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■「北の動乱2」

「あ、すみません。話の腰を折ってしまいましたね。帝国が反乱軍に対して五万人を動員した。それ以降の伝達をお願いします」


 自分の中での情報整理が済んだのであろう、リスティが伝令に話の続きを語るように促す。


「はいそれでは……反乱軍に関してですが、帝国側の予想に反して五千人ほどに膨れ上がっていたそうです」

「予想外の状況とは?」


 伝令の話によるとこうである。

 

 元々はガゼル地方は、ウィアン族と呼ばれる先住民が大多数を占め、そのウィアン族が反乱を起こしたということだ。

 その数は二千五百。その部分については帝国側の読み通りであった。

 だが実際には周辺の亡国グルス王国の生き残りを筆頭とした四等級帝国民と呼ばれる被支配層も次々と立ち上がったという。


 それにより二倍の五千に膨れあがることになる。


「だがそれでも五千、帝国がその十倍の五万と考えれば反乱軍が籠城したとしても有利であることに変わりはないのではないか?」


 僕は純粋に伝令に疑問を投げかける。

 それに伝令は複雑な表情をする。いったい何なんだろう?

 

「それが、そもそも反乱軍は籠城を行わなかったようで」

「籠城しなかった? ということは野戦だったと?」


「申し訳ありません、私がこちらに来る前に入手できた最新情報は籠城していない……という情報まででして」

「そうか、すでに四か月以上前の情報か」


 伝令が申し訳なさそうに語る言葉に思い出す。この情報は少なくとも四か月前、つまりは三月頃の情報なのだ。

 つまりは、長い冬が終わりようやく帝国側が行動を開始したギリギリの情報となり戦いの結末までは、伝令から手に入れることは不可能となる。

 

「やっぱりこの距離の壁は思いのほか大きいな……」


 現代社会に生きてきていた僕にとっては、情報は早ければ当日、しかもリアルタイムで手に入れることが出来た。

 それに慣れ親しんだ癖でついつい最新情報を入手できるもんだと思ってしまう。


「ご報告ありがとうございました。十分に休養を取っていただき引き続き情報収集をお願いします」

「はっ、ありがとうございます。それではこれにて失礼させていただきます」


 そんな僕に気づいたのだろう、代わりに伝令に対してクリスが謝礼とともに退室のタイミングを与える。

 それに伝令も敬礼をし、部下とともに執務室を退室していく。

 二人の姿が完全になくなった後、クリスは苦笑いとともに口を開く。

 

「エル、あなたの悪い癖……というか前世の感覚が抜けきっていないんじゃない?」

「まったく、おっしゃる通りだね。ついつい現状の情報が手に入ると勘違いしちゃうよ。改めてリアルタイムで情報を手に入れることが出来た有難さを思い知らされるね」


 そう僕も苦笑いとともにクリスに返す。


「さてと、それでも私たちは現状手に入った情報をもとに検討する必要があります。

 まず今回の反乱ですが……突発的なものではなくある程度計画されたものであると私は思います」

「というとリスティ?」


「まず勃発のタイミング、これは確実に帝国側が長い冬の間動くことが出来ないことを確信してのものでしょう。冬の雪中行軍ほど無謀なものはありませんからね」


 リスティの言葉に僕は前世のいくつかの前例を思い出す。有名なところでは十九世紀のナポレオンによるロシア戦役または二十世紀の独ソ戦だろうか。

 どちらも当時最強と名高い軍隊が甚大な被害を受けることになる。人はそれを『冬将軍』と呼んでいた。

 僕の見立てだと帝国はロシア的な立地条件だ。そして今回の場合は、変な話ではあるけれど帝国自体が冬将軍に足止めを食らったといってもいい。


 そして人というのは、長期間興奮し続けることは難しい。反乱勃発が判明した際はおそらく帝国中央も賊を討つべしという声が高らかに謳われたであろう。

 しかし長い冬を越えるうちにその感情は徐々に落ち着きを取り戻していく。


 だが反乱を起こした方は違う。その反乱にまさに自身の生命と一族の誇りを賭けているのだ。

 しかも四等級帝国民という呼ばれ方からして長年にわたる圧政に苦しんできていたことが推測できる。

 

 お互いの士気の差は明白、それが少なくとも兵力差を幾らか埋め合わせるだけの力となる。


「けれどそれだけじゃ足りない。それだけで十倍の戦力差を埋めることが出来ると考えているのであればよっぽどの天才か馬鹿ね」

「そうね。流石に馬鹿でないことを期待はしているけれど」


 クリスの言葉にリスティは苦笑いしながら続ける。


「先ほどの情報で最も重要であったのは、首謀者であるウィアン族のみならず他の四等級帝国民も参加した。ということなのです」

「どういうこと?」

「例えばですが、エルが王国に対して不満を持つ一族の当主だったとして、号令二百万……まぁ実際は五十万ほどでしょうが、そんな王国に僅か二千五百の勢力で対峙しようとしている別の一族に手を貸されますか?」

「なるほど、つまりは普通に考えれば勝算がほぼゼロといってもいい反乱に様子見ではなく積極的に参加したってことだね」


「はい、様子見……もしくは帝国に情報を売ることで自分たち一族に有利に動こうとするのではなく、参加したという事は余程の勝算がある情報を手に入れたと見て間違いないでしょう。

 それだけに今回の反乱。簡単には……いえもしかしたら帝国そのものが転覆する可能性も……」

「リスティの見立てだとどれくらいの期間になると思う?」


「そうですね。少なくとも五年は」

「そんなに……」


 僕の口からこぼれ出す寸前で止めた言葉がクリスの口から出る。

 五年も続く内乱ともなれば帝国の国力の低下は王国の後継者争いによる低下をはるかに凌ぐだろう。

 

「一つ気になったのですが……エルス」


 それまで聞き役に回っていたアリスが口を開く。


「なんだい?」

「この世界が滅亡に向かっていると言っていたという神……といっていいのでしょうか?

 その方に唯一あったことがあるから確認しておきたいのですが、この世界にはエルスと同じような存在はいるのですか?」

「僕と同じ存在……というと転生者が僕以外にもいるのかって事かな?」


 なるほど、僅かな人数で大国に反乱するとなればそれに見合うだけの能力……そう、僕と同じように『ギフト』でチート能力を身に着けた存在は確かに可能性の一つだ。だけど……


「直接聞いたことは無いから予想になるけれど。おそらく存在しない。と考えていいと思うよ」

「その根拠は?」

「以前、神から聞いたことがあるんだ。僕がバルクス伯に転生したのは適度な立地条件と適度な社会的地位の点で最高の人材だったって」


 実際にはもう一つ理由があるけれどね。とクリスにチラリと視線を送りながら心の中で呟く。


「神のモニタリングの最低条件が上の二つと考えるとわざわざ反乱を起こさなければいけない立場の人間に転生はさせないと思う」

「なるほど……であれば、別の視点で。神によってなんらかの聖遺物が反乱軍にもたらされたという可能性は?」

「それは…………あれ? 否定できないぞ」


 なんせ、あの神様は僕の行動によって面白くなることを期待していると言葉の端々に含んでいる。

 事態を大きく動かすためにやりかねない。


「なるほど、何となくですが神様のひととなり……で合っているのかは微妙ですが。は分かりました」


 そんな僕の言葉にアリスは苦笑いとともに答える。


「ま、とりあえず帝国の情勢については順次これからも注目していくという事でいいかな?」


 そう答える僕に皆は頷く。


 その時僕たちはまだ知らなかった。

 翌年、王国内で起こるある事件によって帝国の情勢にしばらく構っていられなくなるという事を――

いつも読んでいただき有難うございます。

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