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■「会食ふたたび1」

「やぁ、エルスティア。待たせて悪かったね」

「いや、構わないよ。王都が初めてだった子供たちの物見遊山を堪能させてもらったからね」

「そうかい、それならこちらも気が楽になったよ」


 王国歴三百十七年十月四日。王都に帰還したリンクロードと僕は、奇しくもキスリング宰相と会食を行ったレストランで再会した。

 こちらからはクリスとアリス、ユスティ、そしてメイリアの計五人。

 リンクロード側は、レザリンド執務長官ともう一人の計三人。


「あぁ、そういえばこいつとは初見だったな。こいつは私の弟のオーベリックだ」

「あなたがオーベリック殿ですか。お会いできて光栄です」

「私もですエルスティア殿。以後お見知りおきを」


 オーベリックの名は、クリスやアリスから聞いていた。リンクロードが自身の才能を隠してのらりくらりとしているのに対して、オーベリックは優秀な人物として評されている。

 リンクロードの本質を知らない者たちの中には、ファウント公爵家の次期当主はオーベリックこそ。と言うものすらいるほどである。


 兄弟らしく顔はリンクロードを少し華奢にした感じで身長はややこちらの方が高いくらいだろうか。

 その鋭い眼光は一瞬こちらを値踏みするような感じだったが、まぁこちらもそんな目で見ただろうからお互い様だろう。


「それじゃぁ食事でもしながらお互いの近況でも話すとするかね。ま、両方共に戦ばっかだったろうけどさ」


 そんなリンクロードの言葉を開始の合図とばかりに会食はスタートするのだった。


 ――――


「……ってことで、こちらの反乱軍の残兵対応は部下たちにお任せって感じさ。どうせ奴らには力は残ってないから総司令官がいる必要もないしね」

「こちらもクイが北部貴族連合の掃討戦中かな。こちらはそろそろ完了して主都に帰還しているだろうけどね」

「義弟殿には無事でいてもらわないとな。結婚早々ニアが未亡人になってもらっては困るからな」

「兄上。縁起でもない」


 少しお酒が入って陽気になったのかリンクロードをオーベリックが窘める。その感じからこの二人の関係は普段から変わらないのだろうと思わせる。


「それで提供した『アストロフ』はどうだったかな?」


 後継者争いに端を発する獅子鷹戦争に際してバルクスから提供された改良型大砲が初めて使用された。その性能について確認する。

 今回、普段参加しないようなメイリアにも参加してもらった理由がこのフィードバックなのだから。


「敵の防衛陣に風穴を開ける意味では非常に優秀です。ただやはり耐久性の部分がネックになりますね。

 使い終わった後は、進軍のことを考えればどうしてもその場に放棄することになる。そうすると場合によっては敵側に奪われる可能性があります。

 それは技術漏洩になりますからできれば避けたいところです」

 

 恐らく使用時の責任者だったのだろうオーベリックが答える。それに対してメイリアが口を開く。


「それに関してですが以前お伝えしたように黒銀を使用している以上、耐久性という部分については改善というのは難しいところです。

 ですが取りまわしに関しては改善を考えています」

「ほう。それはどういった?」

「提供させていただいたアストロフは、一体型ですが各パーツに分解、再組立てが可能となる新型を開発中となります。

 分解することが出来れば馬車や牛車に搭載して輸送することも簡単になります。

 こちらについては完成次第、サンプルおよび設計書(・・・)を提供させていただきます」

「設計書も……ですか?」


 設計図。いわゆるブループリントは、いわば秘中の秘といってもいい。

 それがあれば今後はバルクスを通さずとも材料さえそろえればファウント公爵家で大量生産が可能になるのだから。


「えぇ、此度の獅子鷹戦争の戦勝祝い。そう考えてください」


 オーベリックの言葉にクリスが笑顔とともに答える。

 もちろんこちらの思惑もあるし、恐らくオーベリックたちも理解しているだろう。


 結局大砲というのは、砲身だけでは何もできない。火薬と砲弾が必要だ。

 砲身と同じく恐らく砲弾もファウント公爵領の生産力があれば大量生産は容易だろう。ファウント公爵領はアメリカ並みの大量生産が可能なほどの工業力を持っているのだから。

 アストロフで使用する砲弾は、榴弾や徹甲弾ではなく、いわゆる金属塊――この世界だと銅や銀を主体としている。

 だけど火薬に関して言えば別だ。これに関してはバルクスの専売特許。この情報が漏れたとしても肝要となる『硝石』の大量入手はバルクスしか不可能。

 なので榴弾や徹甲弾をファウント公爵が独自に製造することも難しいだろう。


 糞尿と石灰石などから硝石を析出させる「硝石丘法」があるが、その技術を知っているのは前世の技術を知る僕たちだけだから現実的には不可能。

 大砲を大量生産することは、バルクスへの依存が高くなる。それは次期王家において筆頭公爵となるだろうファウント公爵との繋がりを強くし、王国内におけるバルクス辺境侯の立場も強固なものとできる。


 そして現時点では、大砲の提供先はファウント公爵への専売とする予定だ。

 複数に技術を渡せばそれは将来の戦争における被害を拡大させる可能性がある。僕としては『国家総動員』体制は可能な限り遠い将来のことにしたい。

 民主化の道はまだ遠い現状、僕たち以外では中央のみ強力な軍隊を持っていた方が正直都合がいい。


「その提案はありがたいです。それならこちらからも希望があるのですが?」

「なんでしょうか? レザリンド様」

「大砲を使用するのに必要となる『火薬』について定期的な販売路を構築させていただきたい。

 もちろん貴重であることは理解しております。ある程度値段については妥協させていただきます」


 こちらが持ってくる話をある程度想定していたのだろう。レザリンドが提案してくる。

 かつてユーラシア大陸に存在した絹の道(シルクロード)ならぬ火薬の道(ガンパウダーロード)と言うべきだろうか。かなり物騒だが。

 その提案にアリスが微笑む。


「はい、もちろん検討させていただきます。

 以前提案させていただいた王都までの主要道路の整備もこちらを考慮しておりますので」

「では詳細については、後日改めて。こちらのメリットも十分にありますので主要道路の整備に関する費用についても出来る限りこちらから負担させていただきます」


 その言葉は、整備にあたっての資金繰りを検討していた僕たちにとって最も欲していた言葉の一つであった。


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