歪な記憶
ベティーはネイリに紹介された依頼を順調にこなしていった。
薬草採取や探し物などの地味な依頼だったが本人はあまり気にせず自分が他人の役に立っている事に喜び、依頼をどんどん受けていた。
クエストを受け続け半年、長い様で短いFランク冒険者の生活を変える為、FランクからEランクに昇進する依頼を受注し、無事試験から帰還した。
Eランク昇進の依頼の内容は“ゴブリン“の討伐。
Eランクからやっと討伐する事を認められ、ベティーの初めての戦いである。
幼少期から体の弱かった彼は子供同士がやるチャンバラごっこなどもやってこなかった為、彼のゴブリンとの初戦闘は常に剣を右往左往と揺らし、軽い剣撃を放つだけで息を切らし苦難を強いられていた。
数十分の戦闘を行い、やっとゴブリンを討伐するも自分が滅茶苦茶にした死体の有り様に吐き気を催し、吐いてしまう始末であった。
「なんだか騒がしいな」
ゴブリンの討伐を終え、王都に帰るベティー。
王都はいつも騒がしく賑わっており毎日騒音を垂れ流している状態なのだが、今日は今まで以上に騒音が酷かった。
いつも商売人の声やら冒険者の声やらが聞こえるが、今は民衆の感謝の嘆きの様に聞こえた。
慣れない騒音を不快に思いながら冒険者ギルドへ向かう。
「お疲れ様です。ベティー様」
冒険者ギルドにたどり着き、依頼が達成した事を報告しに行くといつものようにネイリが軽く頭を下げ依頼達成の報告を受領する。
「ネイリさん、なんだか今日はいつも以上に騒がしい様子でしたけど何かありましたか?」
「どうやらご存知ないようですね」
?マークを浮かべ頭を傾げる。
「三日前でしたか……『勇者』様が魔族に誘拐され囚われていたエルフの姫君を救ったのです」
「へぇー……それじゃあこれは」
「はい、姫君を救った『勇者』様を祭り上げる為の宴を人間とエルフが今夜、行うのです」
「確かエルフは元々、人間との仲が良くないと聞いたのですが」
「ええ、そうですよ。元々エルフはあまり他国と関わらない閉鎖的な種族でしたが、今回の一件により人間を信頼し、こうして宴を人間が沢山いるこの王都で開くんですよ」
「ですが、夜に宴を行うのはずなのに今、騒がしくないですか?」
「そろそろ『勇者』様が王都に帰還されるんですよ、恐らく昼間なのにこれ程騒がしいのは『勇者』様が帰ってくることを聞いた民衆達が『勇者』様の姿を見ようと騒いでいるんですよ」
「へぇー」
ベティーは勇者の存在に興味ないように呟いた。
「それに『勇者』様ではなく『剣聖』様や『賢者』様、『聖女』様の姿を見たい人もいますしね」
『剣聖』という言葉を聞き頭に激しい痛みが走る。
「すいません、『剣聖』様ってどんな名前ですか?」
「?……確か、アイリスという名前でしたはずですが……」
アイリスという名前を聞き更に鋭い激痛が走る。
「どうかしましたか?」
「……いえ、そろそろ『勇者』様が帰ってくるんですよね?」
「はい、何かするつもりですか?」
ネイリが疑わしくベティーを見る。
「いいえ、只、『勇者』様たちを見て、どれ程の高みかを見たいだけです」
「高み……ですか……貴方、Eランク冒険者ですけど、わかるのですか?」
「勘ですよ。それでは、僕は『勇者』様を見に行ってきます」
「はあー、お気を付けて下さい」
ベティーはネイリに別れを告げ、『勇者』の下へ向かう。
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