か弱い青年
白く清潔な部屋だった。
窓からは太陽の光が差し、心地よい風を運んでいた。
周りを見てみるとベッドと花瓶しかなく殺風景な光景だった。
花瓶には花が生けており、水を与えて時間が経ったのか、花瓶の水は底を尽きていた。
「ガチャリ」と扉から音が鳴る。
開けた扉から現れたのは茶髪の女性だった。
「ベティー……起きているかしら?」
茶髪の女性はベッドに声を掛ける。
「その声は母さんなの?」
ベッドからムクリと青年が起き上がる。
中背程の身長の青年、肉体は痩せこけており、肌は物語なとで聞く吸血鬼の様な病的なまでの白い肌の青年だった。
髪は珍しい白髪で、目元を隠す程伸びていた。
「こら、体を動かしてはダメよ」
白髪の青年ベティーに「母さん」と呼ばれた女性は青年に近寄り、胸を優しく抑えベッドに寝かしつける。
「この位なんてないよ、全く……母さんは心配性だなぁ……」
「お医者様に言われたじゃない、「その体を動かす事は死に直結」するって……お願いだからじっとして頂戴……」
茶髪の女性はベティーに気まずそうに目を向けるが、すぐさま目を伏せる。
「……ごめん……だけどせめて最後はちょっとでもこの体を動かしてみたいんだ……」
「最後って……」
「お医者様に見られなくても、自分が一番よくわかるんだ……自分の体だからね。もう長くないんだ……この命は……」
ベティーは胸に手をあて、優しく母に微笑む。
「ごめん、母さん……せめて子供を作れる位の体力があったら良かったのに……」
「いいのよ!跡継ぎなんて!貴方は子爵の子じゃない!私の子よ……」
茶髪の女性はベティーの手を両手に取り、涙を流す。
「「出来損ない」だと言われた、だけど僕はこれに一度も怒りを覚えなかった……情けないよね、優秀な妹が産まれたお蔭で僕は名前すら呼ばれなくなった……僕は本当に出来損ないだからね……そんな出来損ないの僕を救ってくれたのは母さんとアイリスなんだよ?」
「貴方は決して出来損ないではないわ!アイリスだって言ったじゃない!……どうか…生きる事をやめないで………貴方には婚約者であるアイリスがいるじゃない……」
「うん……アイリスと結婚できるのはとても嬉しいよ。でも……彼女は今、勇者様と共に魔王討伐の旅へ向かっている。きっと魔王討伐を経て、この場所に戻ってきても残っているのはなにもないんだよ」
「……大丈夫よ……」
小さく呟く。
「アイリスは帰ってきたのよ!此処に!」
母の言葉によりベティは驚き間抜けのような顔をし、大きく口を開く。
「そうか……でも、魔王討伐は終わっていないんでしょう?」
「ええ……どうやら勇者様達は魔王の幹部である四天王の一人を倒した事を報告しに人間領まで戻ってきたのよ」
「此処に……アイリスが久しぶりに帰ってくるのか……」
瞼を閉じ、静かに涙を流す。
「今日の宴が終わった次の日に来てくれるそうよ」
「ありがとう……母さん……こんな僕を見捨てないでくれて……」
ベティは母に抱擁し感謝の意を述べ、ただひたすらに涙を流した。
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