獣は獲物を知る
「おい、あの二人がSランク冒険者の『蒼炎』と『紅水』てまじかよ!」
先程までベティーを怪しんでいた人達はベティーから関心がなくなり青年と少女を見つめる。
「嘘だろ!?本当ならサイン貰わなきゃ……」
二人のSランク冒険者としての知名度が高く静寂だった空間が一気に喧騒へと変わる。
「……すいません~その『蒼炎』と『紅水』って何ですか~?」
「「「なにー?!」」」
喧騒の中、何も知らないベティーは当たり前の様に言った何気ない質問が、皆が破顔させた。
「お前、本当に知らないのか!?」
「ええ~」
知らない冒険者からの質問を否と答えると冒険者はありえない物を見た様な表情をする。
「ベティーさん、あの方達は冒険者の中でも化物と言われる程の実力を持つSランク冒険者の方です」
「ふ~ん」
興味があるのかないのか分からない中途半端な返事をする。
「そんなSランク冒険者の中でも若き天才と言われた二人、『蒼炎』様と『紅水』様なのです」
「ほぉ~」
「未だに十六歳にして最年少でSランク冒険者になり『蒼炎』と『紅水』という二つ名を持つ方なのですよ」
「は~」
「って、聞いてますッ!?」
ベティーの雑な対応にネイリが我慢できなくなる。
「はい~聞いてますよ~とりあえず、その二人は強いって事でしょう~?」
「あぁ……まぁそう言う事です」
ベティーは二人の存在を改めて認識する。
ギールという青年は紫色の髪を持つ寡黙な男
レイアという少女は桃色の髪を持つ少し慢性的な少女
どちら共に実力は拮抗しており二人共、同じ実力を持っていた。
「それで『紅水』さん、特別試験って何をやるのかな~?」
「『紅水』って、いやーその名前は恥ずかしいなー」
レイアは恥ずかしそうに顔を赤くし頭をポリポリと掻く。
「レイア、お前が説明しろ」
ギールがレイアを注意する様に声を掛ける。
「はーい、もう……ギールはクール過ぎるんだよなー……じゃ!特別試験の内容は僕達と一緒に依頼を受けるだけだ!おしまい!」
「え?」
レイアのあっさりとした説明にネイリではなく周りにいた者達も漠然とする。
「一緒に依頼を受けるって……Sランク級の依頼をベティーさんに受けさせるって事ですか!?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
「どういう事ですか?」
またもレイアの意味不明な言葉に混乱するネイリ。
「僕達が受ける依頼は内緒さ」
レイアがいたずらっ子の様な笑みを浮かべる。
「もしかしたら伝説の龍がでてくるかもしれないし、逆にゴブリンの様な雑魚がでてくるかもしれない……プレゼントをあげる時は開ける人の表情が面白いから僕は好きなんだよね」
「命は無限じゃないんですよ!もし高難易度の依頼を受けていたら死ぬかもしれない」
ネイリはやめるよう必死に抗議するがレイアは止めようとする気も見せない。
「大丈夫だって!いざとなったら僕達が守るよ!大丈夫!」
「それでも!」
レイアはネイリを鎮めようとするがネイリは収まらない。
「行きます~」
ネイリとレイアが争う中、ふざけた喋り方をする男がいた。
「よし!本人からの許可も貰ったし明日行こうか!」
「ちょ、ちょっと待って下さい!本当に行く気ですか?死ぬかもしれないんですよ?」
諦めずにネイリは止めようとする。
「大丈夫ですよ~いざとなったら二人のSランク冒険者がいるんですから~」
ベティーは腑抜けた声で答える。
「安心して下さい、絶対に帰ってくるので」
「………」
ベティーの言葉にやるせない思いを隠すネイリ。
「お気をつけ下さい……」
目を伏せ淡泊に喋る。
「はい……………ヒヒッ」
何処からか嗤った声が聞こえたが気のせいだと勘違いするネイリであった。
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