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精霊士  作者: 円ひかる
第1章 運命
5/13

新学期初日 4

 この第三高校の生徒数であるが、各学年AからG組迄の七クラスあり、

各学年の人数が約三一〇名の計九三六名が全生徒数である。

 で、振り分けを説明すると、A組からD組迄の四クラスが既にパートナーとして

契約出来ているクラスで、特にA組は、精霊力と武術力の総合計ランクがA以上と

高い力を持つ特別クラスで、十組二十名から十五組三十名程おり、残りの者達が

B組からD組の三クラスに、総合ランクの高いパートナーから振り分けられる

形となる。

 そして、E組・F組の二クラスだが、こちらはパートナーがいないシングルの

クラスとなり、必然的にE組が総合ランクの高いクラスとなるのだが、各クラス

の人数を均等に分けている為、ランク別の境界線はない現状である。

 で、最後のG組だが、このクラスは刀匠や精霊医師を専攻する特殊クラスで、

生徒数も約二〇名と他のクラスと比べて少ない。

 この様に、各クラスの振り分けが全学年同じ様になっており、各クラスの

担任も当然精霊士であるから、パートナーが副担任となり一クラスに二名の

先生がいる事となる。

(G組だけはやはり特殊な為に、刀匠担当と精霊医師担当の担任が、

それぞれ一名から二名いる)

と、云う事で、パートナーを失った優磨に、諸事情により仮契約状態の凛と零次。

 そして、由香里・響・麻里と、以上六名がいる二年E組では、担任の村岡菊乃

・繁俊両先生の挨拶から始まったホームルームは、出欠を取りながらの自己紹介

に時間を割き、今年一年間のクラス目標や端末に配信された時間割の確認等は、

事務的と云うか手短に行われた為に、少し早めの休憩時間となるが、

「はぁ・・・」

 そう、うだる様に机の上に両手を広げ、寝そべりながら溜め息を吐く麻里に、

隣の席でこちらも退屈そうに座る響が振り向く。

「如何したの?」

「もうっ、解っているくせに!」

「・・・仕方ないでしょ、そのまま持ち上がり何だから。」

「・・・つまんない!」

と、不機嫌な理由を解っていながら敢えて問う響に、 “意地悪‼”と、言わん

ばかりの顔で麻里は応えるが、それをスルーするかの如く説明されると、

(むく)れっ面になって一言吐き捨てると、机に顔を埋めてしまう。

 この麻里が不機嫌な理由は、E組のクラス全員が一年の時と全く変わらず、

そのまま二年生に持ち上がっただけと云う事で、パートナーを有したA組から

D組の四クラスは、毎月行われる霊力検査と技能試験の結果でランクが上がり、

上のクラスで伸びなかったクラス最下位ランクの者達よりも良いと、その者達と

交代する形でクラスを移動する事が出来る、ある意味“弱肉強食”の世界でもある。

 こうした一連の動きが一ケ月ごとにある為、A組からD組に関しては、

常に目新しい顔が見え隠れするのだが、シングルであるE・F組に関しては、

パートナーを見つけて契約しない限りこれ以上進み様がなく、パートナー契約

して上のクラスに移った者達は、去年の六月までに三組出来ただけで、

それ以後は全く変動がない為に、クラス全員同じ顔触れのままで、もう一つ

付け加えるなら担任も変わらずと云う事で、麻里の気持ちも解る気がする。

 そして、

「・・・そう云えば、由香里まだ帰って来ないね?」

「ん? ああ、また西口君にでも捕まっているんじゃない?」

「嘘っ⁉ 初日から?」

「やりかねないでしょ? 由香里の事で頭の中いっぱい何だから。」

 そう、由香里がトイレに出掛けたまま帰って来ない事に、二人が憶測(おくそく)

立てていると、麻里の時よりも不機嫌な顔をした由香里が教室に戻って来て、

麻里の後ろである自分の席に座った途端、剥れっ面のまま大きく溜め息を吐いて、

「もう! 初日からいい加減にして欲しいわ!」

「お疲れ様。西口も本当に()りないよね?」

と、二人に向かって愚痴(ぐち)(こぼ)すと、二人は顔を見合わせて“大正解!”と、

目で合図を送った後、響が(ねぎら)いの言葉を掛けて落ち着かせ様とするも、

「これで二十九回連続KO! 本当、凄い神経の持ち主だよね?」

「でしょ‼ 散々『嫌‼』って言っているのに、

『もうそろそろ如何かな?』って、

 一体、如何いう感覚しているのか教えて欲しいわ!」

「だよね。普通ならあり得ないもの、振られた相手に何回もアタック何て。」

「確かに、異常な執着心よね。」

 そう、由香里のイライラは根が深い事を分かっている麻里は、敢えて(あお)る様に

聞いて由香里の鬱憤(うっぷん)を少しでも吐き出させるが、

「・・・って云うか、多分そうだと思うのだけど、

 西口(あいつ)、親から言われてるんじゃない?

『何としてでも、由香里と契約しろ!』って。

 大体、ランクの差があり過ぎて“従”にもなれないのは解り切っているのに、

 何度断られても言い寄って来るなんて、“四宮”の名以外考えられないでしょ?

 で、“それを一番気にする人物は?”って探れば、

 父親って辿り着いちゃうわよ。」

と、軽く溜め息を吐きながら響が推測すると、

「そう云えば、西口君の家って建築会社だっけ?」

「弱小ではないけどね。

 で、由香里と契約出来れば会社の知名度が上がり、

 あわよくば、“四宮”グループに参入する事だって出来る訳でしょ?

 そうすれば、“お家安泰”じゃない。

 だから、未だにしつこいのは“西口本人の意思”と云うより

 “親からの催促”って線が推測出来ちゃう訳。」

「・・・成程ね、確かにそう考えれば、あのしつこさは理解出来るわ。」

 そう、響の推測出来た経緯(けいい)を聞いた麻里は納得顔で小さく拍手する。

 ここで語られた様に四宮由香里は、この日本経済界で五指(ごし)に数えられる

程の力を持つ“四宮財閥(ざいばつ)”のお嬢様なのである。

 入学当初は、一年生だけでなく全校の男子シングルが(優磨以外)、

その美貌と知名度欲しさでアタックに来る者が後を絶たなかったが、

その全てを断り続けた結果、今では東海地区の中堅建築会社の一つ

西口建設の一人息子・西口幹也だけが、親の私欲に振り回される形と、

やはり由香里の美貌に惚れ込んでアタックし続けているのだが、

「あーもう! その話、いい加減やめにしない?」

「アハハハ、御免、御免。

“物”扱いされている話は、幾ら何でも嫌だよね。」

と、剥れっ面で二人に睨み、話を止める由香里は机に顔を埋めてしまうと、

響は苦笑顔で謝り、麻里も“御免ね、由香里”と謝りながら由香里の頭を

()でながら、

「あれ? ・・・鷹城君もだけど、広崎さんと片桐君もいつの間にかいないよね?」

 そう、業とらしく話題を切り替えて来ると、

“多分、A組にでも行ってるんじゃない?”

と、響はそっけなく応えるが、何も応えない由香里は、顔を埋めたまま目だけを

優磨の席である後ろの机を覗き、そして顔を横に向け窓の外を眺め始め、

― はあ、・・・何にも進展せずに一年過ぎちゃった。

  ・・・何時、切り出そう?

と、空に浮かぶ小さな雲を見つめながら、ある想いを心の中で呟き出し、

― タイムリミットは夏休み・・・

  ううん、五月か六月迄には決めないと間に合わない。

 そう、自分に言い聞かせると、又、顔を埋めてしまい、

― とは云うものの、中々きっかけも作れないし・・・ “勇気”出せるのかな?

と、何処か弱腰な言い方で自問すると、由香里は大きく溜め息を吐いて、

もやもやした気持ちを切り替えるのであった。


 そんな由香里達が教室で憂鬱(ゆううつ)気分に陥っている頃、

優磨は校長室に来ており、

「では、“OK”と云う事で?」

「はい。 鷹城君のお願いとあれば、聞かない訳にはいきませんし、

 職員会議でも、反対処か満場一致で賛成でしたから、全く問題ありませんよ。」

「有難う御座います。

 では、決まり次第手続きをすると云う事で。」

「ええ、三校(こちら)も直ぐに出せる様用意しておきます。」

 そう、校長の話が成立した優磨は、頭を下げて感謝すると校長室を出るが、

出た先の廊下には竜哉達八名が、事の結果を待ち()びており、

「如何だったの?」

と、皆を代表する様に、麗華が真剣な面持(おもも)ちで(たず)ねて来ると、優磨は

皆を見渡してから“OKだ”と、微笑んで頷くと、“よっしゃー‼”と、

ガッツポーズしながら喜ぶ零次を皮切りに皆が歓声を上げて喜び出し、

梓と凛は手を取り合って飛び跳ね、麗華に至っては、目に涙を溜める程・・・

「じゃあ、今夜にでも伝えるのか?」

「ああ、・・・でも、先にメールだけは入れておこうと思う。」

「それ、“響にはまだ内緒で”って大きく入れておけよ。

 折角のサプライズ企画なんだから。」

「分かっているよ。」

 そう、伸明からの確認&忠告に、優磨は終始微笑んだままで応える。

 すると、

「となると、後は優磨の方だけだよね?」

「 “優磨の方”って云うより、

“四宮さんの方”って言った方が良いんじゃない?」

と、夏美と麗華がにやけ顔で優磨に問い掛けると、

「・・・まあ、こればっかりは俺の方から動く事が出来んから

 如何しようもないけど、多分、近い内に動きがあるんじゃないかな。」

「ほう、これはまた随分と強気な発言で。」

 そう、憶測を立てる優磨に、皆は“ほう”と、生暖かい眼を投げ掛け、その眼を

見た瞬間、自意識過剰(かじょう)っぽい発言だった事を自覚した優磨は、

「さ、さあ、そろそろ教室に戻らないと遅れるぞ。」

と、少し顔を赤くして歩き始め、その言動に皆は生暖かい眼のまま、“はーい”と

返事を返して校長室前を後にする。


 そして、教室へと戻って来た優磨と凛と零次だが、普段よりも楽しそうな

三人を見て、

「何か良い事でもあったの?」

「ん⁉ うーん、・・・内緒!」

「えーっ! ちょっと何? 教えないよ、凛。」

 そう、“そんなに楽しそうな顔初めて見たよ”と、珍しそうな顔で聞いて来る

麻里に、凛が勿体振った物言いで響や由香里を見た後にウインクすると、それに

合わせるかの様に優磨と零次も、響達の顔を見た後にクスクスと押し殺す様に

笑い始めた為に、三人は顔を見合わせて“一体何だろう?”と首を傾げて優磨達

に問い詰め様とするも、ここで担任が入って来た為に、“授業後に‼”と、三人は

目で合図を送って座り直すが、やはり気になってしまい、担任の話も半分しか

入らず、もやもやした気持ちを引き()って授業を受ける結果となるが、

それは逆に優磨達も一緒で、後ろから三人を見ていれば授業に集中していない

事は分かる為に、普段は真面目な三人の意外な状況に、時折、凛や零次と顔を

見合わせては声を殺して笑っていたのであった。


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