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精霊士  作者: 円ひかる
第1章 運命
2/13

新学期初日 1

 西暦二五四七年 四月二日 木曜日の午前八時半過ぎ。

 町から少し離れた小さな丘の上に向かう一本道を、高校生であろう制服を着た

男女が歩いている・・・いや、登校していると云った方が正しい。

 時間的にはまだ早いのか、登校する生徒達の数はまばらで、その生徒達の

ほとんどが真新しい制服を着ている。

 そして、丘の上に建つ建物へと折れる色の変わった直線道路の前で、

 「入学おめでとうございます。」

「新入生の方は、正面に見える建物を潜った先にある中庭へ進んで下さい。」

と、上級生であろう男女四人が、真新しい制服を着た生徒達に向かって声を掛け、

それに従う様生徒達は、正面に見える建物へと続く中世の宮殿で見る様な

色とりどりの花壇が並ぶ広い直線道路を歩き始める。

 そう、今日は国立精霊第三高校の入学式である。

 広い直線道路を進んで正門を抜け、目の前に見える建物“教職員棟”の下を

進んだ先には、建物が三棟程余裕をもって建てられる程の広い中庭が現れる。

 その中央には、これまた中世の宮殿で見る様な大きな噴水があり、

その周りには木々が植えられており、処々にベンチも置かれ、

一瞬ここが学校だと云う事を忘れてしまう雰囲気を(かも)し出している。

 その噴水の前に、三台の掲示板が置かれており、その周囲を既に来ている

新入生達が取り囲んでいた。

 その掲示板には、各校舎・施設・教室等の名称とその場所を示した地図に、

入学式を行う場所とその開始時刻。

 その後に行われる始業式の開始時刻等が書かれているだけの簡素なもので、

新入生達は確認だけしてその場でいるようだ。

 この時代は、小学生の頃から携帯端末を所持しており、新入生達も合格通知と

共に、入学式の日取りや自分達のクラス等が事前に通告され、それと同時に

発行されるIDを使い、本校の情報アプリへもアクセスする事が出来る様に

なる為、施設や校舎等の情報は既に把握(はあく)している筈である。

 この様な事から、掲示板には必要最低限の内容しか貼り出されていない。


 入学式の開始時刻まではまだ四〇分以上あり、初めての場所と云う事と緊張の

所為(せい)もあり、更には左右に建つ校舎の二・三階の窓からは上級生達が(のぞ)いて

おりと、行き場のない新入生達は

“時間迄の間をどう過ごそう?”“何処か休められそうな場所は?”

と、友達同士で話し合う人だかり・・・とは少し違う雰囲気で、

「おい、あそこの・・・」

「ああ、あいつ等があの・・・」

 そう、周囲でコソコソと話している新入生達の視線の先には、掲示板から

少し外れた場所にいる男女四人ずつの同じ新入生八人がいるのだが、

如何やら有名人の様である。    

 確かに周囲の新入生達と比べると、妙に落ち着いた空気を(ただよ)わせており、

上級生の様な雰囲気を感じさせている。

 そんなオーラに、周囲は少し距離を置く形で注目しているのだが、

「まあ、こうなる事は解ってはいたものの・・・」

「・・・うん、こうもはっきりと解る見られ方はちょっとね。」

「なぁ大輔、・・・如何する?」

「どっ、 “如何する?”って、・・・そんな急に振られても・・・」

と、自分達が有名人と云う事を理解している所為か、周囲の注目は最初から

感じており、背中越しに刺さって来る目線と他の新入生同様、自分達も

行き場がない状況で、困り顔の男子三人が“大輔”と呼ばれた男子に振るが、

振られた本人も当然困っている為に、そのまま隣に立つ女子生徒へと

バトンを投げ渡すが、

「えっ⁉ ・・・ちょっとまだ四〇分以上も時間あるよ。」

「・・・あるね。」

「こんな困った場合は千穂ちゃんに!」

「えぇ⁉ 何で私なの!」

 そう、女子四人も男子同様に困っており、八人が“迷える子羊”と化し始め、

そんな事をきにしない周囲は、この有名人達と学園生活をこれから一緒に

送れる事に喜び出す声も()れ始める。

 そんな時、

「あっ、いたいた、あそこ!」

「おっ、やっと見つけた。

 おーいお前等! 探したぞ!」

と、何処からか声が飛んで来て、それに八人処か周囲の新入生達も振り向くと、

襟元(えりもと)の校章の色が明らかに違う背の高い上級生の男女四人が、人ごみを

()き分けながら八人の方へと向かっており、その四人を見た八人は

“救世主”か“女神”を見るかの様な安堵(あんど)の表情を見せ始めるが、

逆に周囲の新入生達は驚きの顔付きで見始めている。

「あの人達って、あの“四天王”の?」

「ああ、俺も生で見たのは初めてだが、背高けえ。」

「一つ上だけなのに、何であんなにも綺麗(きれい)でスタイルが良いの?」

「本当、モデル並みって云うかそれ以上よね。」

 そう、彼等も有名人らしく、新入生八人以上にざわついており、しかも

新入生の女子の中には上級生女子四人を見てうっとりと見惚(みほ)れる者も

出ている。

 確かに、この女子上級生二人はショートにロング

(正確にはポニーテールをしても腰の辺りまである為に見た目がロングに見える)

と違うが、とても高校生とは思えぬ落ち着いた雰囲気を漂わせ、一般的な高校の

制服を着させた場合はその綺麗さが邪魔をして返って浮く程大人びて美しく

見える位の存在である。

 方や男子上級生も一九〇㎝位の高身長に加え、体育会系のがっちりとした体

格の者と、眼鏡(伊達だが)をかけたオールバックの理数系の者と云う二人だが、

こちらも高校生らしからぬ大人びた雰囲気を漂わせ、女子生徒達が見惚れるのも

納得出来る程である。

 そんな四人が、まだあどけなさも残る新入生達の中に入って来たのだから、

唯でさえ目立ってしまうは言うまでもない。

竜哉(たつや)さん、麗華(れいか)さん! 良かった。」

「やっぱり困っていたな、お前達。」

「そりゃそうですよ。

 (いく)らホームページで分かっているとはいえ、

初日からあちこちいけませんし・・・」

「だわな!」

と、安堵した表情を出す新入生達に“竜哉さん”と呼ばれた上級生が笑みで応え、

「そうだと思って迎えに来たのよ。」

 そう、“麗華さん”と呼ばれた女子上級生が、応えながらショート髪の

女子新入生二人の後ろに立ちそれぞれの肩に手を置くが、この二人、

髪型が左右対称なだけで瓜二つと、如何やら双子の様である。

「優兄は?」

「梓や凛達と一緒にテラスで待っているよ。」

と、如何やら兄がいる様で、双子の一人が振り向いて麗華に聞くが、

それを竜哉の隣にいるショート髪の女子が応える。

 それを聞いた新入生達は、互いに顔を見合わせて笑みを出すと、

「さあ、皆が待ちくたびれる前にさっさと行くぞ。

 ・・・それに、俺達はいるだけで目立つからな。」

 そう、麗華の横に立つ理数系オールバックの男子上級生が、周囲から来る

目線を背中で感じながらも、()えて小声にする事なく(うなが)すと、

新入生達は上級生達の後ろに付いて、教職員棟とは中庭を(はさ)んで

反対側に建つ校舎の方へと消えて行くが、そんな彼等を呆然と見ていた

新入生達は、ようやく呪縛(じゅばく)から解放され、

「・・・いきなり凄い人達に遭遇(そうぐう)したね?」

「うん、・・・一瞬心臓が止まるかって思ったわ。」

「本当、存在感って云うか、オーラが全然違うよね。」

と、緊張の糸が切れたかの様で、皆、呆然(ぼうぜん)とした顔で彼等の消えて

行った方を暫らくの間見つめていた。

 そんな中、

「あの・・・」

 そう、一人の女子新入生が、隣にいる同じ女子新入生に声を掛け振り向くと、

「今の人達って?」

「えっ?」

と、如何も彼等の事を知らない様で、真顔で聞いて来た事に思わず驚きの顔を

見せるが、

「あっ、私、父の転勤で奥州から引っ越して来たばかりで・・・」

 そう、表情を見て直ぐに理解した女生徒は事情を話すと、聞かれた

女子新入生は理解して驚いた事に謝りながら、

「今の人達があの有名な“鷹城(たかしろ)”よ。」

「えっ⁉ あの人達が!」

と、教える女子新入生に、その名は全国処か全世界でも有名な為に聞いた

女子新入生は驚き、先程までの周囲の状況をようやく理解する。

「で、後から来た先輩四人何だけど、あの先輩達が鷹城の“四天王”の内の二組。」

「えっ⁉ あの‼」

 そう教える女子新入生に、聞いた女子新入生は更に驚き出すが、

「で、体育会系の人とその隣にいたショートの人が、

『火』の仙藤(せんどう)竜哉先輩と神崎夏美先輩で、

 超ロングでモデル並みの美人と眼鏡を掛けたインテリ風の人が、

『水』の水城麗華先輩に結城(ゆうき)伸明先輩。

 後、ここには来ていなかったけど、『地』の石渕(いしぶち)(あずさ)先輩と丹羽高弘先輩。

 そして、鷹城現当主にして『風』の鷹城優磨先輩の四組で“四天王”って訳。」

と、何処か(うれ)しそうに教えて来る彼女に、女子新入生は思い出しながら

聞いているが、ここでふっと一つの疑問が上がる。

「あの・・・鷹城当主のパートナーって?」

 そう、パートナーの名前を言っていない事に少し恐縮気味で(たず)ねると、

彼女の顔が急に曇り出し、少し(うつむ)き加減で、

「・・・(たちばな)瑞季(みずき)って先輩だったの。」

「えっ、だったって?・・・あっ!」

と、言い辛そうに教える彼女に、首を(かし)げた女子新入生だが、直ぐに何かを

思い出して“しまった”と、触れてはいけない地雷を踏んだ様に気不味い顔と

なるが、それを見て彼女は直ぐに“大丈夫、大丈夫、御免ね”と、微笑んで

肩を叩くと、気分を切り替える様に又話し始める。

「ふう、・・・で、今度は新入生の八人の方だけど、

 女子で髪が左右対称だけど瓜二つの双子がいたでしょ?

 あれが優磨先輩の妹達で、『火』の綾音(あやね)と『水』の鈴音(すずね)

 そんでもって、男子の中で一番背の低かったのが綾音のパートナー・北条(あきら)で、

 その洸と(しゃべ)っていたのが、鈴音のパートナー・高井保時(やすとき)

 で、新入生の中で一番背の高かった男子と、その後ろにいた大人しそうな子が、

『地』の溝口修二と倉橋千穂。

 そして最後に、

 竜哉先輩と話していた男子とその隣にいたサイドテールの女子が、

『風』の橘大輔と芦名(あしな)恵。」

 そう、彼女は明るく説明して来る彼女が、

「んっ? えっ⁉ 橘って、・・・もしかして先の?」

「そう、瑞季先輩の弟だよ。」

と、聞いたばかりの苗字が出て来た事に、女子新入生は恐る恐る確認するが、

サッパリとした表情で応えられると、心の中でホッと安堵する。

 すると、

「で、実は最初に話した“四天王”の事何だけど、

 あの形は世間体で本当は違うのよ。」

 そう、いきなり(てのひら)を返される様な発言をして来た彼女に、女子新入生は、

又、驚きの顔となって問い質すと、彼女は周囲を確認しながら“ちょっと向こうへ

行こうか”と、腕を(つか)んで教職員棟の壁際へと外れると、

「本当の“四天王”と云うのは、優磨先輩以外の三組の他に、

『地』の広崎(りん)先輩と、そのパートナーで『火』の片桐零次先輩が入るの。」

「えっ? えっ⁉ ちょ、ちょっと『地』に『火』って?」

と、新入生達の輪から距離を置いているにも関わらず、彼女は近付いて(ささや)

様な小声で教えて来るが、教えられた内容が普通では考えられない事に、

女子新入生は思わず声を大にして困惑し出すと、彼女は(あわ)てて口を

(ふさ)いで新入生達が聞いていないか確認し出す。

 そして、軽く溜め息を吐いた後、

「これは内緒の事何だけど、先輩達や一年生達全員“全精霊使役者(オールラウンダー)”なの」

「○△□☓‼」

 そう、口を塞いだまま耳元で教える彼女に、女子新入生は驚愕(きょうがく)の余り

“えーっ‼”と、()れんばかりの声を上げて驚き、彼女は塞いでいた手を

更に押し付けて、落ち着く様にと必死で促すが、無理もない事である。

 通常、誰もが単一の精霊を主体として使役して鍛えていくのだが、稀に

トップクラスの精霊士が、補助的に相対しない精霊を使役する事がある。

(例えば、主が『風』の場合、相対する精霊が『地』となるので、

 この場合は『火』か『水』が副精霊と云う事になる。)

 だが、この副精霊の使役数など、せいぜい主精霊の五分の一程である。

(五分の一でもあれば驚嘆(きょうたん)に値するだが)

 そう云った中で、約一万人に一人位の割合で“全精霊使役者”が出て来るが、

その力は非常に弱く、一般的レベルの精霊士の相手すら厳しい程低い。

 その理由は、単一の精霊を使役する事ですら一般的レベルの数になる迄に

長い年月が掛かるのに、相対する精霊まで使役するなど一生掛かっても

トップレベル処か、一般的レベルの精霊数になる事すら難しい為、

殆どの“全精霊使役者”は、その類稀(たぐいまれ)な特性を生かして、

精霊士の武器を制作・修復する “刀匠(とうしょう)”と云う

職業になる事が多い。

 しかし、この高校にいる“鷹城”の者達は、全員が “全精霊使役者”で、

尚且(なおか)つこの年齢で既にトップレベルと云う事に、女子新入生は

到底信じられない想いでいるのだが、

― “鷹城”に勝てる者など誰一人としていない。―

と云う世間での噂は嫌と云う程耳にしている為に、彼女から言われた内容に

驚きつつも納得する他なく、口を押えられた状態で大きく深呼吸した

女子新入生は、“もう大丈夫”と目で合図を送ると、彼女の方も

それを理解して、軽く深呼吸しながら抑えていた手をゆっくりと離す。

 そして、

「まだ凛先輩達は契約していないから“四天王”から外れているのだけど、

 近々、零次先輩が主精霊を『地』に変更して契約するって噂が出ているから、

 そうなった時が本当の“四天王”って訳。」

「・・・はぁ。」

 そう、彼女は嬉しそうに、そして何処か(ほこ)らしげに話すが、余りの次元の

違う話に、女子新入生は半呆然と聞き入っていたが、

「 あの、・・・もしかして、中学が一緒だったのですか?」

「大正解! 中部第六中学だよ。」

「・・・納得しました。」

と、余りにも諸事情に詳しいのと話す時の表情等を見て、女子新入生は心の中で

確証を持ちながらも半信半疑で尋ねるが、彼女はあっさりと認めた為に、何処か

気疲れする様な感覚で納得しながら、今一度、“鷹城”達が去って行った方を

感慨(かんがい)(ふけ)る様な眼差しで(なが)めるのであった。


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