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■「新たなる試み6」

 その日の夜。

 四人と別れた僕は、とある場所を訪れていた。


「今日は本当にありがとうございました」

「私も今日は楽しかったわ。君と少しは本気で戦うことが出来たんだから。

 さすが、バインズとレインフォード坊の薫陶を受けただけあって手ごたえがあったわね」


「いやいや、最後は立っているだけで精いっぱいでしたよ?」

「うふふ、君の最大能力を発揮できる大規模せん滅魔法が使えなかったんだから御の字よ」


 そう言いながら、レスガイアさんは僕の前に手作りの料理を並べていく。


「美味しそうですね。これって長命族(ルフィアン)の郷土料理ですか?」

「そんな大したものじゃないけどね。人間種には味が薄いかもしれないわ」


 目の前に並ぶ料理は、どちらかと言えば日本料理――もっと言えば精進料理に近い。

 肉類は控えめで野菜がメインといった感じである。


 僕は目の前の野菜のお浸しのような料理を一口食べる。


「うん、美味しいです。確かに味は薄めですけど野菜本来の味が感じられて」

「ふふ、それは元の人生の時の味に近いからかしら?」


 僕の過去を知るレスガイアさんはそう笑う。

 それはまるで我が子を見るかのように……弟子の子供は実の子供と一緒と常日頃言っているから実際にそう見ているのかもしれない。


「それでエ……ユーイチ君」

「いつものようにエルでいいですよ」

「それじゃエル君。何か聞きたいことがあるのよね?」


 そうレスガイアさんの方から促してくれる。


「レスガイアさんは、四賢公の血を引くことを知っていたんですよね? 僕と……」

「エリザやアリシャちゃん達。それとクリスちゃんね」


「やっぱり知ってたんですね。それって……」

「あまり言いたくはないけれど伊達に三百数十年も生きていないわよ。

 エリザが産声を上げた時から知っているんだから」


 その言葉にシュタリア家とレスガイアさんの繋がりの深さを知ることが出来た。


「それにね。人間種内では四賢公はタブー視しているようだけれど、亜人種内ではそこまで忌み嫌われる存在ではないの。

 まぁ……どの種族も人間種とはちょっと違った独特の感性の持ち主だからね」


 レスガイアさんは『独特』という部分に若干の含みを持たせながら笑う。


「レスガイアさんも四賢公の血を?」

「そうね。十六分の一ほどね」


 それは恐らく徹底的に淘汰された人間種から見ればかなり濃いといってもいいだろう。


「グエン領では四賢公の血を引いている人がかなり多いのですか?」

「そうね。人間種から見ればかなり多いわね。でも一方でかなり厳重に管理されてもいるの。

 四賢公の血が少しでも入っている人の婚姻はかなり制限されるの。管理外のイレギュラーが発生しないように。

 

 正直それが煩わしいから旅人になったってのも理由の一つね」

「……グエン領では大事件になってそうですね」

「さぁ、どうかしらね?」


 そう微笑みながらレスガイアさんはワインを美味しそうに飲む。

 レスガイアさんの話によれば、『グートリアン』の血筋は、十六氏族の力の均衡を取るために各氏族で保有人数を厳格に管理されているそうだ。

 始祖グートリアンは、長命族だったので四賢公の血をひくものは総じて長命となる傾向があるが、その分生殖能力は低く人数管理も比較的容易だそうだ。


 亜人種の本質は魔法よりも身体能力に傾倒するきらいがあり、魔法も各氏族でその身体能力を補い事に主体が置かれ固有の発展を遂げているらしい。

 例えば、猫耳族(ルーファ族)であるローザリアが僕たちと対峙した際に使用した土から武器を作り出す精製魔法は猫耳族固有の魔法で、彼らはそれを『精霊魔法』と呼ぶ。


「そうそう、この話は出来れば……」

「はい、僕の胸の内に秘めておきます」

「そうしてもらえると有難いわ。バルクスはそれ程でもないけれど、ウスリア教が浸透した王国では四賢公は存在しない存在。

 特にアーグ教なんてただでさえ亜人を良く思っていないのに、四賢公なんて異端者扱いだもの」


 アーグ教――魔導神ウズを唯一神とするウスリア教内で強硬派の分派として王国内では有名だ。

 バルクス領内では、宗教色がほぼ存在しないが逆に珍しいといえるだろう。


 王国のみに留まらず帝国、連邦でも国教扱い。よくぞクリスも王国の中枢にいて無事だったものである。


「それにしても……僕のとっておきのバインド魔法をあっさりと無効化されたのはショックだぁ」


 そうぼやく僕にレスガイアさんはからからと笑う。


「そこは魔法の深淵に触れてきた期間の差ね。

 後は長命族の固有魔法が『解析』と『身体強化』に特化しているというのもあるでしょうね。

 むしろ私からすれば二十年かそこらであそこまでの魔法を作り上げたエル君にびっくりよ」

「そう言ってもらえるだけで救われます」

「ただ、ちょっといじるともっと良くなると思うのよねぇ」

「ほうほう、それってどこですかね?」

「えっとね……」


 それ以降は、僕とレスガイアさんで夜遅くまで魔法談議に花を咲かせるのであった。


 ――――

 

 翌日、レスガイアさんの家に泊めてもらった僕は四人と合流する。

 そのまま冒険者ギルドに移動し、筆記試験を受ける。とはいえ、そこまで難しい問題ではない。


 どちらかと言えば、今後必要となる読み書き計算ができるかに重点が置かれており、曲がりなりにも貴族学校で勉強した僕達にとっては難しくはない……はずなのにラインは合格すれすれであった。


「いやはや、勉強している時間があれば訓練・訓練でしたからなぁ」


 と豪快に笑うラインに皆が苦笑いしたものである。


 兎にも角にも筆記試験に合格した僕たちは晴れて冒険者第一期生となったのであった。


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