされ前に起き、朝陽の光が差す窓から外の光景を見ていた。
その姿はどことなく寂しく感じ、哀愁を漂わせている。
「陽が暖かいな……此処はこんなに暖かいのか……」
枝の様な細い腕を用いて壁を這いながら移動する。
「ふぅ……ふぅ……こんな事で息が上がるなんて……」
息が荒くなり顔から汗が滴る。
「はぁ……はぁ……疲れたなぁ……」
疲労困憊とした様子でベッドに寝転ぶ。
「また、いっぱい抜けているな……」
枕にはベティーの髪らしき白い毛が沢山落ちていた。
少し頭を撫でるだけで髪が大量に落ちてきた。
「ははっ……まるでおじいさんの様だな……」
皮肉めいた笑いを浮かべ、ただただ待つ。
♢
部屋の外から足音が聞こえた。
どうやら母だけではないようだ。
複数の足音は部屋のドア越しに止まる。
「ガチャ」とドアの扉が開く音が鳴り、いつもの美しい茶髪を持つ母の姿が見えた。
「あら?もう起きていたのね、ベティー」
「うん、今日は珍しく母さんが来る前に早く起きてみたんだ」
「そう……起きた瞬間に驚かせてあげようと思ったのにね」
母はいたずらっ子の様な笑みを浮かべ、後ろに控えている人達を部屋に入れる。
「……久しぶり……ベティー……」
部屋に入ってきたのは幼馴染みのアイリスだった。
「ああ……久しぶりだね、アイリス」
白銀の細い糸の様なきめ細かい美しい髪、美しい彫刻家が彫った作品の様な整った顔、女性らしくあり彼女が戦士たる証の少し筋肉質な肉体。
昔の可憐な少女ではなく今は美しき戦乙女の様な姿だった。
「君がベティー君かな?」
アイリスの隣には金髪碧眼の整った顔立ちの青年が立っていた。
装備している剣には金色と銀色の彫刻があり、神々しい見た目であった。
「貴方は……」
「俺は勇者レオールだ、魔王討伐する勇者であり……アイリスの婚約者だ……」
レオールの言葉にベティーだけではなく母も口を開け凍った様に固まる。
「すみませんが勇者様、アイリスは昔から私の息子ベティーの婚約者です」
「昔とか関係ないよお母さん、必要なのは愛しているかないかだろ?俺はこの魔王討伐の旅でアイリスと他の仲間達と共に死線を乗り越えてきたんだ、数年間か数十年の関係か知らないけど彼と俺ではアイリスと歩んだ道が違うんだよ」
「本当なの……アイリス?」
「……はい……」
アイリスは申し訳なさそうに頷く。
「じゃ、話はここまでね。俺達は魔王討伐で忙しいから」
「待って下さい!」
レオールがアイリスと共に部屋から立ち去ろうとするが母が静止の声をあげる。
「せめて……せめて少しだけでも息子にアイリスと話させてもらいませんか?」
「はぁ……そんな事してる暇ないんだけど?」
レオールが面倒くさそうにため息を吐く。
「レオール、すぐに終わらせるから外で待ってて」
「……早くしろよ」
レオールは部屋から出て行く。
「アイリス本当に勇者様と婚約者になったの?」
「はい、本当です叔母さん。私は自分の意思で彼を好きになり婚約者となりました」
「そんな……」
母が脱力したように倒れ込む。
「すみません……」
アイリスは申し訳なさそうに謝る。
「それは君が選んだだろう?」
「ええ……これは私の意思で決断したことよ」
「そうか……」
アイリスの返答を聞くとベティーは意を決し口を開く。
「君が選んだ事だ、僕は何も言わないよ。魔王討伐頑張ってくれ……これで話は終わりだ……」
「ええ……わかったわ……さようなら……」
そうアイリスは告げると静かに部屋から立ち去る。
「ベティー……本当に貴方は良かったの?」
優しくベティーの手を取る。
「母さん……出ないんだ……涙が……悲しみが……僕は好きだった人を奪われたのに何も感じないんだ……かといって喜びも無いんだ……母さんのいつもの温もりも感じないんだ……ねぇ……これも病気のせいなのかな?……」
「ベティー……ごめんなさい……ごめんなさい……」
母が強く抱き締める。
「何で母さんは泣いているの?僕には母さんが泣く理由がわからないよ……」
「ごめんなさい……ベティー……私、急用の用事ができたみたい……すぐ戻ってくるから、大人しく此処で待ってていてね?」
「うん、わかったよ母さん。母さんが来るまで僕は此処で待ってるよ」
母が別れの言葉を告げ、部屋から去る。
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