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■「俺の壁を越えて行け2」

 バインズの開始の合図とともにレッドとブルーは始めて対戦した時と同様にエルに向かって駆け出す。


 魔術師との戦闘において取れる手段は大きく分けて二つ。

 その距離感を保ちつつ魔法による応酬か、武器の届く距離まで間合いを詰めるか。である。


 まず魔法による応酬は、相手が恐らく王国内でも指折りの魔力量を誇るエルである、二人がどれだけ効率的に魔法を使用したところでいずれはじり貧になることは目に見えている。


 となると二人にとっての選択肢は後者しかありえない。

 エルは本人も自認しているが、剣術の才能はあまりない。勿論、バインズを師と仰いでいるから常人よりは圧倒的に強い。

 だがそれでも武人といわれるまでには達してはいない。あくまでも中の上といったところであろう。


 ゆえにエルは、自身の戦闘スタイルとして剣術は魔法の補助のため程度にしか考えていない。

 一方、レッドとブルーは、剣術(ブルーの場合は槍盾術だが)については元々の武才と、日頃の鍛錬により武人の域を超えている。

 さらに二人もいるのだから近距離になればエルの勝ち目は相当厳しくなる。


 勿論、その結論になることはエルも十分に承知しているから、初戦の時と同様――あれ以降にも数多くの魔法を開発したことで選択肢が増えているにも関わらずあえて同じ戦法を取る。

 それは二人の実力がどれだけ上達したかを測るため……。


 ――――


 レッドの速度は身体の成長によりあの時よりもさらに磨きがかかっている。二十メートルの距離をあっという間に詰めると剣を打ち込んでくる。


(おいおい、あの時と同じか?)


 同じような攻撃に僕は少しだけがっかりしながらもエアシールドを展開する。

 僕としては、剣を弾き一気に主導権を奪う寸法である。


 だがレッドから振り下ろされる剣に僕は違和感を覚える。

 僕が右手に持つ剣と同じ方向から振り下ろされるレッドの剣……それはつまり……


(左!?)


 レッドの()()から振り下ろされた剣は本来の鋭さはない。

 だが適度に脱力した剣は、強固だが大小問わず一度衝撃を食らうと霧散するという唯一ともいえる弱点のあるエアシールドに当たる。


 それは僕たちの知らない事であったが、かつてアインツとローザの模擬戦でローザがとった戦法と同じ。

 だが、ルーファ族の優れた聴覚と身体能力を誇るローザだからこそ短期間で成功したに過ぎない。


 人間種であるレッドがそれを可能とするにはどれだけの訓練が必要であっただろうか。

 もちろん練習相手も必要なわけで、魔力消費も決して少なくないエアシールドを幾度となく展開するだけの魔力量を持っていたことも推測できる。


 一瞬驚いたものの僕は次の攻撃に備えるためにエアシールドの無詠唱展開を始める。

 けれど僕の頭の中に浮かぶのは疑問。本来右利きのレッドが何故左側に剣を持ったのか?

 

 だがその疑問はすぐにわかる。

 

 エアシールドからの衝撃を最小限に抑えたレッドは、何も持っていないはずの右腕を逆袈裟懸けの動きで振ってくる。

 何も持っていないのだから無意味な動き……だがその握りしめた右の(こぶし)に隙間が空いていることに違和感と何ともいえぬ危険を感じた僕は咄嗟の動きでその右腕の進行方向上にエアシールドを展開する。


 『ガキン!!』


 訓練場に響き渡る金属音にも近い衝撃音。だがそれは何も触れたものが見えない異常な光景。


「くっ、失敗か」

「いやはや、なかなかに面白いね」


 再度、ある程度の間合いを開けた僕はレッドに笑いかける。ま、本心は大混乱真っ最中だけどね。


(なんだ今のは? 知らないぞ!)


 そう今の攻撃? は僕の知識にあるどの魔法にも当たらない。

 近いのはエアハンマーであるが、圧縮した空気を対象に放つある意味豪快な魔法だから今みたいにまるで剣のような軌道で発動させることは出来ない。


 もちろん僕の知らない魔法は存在するだろうが、攻撃魔法についてはその殆どを把握している自負はある。

 あるとすれば王都の図書館で厳密に管理されている国家機密級の戦略級上級魔法くらいだろう。


 もしくは教科書や魔導書に載っていない魔法の殆どは、僕が開発した魔法ってことになるけれど自分が開発した魔法を忘れるほどに年は取ってはいないはずである。


(…………いや、待て待て。なにも僕だけが魔法を開発できるってわけでもないだろ?)


 『四賢公』の血を引いているのは僕だけじゃないってのは分かりきっている事じゃないか。

 そう考えるとさっきのエアシールド対策の練習相手の件も含めて影が見え隠れしてくる。


「ブルー! 第二作戦だ!」


 魔法に対応可能な絶妙な距離感を保ちながらレッドは相方のブルーに大声で指示する。

 その指示にブルーは何かを投擲するような仕草をする。だが何を投げたのかは見ることが出来ない。


「くっ! エアシールド!」


 その動きに言い知れぬ危機感を覚えた僕は、普段言わない魔法名を口走ると同時にエアシールドを多重展開する。

 刹那、そのエアシールド上で小規模爆発が多数発生する。その様はまるでクラスター爆弾のようである。


 一つ一つの威力は低いがそれでも多重展開したエアシールドが次々と破壊されていく感覚を僕は感じる。

 それに僕は追加でエアシールドを多重展開する。無理やりの急速展開に魔力がガリガリ削られるが今は出し惜しみをしている場合ではない。


 その小爆発が止んだ時、エアシールドの残りは僅か二枚であった。


(まったく、これも知らない魔法じゃないか)


 レッドのみならずブルーも僕の知らない魔法を使う。それが僕の仮説をさらに確実なものにする。


「もう一つ!」


 無事だった僕の様を見ていたブルーは再度、投擲する仕草を見せる。

 この魔法は確かに凄い。けれど……


「現象と来る場所さえわかれば対処方法はいくらでもあるけどね」


 僕は呟くとともに別の魔法を展開する。


 すぐさま僕の上空で同じように多数の小規模爆発が起こる。


「え……なんで……」


 その光景を少し離れていたレッドから戸惑いの声が漏れる。

 さっきはエアシールドを破壊するたびに僕へと近づいていた爆発が、一定の場所から動かないからだ。


 簡単な話だ。先ほどと違い空間固定型エアシールドに切り替えたからだ。

 指定空間に展開することで長時間強固な盾を展開できる反面、その展開のためには動くことが出来ないという欠点がある。

 つまり動きながら戦う戦闘に関してはすこぶる相性が悪い。

 

「これだと防戦一方になるのが玉に瑕なんだけどねぇ」


 そうボヤキながらも僕は自身の口元が緩むのを抑えきれない。


 二人ともにあの頃に比べて本当に強くなった。

 いや、強くなったことは、騎士団長としての実績を報告として聞いていたから分かってはいた。

 それでもこうして対戦することで実感として感じることが出来たのだ。


 魔術師偏重といえるエルに対して、二人とはいえ剣士が模擬戦で勝利するのはそもそもが難しい。


 もちろん実戦であれば、その不利を少しでも有利に変えるための戦略・戦術が確立している。

 とはいえ多くが魔術師の魔力を枯渇させる方針の物量作戦ではあるのだが……剣士にとっては魔術師は自然災害に等しいのだ。

 これも魔術師の絶対数が圧倒的に少ないからこそバランスが取れているともいえる。


 そんな中で言い方は悪いが、僕としては二人がどこまで善戦できるか? が見たかったわけである。

 まだ魔法の応酬という形での緒戦ではあるが、二人が本気で僕に勝とうと対策を立てていることが十分に分かった。

 正直、複数のエアシールドを無詠唱で使えなければ非常にやばかっただろう。


(まったく、あんな宣言さえしなければ気持ちよく褒めてただろうにな)


 そう心の中で呟きながら僕は二人に視線を送る。


「さて、まだまだこれから、楽しませてよ」


 そう僕は笑うのだった。


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