彼はただの愚かで劣った弱者
「ネイリさん、この依頼を受けたいので受注してくれませんか?」
ベティーは依頼板から剥がした紙をネイリに渡す。
「これは……!?申し訳ありませんが、承諾できません」
ベティーの出した紙の内容を見て、ネイリは驚愕する。
「どうしても受けたいんです、どうかお願いします」
「貴方はこの依頼の内容をわかっているのですか!」
ベティーは必死に懇願するがネイリは怒気を含んだ声で話す。
「依頼内容『オーガの討伐』、オーガは強力な魔物です、最低でもBランクのパーティーがやっと倒せる相手だと言うのにソロで挑むつもりですか?はっきり言って無茶です!」
「ネイリさん、これは僕の一生のお願いです。どうか、行かせてくれませんか?」
諦めずに頼むベティーにネイリは困惑する。
「貴方は何の為にこの依頼を行うんですか?……」
「僕が命を張ってでも、祝いたい人がいるんです。僕は彼女の為ならば命なんて惜しくないんですよ」
「その為にこの依頼を?……それでも駄目です!祝うにも祝う本人がいなければ意味がない、どうか命を大事にしてください……」
「……ごめんなさい……でも僕には勝算があるんです。Dランクでもオーガを討伐する方法を……」
彼は自信満々に答える。
「何かあったのですか?」
ネイリの質問に黙るベティー。
「答えられないんですね……分かりました、この依頼を受注しましょう」
ネイリは覚悟を決め、ベティーの依頼を受注する。
「ありがとうございます」
「ただ、絶対に生きて帰って下さい」
ネイリは睨み付ける様な目でベティーを見る。
「はい」
♢
愚かだと思いながら白髪の青年は鬱蒼とした森の中を進む。
「“生きて帰って下さい“か……今の僕に帰る場所なんてあるのか……」
自嘲的な笑みを浮かべ、森の中を進む。
「ごめんなさいネイリさん、約束守れなさそうです」
彼は歩みを止めず着実に目的のオーガの下へ進む。
一歩、二歩、三歩と森の中を歩む事によって、森が騒がしくなる。
「僕は探していたのかもしれない……死に場所を」
一歩、一歩、彼の足取りは重くなる。
「こうして、生きる意味もどうせないんだ。死んだほうがましじゃないのかな?」
はぁ、と憂鬱なため息を吐き、進む。
「死ぬのは怖いって聞いたけど、何も感じないな……あの日から僕はおかしくなっちゃったのかな……」
昔を懐かしむ様に目を細める。
「あの時、僕が大人しくしていれば、こんな事にならなかったのかな?」
誰かに言うでもなく独り言を溢す。
「そうか、僕が大人しくしていれば良かったんだ……全部、僕のせいなのか……」
またもや彼は自嘲的な笑みを浮かべる。
「ハハハ……全く愚かだな……君もそう思うだろ?」
静まった森の中、彼の声が響く。
「出てきなよ、急に音が消えたんだ。愚鈍な僕でもわかるよ」
彼の掛け声に応じるかのように低く重い足音が近いてくる。
だんだんと足音は近くになり、筋骨隆々の怪物が現れる。
体は血に染まっているかのようにに赤く染まっており、鍛えぬかれた肉体には所々に傷跡があった。
「これが“オーガ“かそりゃ勝てないわ」
怪物がオーガたる所以の角が頭から三本生えていた。
「こいつなら一撃で殺してくれると思ったけど、これは当たりだな……」
彼は満足そうに笑い、剣も構えずにオーガの下へ向かった。
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