彼の名は『獣』
「解き放たれた獣」の投稿を始めました。ぐっさんです!定期的に更新はできないですが、できるだけ早く次回の投稿をしようと思います。どうぞ首を長くしてお待ち下さい。
そこは血にまみれていた。
周りは散乱しており、鉄臭い匂いで満たされていた。
血で満たされていた部屋の中には死んでそこまで時間が経っていないのか、未だに血を流し続ける男と女の死体があった。
「結構、有名な冒険者って聞いたんだけどな~そんな強くなかったな~」
明らかに常軌を逸している状況の中、能天気な声を出す青年の姿があった。
中背程の身長、筋肉質な肉体の白髪の青年だった。
「君はいつまで隠れているのか~?」
白髪の青年が何も無い所に声を掛けると「ガタッ!」と物音がし、幼い子供の姿が現れる。
「もしかして、君はこの二人の子供なのかな~?」
白髪の青年は未だに血を流し続ける男の女の二つの死体を指差す。
「……ん…で……」
少年が掠れた声で何かを呟く。
「ん?何言ってるのかな~良く聞こえないよ~」
「なんで僕のお父さんとお母さんを殺した!!」
少年は涙を流し、殺意の籠った目で白髪の青年を射殺そうとする様に睨み付ける。
「君のお父さんは確か……『豪腕』だっけ?凄腕の冒険者って聞いたよ。とある魔族に右腕を奪われてからは全盛期の様な豪腕を繰り出せない事も聞いた……」
男の死体の右腕は失った影響か、義手だった。
「お母さんも『雪女』だっけかな?これは敬称と言えるかわからないけどお父さんと同じ冒険者で氷魔法を使用する凄腕の冒険者だ」
「そうだ!僕のお父さんとお母さんは最強の冒険者だ!!」
「ああ、知っているよ。お母さんは君を産んで冒険者を引退してお父さんと平和にこんな森の中で暮らしていたんだよね」
部屋に付いている窓からは緑が生い茂っており、自然が広がっていた。
「良い場所だよ、陽は暖かくて適当に地面に寝ころべば日向ぼっこができて、近くの川からは綺麗で美味しい水がある。猪や鹿もいるし、美味しそうなキノコもある。平和な場所だ」
「だけどね……僕は好きな事があるんだ……それは…………」
白髪の青年の顔が歪む。
眼には狂気を帯び、猛禽類の様な瞳は爛々と光る。
口は三日月の様な形を作り、不気味な笑みを浮かべる。
「『闘う』事さ…………」
狂喜をいや、狂気を溢れ出し言葉にする。
「命を奪うか奪われるか……殺した者は強者であり、殺された者は弱者と堕ちる。苦痛は快楽へと変わり、絶望は愉悦と感じる。こんな狂った世界に唯一残された命を持つものしかできない、最高の遊戯さ!!」
白髪の青年は狂った様に嗤いながら少年に語る。
「俺が何故、君のお父さんとお母さんを殺したかって?闘ったからさ!命を奪う文字通りの死合さ!君のお父さんは正面から堂々と闘ったよ!全盛期ではないはずなのに人並み外れた力だ、俺の身体に触れたら簡単に死んでいるだろう!だがそれがいい!!常に死と隣合わせ!最高じゃないか!僕は!俺は!生きている事を感じられるんだ!!」
白髪の青年は歓喜の余り涙を流す。
「君のお父さんは剣なんて使わずに彼と同じように自分の身体を使って殺したよ。ああ……素晴らしい強者だった……是非、全盛期に闘いたかったよ……」
恍惚に蕩けた笑みを浮かべる。
「だが……君のお母さんは実につまらなかったよ」
途端に白髪の青年は惚けた笑みを止め、失望した冷めきった目で女の死体を見る。
「彼女は情を持ちすぎた、君のお父さんが死んだ事に涙を流して呆けていたんだ、殺した張本人が目の前にいるというのに、ただ涙を流すだけで何もしなかった。過ぎる傲慢は強者のみが許される行いだ、彼女にはじっくりと絶望と苦痛を与えて殺した。本当に不毛で無駄な時間だった。だが、強者たる者、俺は責任をもって行わないといけないからね、強者というのは辛いと思ってしまうよ」
白髪の青年が「ニコッ」と笑う。
少年は拳を強く握りしめ部屋に響く程のでかい音の歯軋りをしていた。
「うん?どうしたのかな~?顔を下に向けて」
「………ろす……』
「え?何?よく聞こえないな~?」
「お前は絶対に殺す!!」
「そうか……それは楽しみだ。君が僕を殺そうとするなら僕は君と『闘える』という事だ、ああ……最高だよ!『豪腕』と『雪女』の子供だ、きっと強くなるだろう……ふふっ、ふふふふふふふふ!」
白髪の青年は先程の様に狂った様子で嗤う。
「君が僕を殺すなら僕の事を教えよう……『獣』……常々に忘れない事だ……」
『獣』は少年に手を振り、部屋から出ようとドアに手を掛けるが手を止める。
「凄いな……なんで生きてるのかな~?」
「…父……さん………」
男の死体だった思われた者は産まれたばかりの小鹿の様な弱々しい姿をしており、今にでも倒れそうになっていた。
「はな……れ…ろ……はぁはぁ……」
『豪腕』は先の戦いの影響により既に満身創痍になっており、大の男が情けない状態になっていた。
「面白い……僕じゃなくて俺が殺す!!」
『獣』は狂暴な狂気を含んだ笑みを浮かべ『豪腕』を殺そうと縦横無尽に駆け回る。
「これが……最…後……の…力…だ……」
『豪腕』は満身創痍の身体に鞭を打ち無理矢理身体を動かし、左手は狙い構える様に構え、右手は拳を後ろに構える。
「『破砲』ッ!!」
『豪腕』の後ろの構えた右手の拳を『獣』の方に突き出す。
拳を放った瞬間に空間に歪みの様な物が発生し、歪みが『獣』の元へ進む。
「ぐはっ!?」
歪みが『獣』の腹に当たった瞬間に強い力で殴られた様に腹が抉れる。
縦横無尽に飛んでいた『獣』は『破砲』の一撃により大量に吐血し吹き飛ぶ。
「はぁ…はぁ……」
「父さん!!」
意識が飛びそうになるが少年の呼び掛けによってなんとか意識を保つ。
「はぁ…はぁ……すまない……父さんはこれまでのようだ……ごめんな……お前を……家族を守れない弱いお父さんで……」
「父さんは弱くない!だって……だって!父さんは……僕の憧れの最強の冒険者なんだ!!」
「……ありがとう……」
少年は『豪腕』を抱きしめようとすると「ボドッ!」っと何かが落ちた音が聞こえる。
「あ、ああ!!あああああああああああああ!!」
少年の目の前に父の首が転がっていた。
「素晴らしい一撃だったよ……ああ……凄く勿体ないな、彼とはもっと闘いたかったな~」
抱こうとした父の体の後ろには先程、最後に力を振り絞った父の一撃を喰らい、瀕死の重症になっているはずだった白髪の青年が立っていた。
「さあ……次の獲物を探そうか……」
白髪の青年は少年と『豪腕』に目もくれず、その場から去り小さな声で呟く。
「僕は強くなったかな……母さん、アイリス……」
『獣』
その姿を見た者はいない。
『獣』に生かされた者の証言によると中背程の身長と筋肉質な肉体をした白髪の青年だった言う。
必ず『獣』が現れた場所には有名な冒険者や達人といった、腕の立つ者の死体が残されている。
『獣』が現れた場所の目撃者は口を揃えて言う。
『獣が食い散らかした』
と
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