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■「マリーのお願い1」

「いやはや、こんなに早く見通しがつくとは嬉しい誤算だなぁ」


 魔法の方向性が見えた僕とマリーは、研究機関の建物の裏にある庭で紅茶を飲みながらのんびりする。

 現代日本のように労働時間きっかり……いや労働時間以上にしゃかりきに働く必要性はない。


 こうしてのんびりする時間も大事なのである。

 うんうん、クイに当主代理をお願いして自由な時間が増えたのにさらに働くのは勘弁してもらいたいところだ。


「それでお兄様、今回の魔法の見通しが出来たら次は何を検討しましょうか?」

「うーん、いくつかあるけれどそこまで危急を要していないからさ。のんびり行けばいいよ」


 正直僕の予定では今回の魔法だけでも少なくとも半年くらいの計画でいたのだ。


「頑張ってくれるのは嬉しいけれど、最初から頑張りすぎても息切れしちゃうからね」

「そう……かもしれませんね。つい、お兄様のお役に立ちたいから張り切りすぎちゃったかもしれません」


 そういうマリーの頭を僕はポンポンと優しくたたく。それを嬉しそうにマリーは目を細める。



「そうだ、お兄様。時間的な余裕があるのであれば一つやりたいことがあるのですが……」

「うん、なんだろ?」


「バルクスだけではないのですが、魔術師の殆どが貴族の末弟や富裕層です。

 それは魔法教育を受講するには少なくない金銭が必要だからです」

「そうだね。教育場所が貴族学校だけに絞られているからね。

 貴族学校に通えない場合、親が教育するとしても親自身が教育できるだけの知識と財力が必要になるから」


「言っては何ですが、そのほとんどの魔術師が魔力上限が低いと思いませんか?」

「……特に貴族の子弟はねぇ」


 バルクスの騎士団には現在全部で千名ほどおり、貴族家の中では比較的多い方であろう。

 魔術師を低・中・高位で分けた場合、三対六対一といった感じだ。

 この配分は実はトップクラスで、実戦経験が多いことが最大の理由だ。


 バルクス以外の場合は、良くても六対三対一といったところで、低級魔法しか使えない魔術師の方が圧倒的に多い。

 高位魔術師が一人もいない方が珍しくないともいえる。


 だからこそ中位魔術師以上は重用されるわけだけれどね。

 そして魔術師になるための教育を受けられる筆頭である貴族というのは、実は魔力量は高くなかったりする。

 初級のファイアーボールを一発撃って、さも出来るだろう感を出している貴族家の奴が学校にもいたなぁと思い出す。


 僕は、魔力量の爆発的な上昇が見込まれる幼少期に訓練するような努力家がいないのが原因なんじゃないかと思う。

 実際、子供の頃から僕と練習していたクリスやベルは楽々高位魔術師だし、途中参加のアインツやユスティ達だって中位の上である。


「バルクスは、銃や大砲によって戦力は増強されました。ですが魔法もまた重要だと思うんです」

「アルーン要塞での戦いでも魔法は大活躍だったしね」

「今回のボーデ領への魔物侵攻を機に恐らくですがただでさえ少ない魔術師の確保に動き出すのではないかと思うのです」

「それは確かにあり得るね。しかも国内自体もきな臭くなってきているからね。

 いずれ在野にいる優秀な魔術師の奪い合いになるかもね」

「そうなるとバルクスではいずれ優秀な魔術師の雇用が難しくなる可能性があります。

 ですので研究だけではなく教育にも力を入れるべきだと思うのですが……どうかな?」


 それは僕も教育部門……つまりは無償教育の延長線で専門教育を行う学科制として検討していたことである。

 でも確かに魔法の研究機関が出来たのであれば並行して教育機関を作るのもありかもしれない。


「こういうことは、予算とかいろいろ関連するからクリス達も含めて話そうか」


 僕の提案に、マリーは頷くのであった。

 

 ――――


「あら? 今日は体調がよさそうねエル」

「うん、今日は調子がいいから散歩して軽く運動しようと思ってね」


 執務室を訪ねた僕とマリーをクリスは、軽い冗談を交えて迎えてくれる。

 こういったやり取りに『不謹慎だ』とか喚く人も現れそうではあるけれど、これもアリバイを作る意味でも必要なのだ。

 此処のみんなは知っているとはいえ、あくまでも僕は病気によってクイに当主代理を頼んでいるという立場なのだから。


「クイ、どうかな? 大変じゃない?」

「ようやく慣れてきました。これもクリス義姉さんやアリス義姉さんのおかげです」

「まじめにやってくれる分、エルスよりも優秀かもしれませんね」

「そいつは反論できないなぁ」


 クイに状況を尋ねた僕に、アリスは冗談交じりにお小言を言ってくるがサラリとかわす。

 そのやり取りを聞く他の執務官たちも慣れたもので自分の仕事を黙々と続けている。


「それで、マリーも連れてここに来たのは何か用があるの?」

「うん、マリーから提案されたことについてクリスやアリスの意見も聞きたくてさ」

「マリーからの提案?」

「そ、これからの魔術師事情についてね」


 そう返す僕の言葉にクリスとアリスは顔を見合わせるのであった。

 


「なるほど、魔法の研究だけではなく養成も併せて実施したい。と」

「うん、クリス義姉さま。駄目……かな?」

「あーん、そんな可愛らしい目で見たらだめって言えないよぉ」


 そう言いながらクリスはマリーのことをぎゅっと抱きしめる。うん、百合百合しくて素晴らしい風景である。


「まぁ、クリスの冗談はさておき……」


 マリーに抱きついたクリスをぺりぺりと引き離しながらアリスが口を開く。

 クリスから『あーん、アリスの意地悪ぅ』という抗議の声が上がるが完全無視である。


「私たちも今後訪れるであろう魔術師不足については、考えてはいました。

 どれだけ銃や火砲が発達したとしても魔法は切っても切れないですから」


「科学技術と魔法技術。その両輪の向上こそがバルクスの強みだもんね」


 僕の言葉に皆頷く。


 確かに僕が導入した科学技術は、軍事・政治・経済を一気に向上させたといえるだろう。

 けれどその科学技術は、魔法が存在しない地球の技術だ。

 

 その両方の特性を生かすことで大きく発展する可能性を秘めているのだ。

 例えば、現在ベルが鋭意開発中の『魔導エンジン』が最たるものであろう。

 科学技術の粋であるエンジン構造と燃料の代替品となる魔力。その融合によって少しずつ形になりつつあるのだ。


 現に人力程度のパワーを出せる魔動エンジンの試作機は、バインズ先生の左義肢としてモニタリングが開始されている。

 今のところは力加減に苦労しているようだが、少しずつ改善は進んでいる。


 つまりは魔法技術の向上のためには、バルクスとしても何らかを実施する必要があるわけである。

 そういった意味ではマリーの提案は理にかなっているといえるだろう。


「マリーの負担的には大丈夫なの?」

「うん、お兄様が手伝ってくれたおかげで当面の間考えなきゃいけない件については解決しそうだし、最初は少人数から始めるつもり」

「僕としては、マリーからの提案だから出来ることならばかなえてあげたいんだけれど。どうかな?」


 そう返す僕の言葉に二人は考え込むのであった。

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